◆番外編 レティ様ルート 7
「クラウス、もう人避けの結界を解除してもいいわよ」
「わかった、レティ。うまくいったね」
ダンジョンに入れないのは女神様がお怒りだったから、なんてことはなく当然クラウスの仕業だ。
私がお願いした。
国内の全ダンジョンの入り口を封鎖するなんて力業はクラウスにしかできない。
私の結界魔法は退魔に特化しているし、そもそも結界を複数展開しかつ長期間維持するなど何かの媒体でもなければ人間には不可能だ。
魔石を得られず萎んでいく教皇派に対して、ミストラルが聖女派への寝返り工作を行っていた。
『聖女様は寛大なお方。これまでのことは不問にし、これから聖女様に忠誠を誓えば【神託】のとおりいずれ神罰は終わる』
もちろん、聖女派になれば神罰が終わる、なんてことはない。
あらかた聖女派に取り込み、その後失踪したギルマスに代わり元から聖女派であったサブマスがギルマスになると同時に茶番を終了。
実際にダンジョンに入れるようになり、活気を取り戻した冒険者ギルド。
こっそりとクラウスをS級認定した新ギルマス。
だが、これはまだ終わりではない。
◇◇◇
「どういうつもりだ、聖女よ? よもやこの国を乗っ取るつもりではあるまいな?」
大神殿の教皇の間。
私は教皇に呼ばれていた。
周りをずらりと聖騎士に囲まれながら。
「何のことでしょうか?」
「とぼけるでない。ダンジョンを封鎖したのはお前の仕業であろう。結界でもなければあのような真似はできぬ!」
教皇様は顔を赤くしている。
「あれは女神様のお怒りを買ったからですわ」
「ふざけるな! 女神などおらぬ。よもや本気で信じているわけではあるまい。多少聖なる力があるからといえ図に乗るな。私の権勢を奪いにきたのであろう、恥知らずめが!」
「そのままお言葉を返して差し上げますわ。恥知らずのお父様」
「……なん……だと」
「神殿勤めだった私の母を手籠めにした挙句、スキャンダルを恐れて面倒すら見ず神殿からスラム街へ追放した鬼畜の父。清廉潔白であるべき教皇がとんだ俗物でしたわ」
「まさか、本当にエリシアの娘……」
「あら、襤褸のように捨てた母の名前をいまだに覚えていたなんて、あなたらしくもない」
目の前にいるこの男、教皇は私の実の父。
当時大司教であったこの男は、教皇選出の儀が控えていた時期なのに、あろうことか妻がいたにもかかわらず美しかった母に手をつけた。
そして妊娠が発覚すると、教皇選出の立候補の妨げにならないよう追放した。
私が正式に聖女となり、しばらくして優秀なミストラルが部下になったことから彼に調べさせたのだ。
優秀なミストラルでも時間はかかったけど、当時を知る者を探し出し裏を取った。
それでも、教皇派の力が強かったときにそれを弾劾したところで握りつぶされてしまう。
だから、クラウスとの出会いは本当に幸運だった。
クラウスを手中に収めこの男を破滅に追い込む準備ができた。
「お母様、ようやく仇を取ることができます。……もし懺悔し残りの人生を母の弔いに捧げるというのであれば、教皇の辞任のみで見逃してあげるわ」
「たわけ! それが実の父に向ける言葉か! 母子ともども私を煩わせよって! こやつは聖女などではない、捕えるのだ!」
教皇に侍る屈強な聖騎士は私のところに向かってくる。
そして、突如足元に発生した黒い穴に吸い込まれてどこかへ消えていった。
「やっぱりこうなったね、レティ」
私の隣に姿を現したのはクラウス。
使った魔法は時空魔法と捕縛スキルを合わせたディストーションだ。
聖騎士たちはティンジェルの魔の森奥深くへ直送された。
「貴様、何者だ! いったいいつからいたのだ!」
「はじめまして。こんな状態じゃなければ義父さんと呼べたかもしれないのですが」
実はクラウスは最初から姿を隠したまま私についてきていたのだ。
だが、狼狽するあの男に説明してあげる義理はない。
そして私は、審判を下す。
「クラウス、お願い」
「うん。『闇の戸を叩き、恐怖の川を渡り亡者の鎌にて煉獄へと連れ去れ! 【暗黒魔法】デスリッチ!』」
罪深き教皇の前に現れたるは、闇色の大鎌を携えし死神。
闇魔法にも即死効果をもたらす同名の魔法があるけど、効果は全く異なる。
教皇の前に現れた死神は黒いローブの奥にある赤い目を光らせ、その鎌を振り下ろした。
鎌で切り裂かれた教皇は、しかし肉体は無事であった。
「ぐわあぁぁぁぁ! ふ、ふ、何でもないではないか、こけおどしの詠唱か。暗黒魔法など人間には使えるはずが…… や、やめろ、なんだこれは! …………うわぁぁぁぁ、やめ、やめてくれ、私が悪かった! すまなかったエリシア、助けてくれぇ! …………」
やがて、断末魔の声もあげることすらできないまま、教皇は苦悶に満ちた表情で息絶えた。
暗黒魔法デスリッチ。
対象が犯した罪に応じた苦痛と幻覚を増幅して与える魔法。
罪があまりに多いと死にも至る。
死ぬ前のこの男はいかほどの罪を重ねていたのか、本物の聖職者であれば多少の苦痛で終わるとるに足らない魔法なのだ。
「終わったよ、レティ」
「ありがとう、クラウス。終わったよ、お母様。さあクラウス、ここを出ましょうか。みんなに報告しなきゃね。猊下は今までの罪を聖女に告白、懺悔し自ら神の御許へ旅立たれました、ってね」
◆◆◆◆◆◆
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