1-17.はじめての調査依頼

 はじめにギルドを訪れてから3日後、アリス達は朝の6時丁度に、ギルドの受付を訪れていた。



 前日に予め、ギルドはどれくらいの時刻から仕事を始めているかを確認しておいたところ、大体5時ほどにちらほらとギルドの職員が出社し始めていた。

 その後少し間を空けて、6時から8時頃にかけて来訪者と思われる人の流れが出来るというのが確認できたため、おそらく前者はギルドに務める事務員で、ギルドを訪れる人間よりも早めに準備を始めるのだろう。


 そのため、早いぶんには問題なかろうということで6時に訪れることにした。遅れて悪印象を持たれるよりは余程良い。


 なお、少なくとも2日間にわたりこの街を探索をした限りでは、時計に類するものを見かけることは無かった。

 特に鐘の音がなるということもなかったため、住民や太陽の具合や体内時計のみで現在の時間を把握しているのだろう。


 ちなみに私達は、日の出日の入りのタイミングや太陽の位置で現在時刻を計算出来たために、ほぼ完全な時刻を把握している。



「ごめんください。先日探索員となりましたアリスとマリオンと申します。タイダル様より、本日の朝こちらの窓口から依頼を受けるよう伺っております。」


「アリスさん、マリオンさん、おはようございます。タイダル様より、お二人にお任せする依頼を預かっています。それにしてもお早いですね。もしかして、遠征の方と同じ時間に合わせていましたか?」



 なるほど、少し早めに訪れていていた人の流れは、仕事の場所が街から離れている人間達だったらしい。

 どうやら私達はもう少し後に訪れてもでも問題なかったようである。



「もうしわけありません。いつ頃訪れるべきか確認しそこねていたため、なるべく早い方たちに合わせたのです。ご迷惑でしたら後ほど出直しますが、いかがいたしましょうか?」


「いえいえ、既に業務は始めていますので問題ありませんよ。中には昼に近い時間に訪れる方もおりますし、時間をしっかり把握されているというのはこちらとしても助かります。」



 とりあえず、この時間でも問題はなかったようだ。

 しかし、あまり早すぎても迷惑になるだろうし、今後はもう1時間ほど遅らせても良いかもしれない。



「ところで、お洋服を変えられたんですね。似合っていますよ。」


「ええと…ありがとうございます。」



 アリスは現在、水色のエプロンドレスから、動きやすい服装へと着替えている。


 薄茶色の麻のワンピースの上からは、体の各所を補強するように革製のガードが縫い付けられている。

 手足も皮製のグローブとブーツで包んでおり、多少のフィールドワークなら怪我の心配は無いだろう。


 これは、アッシュ達の格好を参考にしてマリオンが見繕ったものである。

 おかげで、昨日は丸一日街中を歩き回り、ずっと着せ替え人形とされていた。

 まぁ、元のエプロンドレスのほうが丈夫であるし、この体では怪我などするはずもないのだが。


 ちなみにマリオン本人はメイド服のままであり「私はこれが作業服ですので」と言っていた。納得がいかない。



「さて、今回対応していただく依頼は街周辺の薬草の分布状況調査になります。調査をしていただく薬草については、添付している資料に詳細があるためそちらをご確認ください。それと調査期間は3週間になります。期間に終わりそうにない場合や相談がある場合などは気軽にお尋ねください。」



 依頼の説明が始まったため、頭を切り替える。



「概ねの分布というのは記録されていないのですか?」


「残念ながら、調査対象の薬草はどういう特性なのか、毎年群集する場所が移動しているようなのです。また旬を過ぎると品質が落ちてしまうため、まだ生え始めの時期に調査員が事前調査を行うことになっております。」


「なるほど。調査範囲は街の周囲全域となっていますが、距離はどの程度までになるでしょうか?」


「距離に関しては可能な限りになります。ですが最低でも壁から150mほどは調査していただきたいです。また、全周の調査は必須となりますので、ご注意ください。」



 探索する壁からの距離は比較的自由とはいえ、街の全周となると調査調査はかなり広いようだ。

 この街を覆う壁は全周およそ5キロ程度となるため、ぐるりと歩いて廻るだけでも2時間程度はかかるはずだ。

 それを周囲を探索しながらとなると、3週間という長い期間も納得である。



「調査報告の提出方法はどのように行えばよいですか?」


「簡易な地図の写しが資料に含まれますので、そちらに記載してください。何か気になる点などありましたらそちらも口頭か、紙などに記載して提出していただければと思います。後者の場合の経費については請求していただけますが、あまりに粗末な情報の場合は受理されないこともありますので、ご注意ください。」



 なるほど。まぁ、調査結果を図とレポートにまとめろということだろう。

 面倒ではあるが、ある意味では、慣れ親しんだ仕事である。



「なるほど、大体分かりました。あ、あともう一つ。薬草についての資料が簡易な絵と文字しか無いようなのですが、形の詳細が分かる資料や実物が見れる場所はありますか?」


「それでしたら、3階の図書室に司書がいるのでそちらを尋ねるか、街の薬屋を回るのが良いかと思います。ただ、薬屋ですと店によっては加工済みのものしか取り扱っていないかもしれません。」


「ありがとうございます、念のため両方訪ねてみようと思います。以上でこちらからの質問はありません。」


「はい、それでは初のお仕事、がんばってくださいね。」



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【この世界の技術レベルについて】


時計はその複雑な構造を再現できる人間がおらず、技術が喪失してしまいました。

一部にはマナコーティングのされた高級時計が残ってはいますが、少なくともこの街に、大衆向けの時計はありません。

一応、ギルド長とアッシュは、はかつての遺物である懐中時計を持っています。


紙や筆記用具のようなある程度手作業でも生産できるものに関しては、魔法を補助として利用することである程度量産ができるようになっています。

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