1-10.第一街人?発見

 あれからおおよそ2時間ほどは歩いただろうか。

 太陽の高さからすると、おそらく今は昼を少し過ぎた頃のはずである。



 この体は特に疲れることもないのだが、景色がずっと代わり映えしないこともあり、さすがにちょっと精神的につらくなってきていた。

 道はまだ続いているわけだし、一旦休むべきか…そう考え始めたときだった。



「……何か遠くから聞こえるような…?」



 ほんの僅かにではあるが、どうやら遠くの方から金属を叩くような音が聞こえたような気がする。

 耳を済ませようと意識をすると、ヘッドホンのボリュームを上げたかのように、鮮明に音が聞こえてくる。



「アリス。前方より、何かが近づいてきているようです。」


「はい、こちらでも音を拾いました。歩行音に…金属音、人間かもしれません。」


「流石に性能が高いですね。私には、何かの音が近づいていることしかわかりませんでした。いかが致しますか?」


「とりあえず接触してみましょう。いや…向こうにもなにか動きが…これは、何かの動物?」



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「これは…どういう状況でしょうか。いえ、野生動物に襲われている、というのはわかるのですが…。」


「どうやら想定している以上にややこしい状況らしい…。あ、すみませんお姉様。」


「はい。人前に出るときは今以上に気をつけてくださいね。」



 聞こえる音から何らかの非常事態が伺えたために急いで駆けつけたのだが、あまりに不可解な光景に思わず道脇の木陰に隠れてしまった。

 正直頭を抱えたくなる状況…100mほど先で、3人組の人間が、イノシシのような動物に襲われていた。

 だが正直、それが問題なのではない。彼らの格好があまりにも…そう、あまりにも、自身の常識から乖離をしているのだ。



 布の服、コレは問題はない。少しくたびれつつも丈夫そうな布地は恐らく麻だろうか?量販店で売っているような服には見えないが、まぁいい。


 皮の胸当て。革製品なのは問題ない。だがベストでやジャケットではなく、胸当てである。そんな物は博物館でしか見たことがない。


 そして極めつけは…剣だ。何の金属かまではわからないが、盾を片手に剣を振り回している男の身のこなしを見るに、日頃から愛用しているものと考えていいだろう。


 その後ろに控える二人も、弓と……木の棒…いや、あれは杖だろうか?



 ファンタジーか?????



「異世界転生だったかー……」


「現実逃避はやめてください、アリス。少なくとも通ってきた地形を考えるに、別の世界という可能性は低いです。」


「何がどうすれば、剣と魔法の世界に文明が推移するんですか、お姉様…」


「とりあえず話を聞いてみるのが早いのでは?ところで、苦戦しているようですがどうしましょうか?」



 改めて木陰から観察をしていたのだが、どうやら相手はかなり獰猛らしく、剣と盾を持った男が抑えきれていないようだ。


 一般人が野生動物に襲われればひとたまりもないものだが、そこはあのような装備をしているだけあって、善戦はしているのだが。

 まぁイノシシを相手に剣はなぁ…というか、妙に牙がでかいが本当にあれはイノシシなのだろうか?



「イノシシかどうかは置いておいて…あのくらいのサイズなら、なんとでもなりますかね。」


「手助けするのですか?」


「はい、折角の第一住民ですし…あのままだと怪我をしそうですからね。」



 放って置いて怪我をされても気分が悪いし、そんな時に接触をすれば向こうも警戒をしてしまうに違いない。

 どうとでもなる相手であるし、ここは手助けをして恩を売ることにする。


 そう決めてすぐ、混乱する頭を瞬時に切り替える。

 この頭はその気になればしっかりとクリアに回ってくれるのだ。

 そして明晰な頭脳の他にも、この体には非常に優れた点がある。



 ここから直線にして100mちょっと。途中に大きな障害物はない。対象は恐らく100キロは超えるであろう大型の野生動物。


 これなら全く問題はない。折角だ、性能テストも兼ねて人助けといこう。



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文明は衰退していました。

というか、ファンタジーにジャンルが変わっていました。

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