◆番外編 レティ様ルート 10
皇帝、宰相、その他主だった貴族は公開処刑。
すぐさまクラウスは地方の徴集兵を解散。
軍部も魔物討伐部隊、犯罪者取締に必要な人員を残して縮小。
重税を下げ、飢餓に飢える帝国民に食料を開放した。
実務能力の高い貴族は身分の剥奪と教国への忠誠と引き換えに助命された。
概ね、帝国民からは歓迎された。
そして……
「ここに神聖クラウス帝国の建国を宣言する」
メルティア、スパイト、カイルの三国を統一し実に大陸の四分の三を占める帝国の誕生である。
そして、祭事は聖女レティシアが、政治は初代皇帝クラウスがそれぞれ司ることになった。
慈愛を体現する聖女、一人で国を滅ぼせる軍事力をもち、かつ敵対する者の行動を読み取ることができるクラウスを支持しない者はいなかった。
合わせて聖女と皇帝の婚姻が発表される。
しかし、人生の絶頂期にいるはずの聖女様の心中はいまだ穏やかではなかった。
固有スキルのため特になりたくもない聖女の仕事をさせられ、当初は母のためであったがその理由もなくなり、惰性で人々の治癒を続けていた聖女様。
みんなの笑顔が報酬と自分を偽っていたレティシアは、クラウスにスキルを使用してから徐々に変貌していた。
★【
それがレティシアに現れた二つ目の固有スキル。
たった一人の異性だけ、しかも世界を支配できる者を完全に支配することができるスキル。
このスキルに反応したのはクラウス。
それはつまりクラウスが世界を支配できる者、という意味。
クラウスを支配下においたレティシアはそれを盤石のものとするため、教皇を排除し、帝国を逆侵攻し、半ば強引にクラウスを支配者として皇帝へと仕立てあげた。
だが、まだ心の底に残る一抹の不安。
レティシアはせっかく手に入れたものをなくしたくなかった。
◇◇◇
「ここに邪教徒の首魁たる王族を処刑する!」
断頭台に押さえつけられているのは、ティンジェル王国の王族たち。
聖女の名の下、ティンジェル王家が個人的に崇めていた神を邪神に認定。
ミストラルにはそうなるよう王家が邪神を崇め王国民を生贄に捧げてスキルを得ている、などの流言を事前に広めさせた。
そして神の名の下皇帝クラウスを動かし、転移からの捕縛など造作もないことであった。
聖女レティシアと皇帝クラウスは連名で速やかに公開処刑を執り行った。
そしていま、第三王女に断頭台の分厚い刃が落ちる。
(これでやっと安心できるわ。唯一クラウスに対抗できる【女神の瞳】さえなくなればもう邪魔をする者はいない! ふふふ、あははは!)
◇◇◇
だが、そこで聖女は重大なミスをしていた。
第三王女を目隠ししていなかったのだ。
(お願いクラウス、元に戻って!!)
レティシアと並んで処刑の様子を見ていたクラウスに、処刑の直前エリアは最後の力を振り絞って【女神の瞳】を発動した。
「はっ、いったい僕は……? エリア、危ないっ!!」
ギロチンの刃が今まさに落ちんとしたところでクラウスは転移しレーヴァテインを差し込み、エリアの命が守られた。
エリアを罪人用の枷から外し、まだ処刑されていない王族を断頭台から解放していくクラウス。
その様子を信じられないと言った様子で見ていたレティシアはようやく思考を取り戻し、金切り声で叫んだ。
「いったいどうして!! エリア、何をしたのよっ!!」
「間に合いましたわ。あなたが私とクラウスを会わせるはずはない。だけど貴人の公開処刑ともなればあなたたちは立ち会わざるを得ないはず。私は賭けに勝った。私の【女神の瞳】であなたの【傾城傾国】の効果を相殺しましたの。おかげでもう【女神の瞳】がなくなりましたけれども。クラウスを奪われて以降、私が無為無策で何も手を打っていなかったとでも?」
「クラウスを取り返しにこなかった腰抜け王女様じゃなかったのっ!?」
「あなたが神聖クラウス帝国などに現を抜かしている間、貴方のことを調べさせてもらったわよ。ミストラルは本当に優秀なスパイね」
「何ですって……!!」
「【女神の瞳】でミストラルは既にこちらの手に堕ちていたのよ。二重スパイってご存じかしら?」
「いったいいつから、いつからなのよっ!」
「そんなこと、教えてあげる義理はありませんわ。ああ、愛しいクラウス、ようやく取り返したわ」
狼狽するレティシアに、全てを取り戻したクラウスは最後の言葉を贈った。
「レティさん、僕をずっと騙していたんですね。貴女への愛もこの皇帝の地位も全てまやかしだった……! あなたは『偽りの聖女』だっ!!」
クラウスから断罪されたレティシアは全てが崩れ去り目の前が真っ暗になった……
◇◇◇
「って、なんなのコレ! このあと神聖クラウス大帝国建国記・外大陸編が始まるところなのに!」
暇を持て余していた聖女様は自分の部屋で執筆していた『神聖クラウス大帝国建国記』の続きを書こうとして、書いた覚えのない逆転断罪劇に驚いていた。
「それは、私ですわ」
後ろから涼やかな声をかけられた。
ギギギ、と軋んだ音をさせながら後ろを振り向くと、とてもいい笑顔の第三王女様。
「エ、エ、エリアさん!! あ、いや、これは、別に王国や貴女への不敬とかではなくてですね、あくまで私とクラウスのラブラブダイアリーと言いますか……」
「また随分と捏造したものね。あなたご両親は健在でしょうに。悲劇のヒロインの生い立ちから始まってライバルを蹴落とし自分は影の支配者なんて、さすが『真実の愛』の著者ね」(第98話参照)
「ぐはっ、にゃんでしょれを……」
「この国で私にわからないことなんてありませんわ。それに……」
駆け足の音がしたと思ったら、バタン、と乱暴に部屋のドアが開けられ、
「レティさん、この本に書いてあることは本当なんですか? お母さんは無事なんですか? お父さんは悪い教皇なんですか?」
「ぐはっ」
駆け込んできたクラウスは『神聖クラウス大帝国建国紀』の写本を持っていた。
そして目を輝かせたクラウスの悪気のない言葉がレティシアに刺さる。
「S級ダンジョンのスタンピードなんてよく知ってましたね? 澄水の剣聖が仁王立ちして死ぬとかかっこよすぎです! でも焔の剣聖は『闇の炎に抱かれて消えろ!』なんて多分言いませんよ?」
「ガハッ!」
「それにしても何で僕は皇帝になってるんですかね? あと何か最後レティさんが闇堕ちしてるっぽいんですが? 【傾城傾国】って名前かっこいいですね!」
「ぎぃやあぁぁぁ!」
(クラウス、もうやめてあげて。彼女のHPはもうゼロよ……)
エリアはいたたまれない気持ちになった!
レティシアの心は折れた。
筆も折ろう、って思った。
「もう許して…… クラウスに見せることないじゃない…… いっそコロシテ……」
膝から崩れ落ちた聖女様。
「ちょっとやり過ぎたかしら……。クラウス、明日一日レティシアさんとデートしてあげて」
「!! やったー!! クラウスを堕としてみせるわよー!!」
というわけで羞恥心と引き換えに一日デート権を手に入れた元聖女様でしたとさ。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
当初は腹黒聖女ルート一直線でしたが、作者的にレティ様は明るく愛されいじられキャラでしたので、妄想オチとなりました。
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