◆番外編 レティ様ルート 9
「カイル帝国がスパイトの地を経由して攻めてきました。先頭には【焔の剣聖】がいます」
またしてもミストラルからもたらされる凶報。
せっかくクラウスとの結婚準備を始めようかと思ってたのに!
優秀な密偵であるミストラルによると、そもそも先に起きた
スタンピード自体は帝国が起こしたものではないが、その誘導の狙い通り、
そして復興もまだ道半ばで、ティンジェルからの支援も期待できないにもかかわらずスパイトの地の浄化を強行したことから国力の低下しているであろう教国を攻めるなら今、と判断したようだ。
征服の邪魔になっていた【澄水の剣聖】はもうおらず、さらにわざわざ不浄の地を浄化して攻めやすくしてくれた教国。
間抜けなことよ、と帝国内では言われているらしい。
「何が間抜けよ。魔物をこちらに誘導したくせに。許せないわ」
「レティ、僕が行ってくるよ。
「お願いするね、クラウス。徹底的に叩きのめして、逆に征服してやりましょう!」
◇◇◇
スパイトの地を我が物顔で進軍するカイル帝国軍の前に一人降り立ったクラウス。
「あぁん? たった一人で俺の前に立つだと? 俺を倒したきゃ剣聖10人連れてきな!」
クラウスの前には赤くて短い髪を逆立てて決めた20歳ごろに見える男が大きなバスタードソードを構えて立っていた。
その男の身の丈ほどもある両手剣には炎を象った紋様が刻まれている。
「僕一人で十分だ」
「そうかよ。ならそのまま死ね! お前らは離れていろよ、巻き込まれて死にたくなければな。生意気なこのガキを死をもってわからせてやる。フレアストライク!」
クラウスの挑発に対して焔の剣聖は後ろに控える軍を止めさせて奥義を解き放つ。
迫り来る巨大な炎の塊は、クラウスが展開する魔防結界のまえに儚く消えた。
「何のカラクリだ……? 結界か? はぁん、聖女だけじゃなく聖者もいたっつーことか。そんな結界何度も展開できねーだろ。行くぜ、ディアス流剣術、結界斬殺!」
剣に魔力を纏わせ結界ごと斬り裂くディアス流剣術は、はたしてクラウスの魔防結界を斬ったが、クラウスの持つドラゴンブレイドで受け止められた。
正確には、ドラゴンブレイドを模した魔法剣であるが。
そしてクラウスは焔の剣聖の一撃を弾き返した。
「ちっ、このガキ……」
「茶番はここまでです」
クラウスが笑顔で告げると、その手元には焔の剣聖の神器レーヴァテインが現れた。
対する剣聖は無手。
クラウスは魔法剣を解除したあと【交換】により互いの武器を入れ換えたのだ。
「テメェ…… どんなマジックを使ったが知らんが無手でも俺は闘えるんだぜぇ! てめえにその剣は使いこなせねぇよ! 闇の炎に抱かれて消えろ、浄破滅焼拳!」
両腕に黒い炎を纏わせ殴りかかってくる剣聖。
クラウスはレーヴァテインを構えた次の瞬間剣技を発動する。
「ディアス流剣術、隼斬り!」
そして、剣聖の拳をかわしすれ違いざまに高速の二連斬を叩き込むクラウス。
「バカなっ……」
三枚下ろしにされた剣聖は信じられないという顔をして人生の幕を閉じた。
後ろで控えていた将官の開いた口が閉じなかった。
帝国最高の剣聖がいとも容易く、赤子の手をひねるかのごとく撃破されたのだ。
「神器レーヴァテインにディアス流剣術免許皆伝の地位。お得な闘いだったなあ。本人も少し強いくらいだったし」
あっけらかんとするクラウスに対して剣聖の後ろに控えていた将官はすぐに立ち直り、
「全軍突撃ィィ!! あの者を生かしておくな! 物量で圧殺せよ!」
その判断はおそらく間違いではない。
相手がクラウスでなければ。
「真紅の爆炎、クリムゾンフレア!」
【火魔法マスター】の超範囲灼熱攻撃により大軍が蒸発していく。
剣聖から奪ったレーヴァテインにより強化された地表を覆う火魔法は、あたりを灰燼に帰した。
「ふぅ……、周りの被害を考えなくてもいいから気兼ねなく魔法をぶっ放せたよ。あースッキリした。じゃあ次は帝国かな。面倒だから一気に乗り込んで制圧しちゃおうか」
◇◇◇
カイル帝国。
この国は帝都以外の治安が最悪だ。
王国にはない奴隷がいるし、道端の浮浪者も多い。
孤児院や救護院もあるが、名ばかりでほとんど機能していない。
帝国への不満も多いが、力で押さえつけられている。
それも、地方から無理やり徴兵した兵士に行わせている。
本当はそんなことしたくないが、徴集兵もそれをしなければ自分たちが同じ目に遭うため、仕方がなく行っている。
「はあ? 第一陣が全滅しただと? 万の軍勢だぞ」
帝国の宰相は信じられない報告を受けていた。
「たった一人の魔法使いが放った爆炎の海により数瞬の間に全軍はほぼ壊滅したとのことです。かろうじて撤退した者の見た映像を【ビジョナリー】のスキルで確認させましたが、間違いないかと」
「まさか、マスタングが裏切ったのではあるまいな?」
「いえ、焔の剣聖殿は接敵後まもなく討ち死になさいました。こちらも確認済みです。なお、神器は敵に奪われた模様です」
「何たる醜態……! 陛下にどのように報告すれば……」
さらに乱暴にドアが開けられ兵士が息を切らして入ってきた。
「申し上げます、宰相閣下! 突然帝城内に教国の聖騎士軍が出現しました! 手練ればかりでまもなくこちらまで攻め上がってくるかと!」
「はあ? 門を破られたのか? 誰にも気づかれずに!? 貴様らは無能か!」
「いえ、突如として帝城の中庭に現れました。門は開けておりません!」
それは、クラウスが聖騎士軍をまるごと時空魔法で転移させたから。
「んなバカな…… これは夢か、夢だと言え!!」
宰相は報告にきた兵士に必死の形相で問いかけていた。
だが、現実は非情なもの。
すぐに階下から聞こえてきた剣戟の音、乱れ飛ぶ魔法による衝撃。
宰相が身を隠すべきかどうか考えあぐねるうち、白銀の鎧を着た聖騎士たちが部屋に侵入してきた。
「閣下をお守りするのだ!!」
と息巻いた護衛騎士たちはすぐさま叩き伏せられた。
「そんな、我が軍の精鋭である護衛騎士がいともあっさりと……」
それは、クラウスがあらかじめ聖騎士たちにステータス強化魔法をかけていたから。
あっさりと捕縛された宰相。
さらに少しの間をおいて、皇帝の部屋にて。
「カイル帝国第6代ザンデ皇帝とお見受けします。腐敗した政治、民への暴虐、我が国への侵略、いずれも見過ごせません。今日で帝国は終焉です。バインドチェーン」
聖騎士を連れて現れたクラウスは有無を言わさず皇帝を捕縛。
歴史上稀にみる超短期決戦はこうして終了した。
◆◆◆◆◆◆
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