1-8.爆心地
「……これはなかなか、凄まじいな光景だな。」
「音と光の発生場所は、あそこで間違いなさそうですね。」
研究室を出てから徒歩でおよそ40分ほど歩いただろうか。
道はボロボロになっていたものの、マナリアクターの実験場があったであろう場所には、問題なく到着することが出来た。
あったであろう、というのは、目の前にあるのが施設ではなく、おそらくそれであったであろう瓦礫の山だったからである。
今アリウス達がいる場所から先は不自然に植物が枯れており、数十メートル先からはほぼ何もない荒野と化していた。
そして200mほど先には、施設が倒壊したであろう、大きなガレキの山が横たわっている。
そして、ここに到着する前から少しづつは感じてはいたのだが、どうやらここはあまり長居をするべき場所ではないらしい。
「あれはもしかして、マナ災害の跡か?」
「少なくとも、平常のマナ濃度ではなさそうですね。」
荒野に積まれたガレキの山からは、陽炎のようにわずかに赤みを帯びた光を放たれている。
通常、マナを利用する際はリアクターを用いてマナ結晶から取り出すという手順が必要だ。
そうしたとき、取り出したばかりの高濃度のマナは、マナ結晶の色に似た赤い光として観測をされる。
その光が、マナ結晶とは無縁のはずの瓦礫の山から、いまもジワジワと放出されているのだ。
それはつまり、極度に高濃度のマナに長期間さらされたことで、あの瓦礫自体にマナが残留してしまっていることにほかならない。
こうした現象は一般にはあまり見られず、高出力のマナリアクターの廃材であったり、同様の施設が破損するような大事故の現場でしか見られないものである。
そして、そのような高濃度のマナが不作為に反応することで発生した事故は、マナ災害と呼ばれる。
これは滅多に発生するものではないものの、マナの反応の仕方によっては甚大な被害を生む非常に危険な現象である。
「少なくとも数十年にわたってマナが残っているとなると、相当の事故だったか。」
「もしくはまだ、稼働中のリアクターが瓦礫の下に残っているのかもしれませんね。」
「暴走したマナリアクターを撤去できずに施設を放棄した、たしかにそれもありうるな。」
遠巻きに、あの場所で何があったかについて、考察をする。
一応、調査のためにあの場所に足を踏み入れることは、不可能ではない。
だが、高濃度のマナ下ではちょっとしたイメージが予期せぬ反応を呼び、再びマナ災害が発生する可能性がある。
そのため、たとえあの場所に何らかの手がかりがあるとしても、立ち入るのは得策ではないだろう。
「とりあえず、あれが今の状況の原因だと仮定しておくか。さて、あとは街に行ってみるくらいしかなさそうなんだが…確かこの道を逆に進めば、パイオンの街に出るんだったか?」
「はい。平常であればバスで20分程度の距離になりますね。ですが、道がこのこの状況ですので、数時間はかかるかもしれません。」
「できれば乗り物が欲しいところだが…どちらにせよ、この道では難しいか。幸いこの体では疲れることはなさそうだし、気長に歩くしか無いな。」
研究所はその秘匿性や事故が起きた場合の危険性故に、街からは少し離れた、山脈の麓一体を敷地としている。
そしてこの実験場は施設の中でも一番山脈に近い最奥部になるため、いま来た道を逆に進むことで街の方向へと出られるはずである。
はず、というのは私が普段研究室から出ることが殆どなかったことと、極稀に街に向かう際は、必ず研究所の入り口から出ていたバスを使っていたからである。
本能的にもあまりここには居たくないと感じていたのだろう。
調査をすることは早々に諦め、もと来た道を戻ることとするのだった。
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この世界では、大体の技術はマナを動力として利用しています。
電気も当然存在しますが、それより利便性が高いマナが古くから知られていたため、技術としては大して発展しませんでした。
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