◆番外編 レティ様ルート 6
私はいま、クラウスくんに抱かれている。
第三王女様によるスキルから解放された反動だろうか、はたまたあの場で自分を抑えていたことの反動だろうか。
クラウスくんは短い付き合いでも見たことないほど積極的だった。
情熱的な口付けのあとベッドに倒れ込み一つになる。
愛しい人と一つになる感覚。
それを味わいながらも慌しかった今日を振り返る。
セイクリッドティアーで解除したのは、私のスキル以外の効果。
念入りに長めに詠唱した甲斐があって【女神の瞳】の効果はきれいさっぱり解除された。
クラウスくんの【交換】の効果が私に及ぶことが分かったのは、私がスキルを使ってからしばらくのこと。
エリアにはその効果がまだ及んでいなかったのは幸いだった。
おそらく【交換】の効果がエリアにも及ぶのは時間の問題だっただろう。
ギリギリ間に合った感じだ。
クラウスくんが自我を取り戻したあと、まさかの私への暗殺未遂。
クラウスくんが即座に国王の思考を読みとっさに対応してくれたおかげで未遂ですんだ。
上手くいっていた場合、私がクラウスくんを誑かしていたためそうするしかなかったと彼を説得するつもりだったらしい。
だめな場合は【女神の瞳】で再度魅了する。
それは最後の手段と考えていたあたりまだ向こうにも良心があったのね。
にしても、まさかクラウスくんを治したら二度と手を出さないように私を即暗殺しようなんて、恐ろしいわね。
ノコノコと敵地に出てきた私は本当に迂闊だった。
まあでもクラウスくんを保護していると聞かされれば罠でも行くしかなかったかな。
クラウスくんはまだまだ甘いね。
あそこで見せしめに暗殺者を殺しておけばよかったのに、それもせず王国への別れを告げるだけして終わり。
そういうところも好きだけど。
そして、転移する前に見た、泣き崩れる第三王女様を見て浮かんだ言葉。
『恋愛は戦争なのですよ。勝てば官軍なのです』
私に母が生きていると思わせて聖女の修練に打ち込ませた元付き人の言葉だ。
敗者にかける言葉は何がよかったんだろうか。
だが再び口づけを求めてきたクラウスくんに応じて、それもどうでもよくなった。
◇◇◇
「E 級からやり直し?」
新たにティンジェルから教国の聖都バーガンディに拠点を移したクラウスは当然冒険者ギルドに向かった。
他国の冒険者ギルドでの実績は尊重されるものの、あくまで別の国の組織でのもの。
しかしS級にあっては暗黙の了解でそのままランクが引き継がれるはずである。
それがなに、クラウスが最下級のE級からとかありえない。
「いったいなぜそんなことに? ティンジェルでのシビルカードは提示したのよね?」
「だけど、メルティア内での実績じゃないからって突っぱねられた。それと、レティとパーティを組んでいるかどうかも聞かれたよ」
「ああ、それでなのね……」
私は頭を抱えた。
「もしかしてクラウス、持ってる魔石を寄越せばS級にしてやる、とかなんとか言われなかった?」
「よくわかったね? そう言われたよ。でも魔石やドロップ品は渡さなかったよ。そんなことしなくても多分すぐにランクは上げられるだろうと思ったからね」
全く……。
「クラウス、多分S級にはなれないわ」
「えっ、なんで?」
メルティアの冒険者ギルドは教皇派だ。
教国では教皇派と聖女派に分かれている。
そもそも教皇は女神の代理人であり現世での最高責任者という位置付けである。
それに対して異論を唱えるのは聖女派。
女神の力を直接体現するのが聖女なのだから、聖女こそが現世で最も尊く敬われるべきで教皇は聖女の補佐役でしかない、というものだ。
そこへ冒険者ギルドで絡んできてややこしいことになっている。
冒険者ギルドは教皇派の資金源でもあり支持者だ。
それをかさにきて冒険者ギルド内で聖女派は冷遇される。
怪我した冒険者は教会での治癒を依頼できるのだが(クラウスは今まで世話になったことはない)、聖女派の神官に払われる治癒の対価は教皇派の半分ほど。
また聖女派の冒険者は治癒の際順番を後回しにされる。
クラウスは『どちらの派閥か』と聞かれて『レティシアとパーティを組んでいる』と答えたのだ。
ギルドのランク付けはティンジェルと異なりギルドに一任されている。
「ということは、僕はS級のダンジョンに潜れないってこと?」
「バーガンディ本部のギルドマスターが自由に決められるからね」
「魔石を渡せばよかったかなあ……」
「そんなことをしたらアイツらはますます調子に乗るだけよ。……クラウスの邪魔をするなんて許せないわ。目の上のたんこぶだし、この際潰してしまいましょう」
◇◇◇
しばらくして。
「ダンジョンに入れない、だと?」
教国の聖都バーガンディにある冒険者ギルド総本部のギルドマスターはおかしな報告を受けていた。彼は当然教皇派だ。
「誰も入れないのか?」
「ええ、誰も。私も入ろうとしましたがダメでした」
「どのダンジョンもか?」
「はい、教国内全て、です」
報告にきたサブマスターは真顔で、ついでに真っ青だった。
生活に欠かせない魔道具を動かすための魔石が手に入らない。
他国から輸入となると足元を見られる。
日常生活だけなら【生活魔法】で何とかならなくもないが、大型の魔道具ではMP100程度を注いでも足らない。
魔石を使うことが前提なのだ。
魔石を安定的に供給することがギルドの存在意義、権力の源泉。
そしてさらに時間がたち。
在庫にあった魔石も全て放出してしまったバーガンディのギルマス。
自身もダンジョン入り口に赴き調査をするが原因は一向につかめず。
当然、教皇派の枢機卿からもせっつかれるがどうにもならない。
ダメ押しとばかりに市井では噂が流れていた。
『女神様が聖女を軽んじている教国に制裁を加えている。だからダンジョンに入れなくなった』
『どうやらそんな内容の【神託】もあったらしい』
もう、どうにもならない。
あちこちからの突き上げ、魔石の催促、教皇への忠誠、解決しないダンジョン問題。
ほどなく聖都のギルマスは失踪した。
◆◆◆◆◆◆
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