モテ期
雪だるまん
1話
「なあ知ってるか?人生には三回モテ期が来るらしいぞ」
などと絶賛モテ期到来中の親友が宣う。
「幸せの絶頂で頭まで御花畑になったか」
「確かに恋は盲目と言うからな」
「そのまま失明しろ」
校舎裏で幸せな男と不幸な男が座って他愛のない会話をする。
コイツはモテ期と言う訳の分からんシーズンが到来しており、先日彼女が出来た。
幾人ものヒロインに囲まれ、ギャルゲー主人公の気分を味わって一番のヒロインを決めたのだ。
「俺の知る限りでは、お前にはまだモテ期が来てない。言ってる意味はわかるな?」
「モテ期何てものは存在しなくて、お前が努力して勝ち得たものって事はわかるぞ」
「めちゃ嬉しいが、そうじゃない。お前にもチャンスはあるって事だ」
どれだけ前向き思考なんだコイツは。
確かに世の中にチャンスは転がっているのかもしれない、けれどそれを見つけるのは至難の業だ。
「こんな俺がモテるわけないだろ」
「きっと居るさ!世界は広い!お前を求める人は居る!…多分」
「そこは言い切って欲しかったな」
日陰になっており、風が吹くと心地良いサボりの名所で野郎二人で恋バナする。
気分は修学旅行の夜。
大広間では、各々のサークルが変な事をしている。暑いのにご苦労な事だ。
「で、今日は何があるんだ?」
「聞きたいか?俺の惚気話」
「いや別に」
「しょうがないな〜」
そう言って親友は続ける。
「今日は彼女と夏祭りデートなんだ」
「へえ、まだやってる所あるんだな」
「探すのに苦労したぞ」
もう夏休みも終盤に差し掛かって来た頃、まだやっている所があるのが驚きだ。
「屋台を二人で見て回って、わたあめや焼きそばなんかを食べながら花火を見るんだよ。そこで『君の方が綺麗だよ』なんっつっていい感じの雰囲気になったりして!」
「はいはい花火のように散ってこい」
「なるほど、花火のように儚い恋を色鮮やかでド派手に彩ってこい!と言う事だな!」
「お前無敵かよ」
そんな会話をしていると、遠くの方から浴衣を着た例の彼女がなれない草履で駆け寄ってくる。
「ユアスイートハニーが来たぞ」
「浴衣で走る姿も可愛いな」
「バ彼氏」
親友は立ち上がって彼女の元へ向かう。コイツの着物は途中にある店でレンタルするそうだ。
「じゃあなナイスガイ」
「あばよリア充」
そう言い合って、親友は彼女と共にお祭りへ向かう。別れ際彼女がこちらに会釈をしてくれる。
全く二人揃って出来た人間だ。
親友とは小学校の頃から仲が良く、一言で言うなら主人公。
困った人がいたら放っておけず、交友関係も良好で俺とは違い友達も多い。
本当に俺には勿体ないくらいの親友である。
二人が見えなくなってしばらくしてから、俺もその場を離れた。
何の変哲もない通学路を歩いて帰る。
通り過ぎる人達は、仕事帰りのサラリーマンや他校のカップルと買い物帰りのマダムばかり。
「よお!今帰りか?」
突然後ろから声をかけられて振り返ると凛花先輩が立っていた。
「先輩もバイト上がりですか」
「まあそんなところだ」
凛花先輩は俺の二つ上で同じ大学の先輩で、男勝りだが優しくて頼りになる先輩。
「今日もお前ん家行っていいか?」
「またですか?別に構いませんが」
先輩はよく俺の家に上がり込んでは、酒を呑んで酔いつぶれてしまう。そんな先輩を介抱するのが俺の仕事になっている。
家に帰宅して凛花先輩も上がり、適当なつまみを作る。
先輩は慣れた手つきで酒と買ってきた惣菜やら菓子を並べて待ってくれる。
「それじゃあ!何も無い日に乾杯!!」
「乾杯!」
「今日はアイツ来ないのか?」
「彼女と夏祭りデートみたいですよ」
「カッー!やるな!」
親友もよく来ては三人で呑んだものだ。彼女が出来てからは来る回数が減った。
別に悪い訳では無い、何なら二人の恋を応援までしているのだから。
しばらく他愛のない会話をして酒を傾けていくと互いに酔いがまわってきた。
「何がモテ期だ!そんなものはない!」
「だハハハ!そうだそうだ!」
アイツは努力もしてたし、正義心と愛嬌もあった。モテ期なんて言う軽い言葉でまとめてはならない!
成るべくして成ったのだ。
「俺もあんな良い彼女欲しい!」
「そうだ!もっと言ってやれ」
「俺も!女の子とイチャイチャしたい!!」
「ではその願い叶えて進ぜよう」
「へ?」
俺の心からの叫びを凛花先輩が叶えると言ってきた。
確かに先輩も女性で、かなりの美形ではある。金髪ショートで整った目鼻立ちに極めつけは胸部に聳える山が二つある。
「どうした?念願の女の子とのイチャイチャだぞ、もっと喜んだらどうだ?」
先輩が俺の隣に座って身を寄せてくる。
「いや…でも…そんな突然」
「アイツらも付き合ったんだからさ…」
「それは…そうですが……」
「お前が言ったんだぞ。それともアタシじゃ嫌か?」
上目遣いで伺う姿に心を掻き乱す。
あの先輩がこんなに可愛く見えるなんて……
「嫌じゃないです……寧ろ良いとか…思ったりして」
「プッ!…だハハハ!何本気にしてんだよ!」
「い!…いやだな先輩!可愛い後輩をあまり揶揄わないで下さいよ!」
迫ってくる先輩に心を弾ませて覚悟を決めたら、突然笑い出してムード台無しである。クソっ!俺の腰抜け!そんなんだからモテないんだぞ!
俺は酒を飲み干してもう一本開ける。
「そんなに呑んで大丈夫なのか?」
「呑まないとやってられません!」
「でも正直良かっただろ?」
「………はい」
先輩は笑いながらなんでもない様にもう一本開ける。
普段から缶ビールを五本は開けるが、もうすぐ二桁に差しかかろうとしていた。
「でもお前ならいいけどな…」
「え?」
「いや、なんでもねえよ。お互い呑みすぎだな」
「そのようですね…」
「モテ期に」
「モテ期に」
「「乾杯」」
モテ期 雪だるまん @yukidaruman_2
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