◆番外編 レティ様ルート 5
side レティシア
私は王城にやってきていた。
王家の使者が『クラウスをやむを得ぬ理由で保護した。1人で来られたし』と告げてきたからだ。
場所は王宮の兵士が使う訓練場だ。
あのクラウスくんを保護?
ありえない。
ということは私のスキルがバレた?
だが鑑定の宝珠ですら見ることができないセカンドスキルだし、露見したとは考えられない。
クラウスくんとて人の子。
1人で向かったダンジョンで深傷を負い、時空魔法で転移した先がエリア王女の所だったからかもしれない。
王女には返しきれない恩があると言っていたから、咄嗟のときに思い浮かんだのが彼女なのだろう。
ちょっとした嫉妬を覚えながら案内されて着いた訓練場には、この国の王やエリア、近衛騎士たちが待っていた。
彼らに囲まれるようにしてクラウスくんがいるが、様子がおかしい。
一体どういうことだろう?
そして、国王陛下が口を開いた。
「クラウスのパーティメンバーたるレティ、いやメルティアの聖女レティシアよ、クラウスは見ての通りの状態だ。こちらの調べによると強度の魅了スキルをかけられたものがこのような状態になることがあるようだが」
ま、私が聖女ということは知られているか。
その上で呼び出されたということは私にこの状態を解け、ということなのだろう。
けど、私のスキルによるものはいまのクラウスくんの状態になるようなものじゃない。
自分のスキルだからそれくらいはわかる。
それでなおクラウスくんの状態ということは、おそらく他の状態異常をかけられたかダンジョンの罠を踏んだことと私のスキル効果が重なってこうなったか。
治すのは簡単だ。
というか、私のスキルの効果はもう解けない。
なので、それ以外を治療すればいいということになる。
「なるほど。では治せばよろしいのですね。聖女の名にかけて。『……慈愛、贖罪、正義を司る我が女神よ、貴方の使徒たる私は授けられし聖女の力を以って奇跡を成し遂げます。全ての厄災を退けよ、セイクリッドティアー!』」
聖女のみが使える状態異常を解除する魔法。
聖女の涙とも言われる透明な雫がクラウスくんの頭上に現れて彼を包んでいく。
「……ん、ここは……?」
「クラウス!」
透明な雫が消え去ったあと、クラウスくんの目に正気が戻ってきた。
そして第三王女様はクラウスくんに抱きついていた。
しかしクラウスくんは悲しそうな顔をして第三王女様を柔らかく引き剥がしてこっちを向いて魔法を発動した。
「ガードサークル、……間に合った」
聖女が使うものとは違う防御系の結界魔法。
当然だがエルフしか使えないはずの時空魔法のもので退魔の効果は乗らない。
ただしクラウスくんが一度発動すれば私の結界以上の鉄壁の防御を誇る。
その後クラウスくんは転移で私の背後に回った。
そして何かを掴み捻り上げた。
「アンチマジック! 僕の目は誤魔化せないよ」
中級闇魔法のアンチマジックはスキル効果を削ぎ落とすことができる。
私が振り向くと、そこには黒装束の男がクラウスくんによりうつ伏せに抑えられていた。
その男の手には、禍々しいナイフ。
「これは死毒のナイフ……」
私は暗殺されかけていた。
◇◇◇
side クロスロード国王
『セイクリッドティアー!』
呼び出した聖女が魔法を唱える。
観念したか。
これでクラウスは元に戻るであろう。
おそらくエリアに恋慕していた状態に。
そうすれば【女神の瞳】を再び使う必要はなく、あとはこの聖女を始末すればよい。
これも王国と我が娘のため。
聖女が治したとて、再び聖女が魅了系スキルを使わないとも限らない。
儂としては、おそらく聖女系のスキルにそのようなものがあるのだろうと予測しておる。
光魔法と闇魔法が相反するように見えて隣接スキルであるように、回復が得意な者も状態異常を得意とすることがある。
過去には聖女にネクロマンサースキルが生えてきたことすらあるのだ。
教国は絶対に公にしないが、外聞が悪すぎた。
密かに教国の聖騎士と関係を持っていた聖女。
教国随一の腕を持っていた聖騎士だったが、あるとき魔物の討伐に赴き命を落とした。
聖女は嘆いたが、そこから恋人の蘇生を試み、そして蘇生はできなかったがネクロマンサースキルに目覚めたのだ。
当時の教国はこれを神と摂理に叛逆するものとして秘密裏に処刑しようとした。
しかし高位のアンデッドとして復活して彼女に付き従う聖騎士があまりに強く、ティンジェル王国に密かに協力を要請し何とか両者を討伐したのだ。
代々王国に伝わる文書に残っているこの事実。
これをチラつかせれば教国は何も言えまいて。
もちろん表向き聖女はお忍びで向かったダンジョンにて不幸にもトラップにかかり命を落とした、ということになる。
そのためこの場にいる人間は儂に忠誠を誓った者で固めている。
エリアにだけは知らせていないがどうとでもなる。
クラウスも同じこと。
まがりなりにも貴族の教育をスタンから受けているからな。
真実が明らかになれば戦争が起きる。
そうなるとスパイトやカイル帝国に付け入る隙を与えることになる。
そう、この方法がよいのだ。
儂の【トゥルーアドミニストレーター】もおそらく最善の結果だったと示してくれるだろう。
だが…………
暗殺は失敗した、他ならぬクラウスの手により。
あの男は暗部でも随一の使い手。
気配も消せるし、【忍者マスター】により完全に音も姿も消すことができてクラウスですら察知はできないはずだ。
なぜ?
その答えはクラウスの口から発せられた。
「残念です、国王陛下。レティさんを、いやレティシア様を暗殺し僕を説得しようなんて。レティシア様が僕を魅了するような人間のはずがないのに」
「お父様、暗殺とは一体? そこまでするなんて聞いていませんわ! クラウス、一体どういうことなの?」
どういうことだ?
なぜクラウスがそんなに断言をしている?
レティなる者が聖女ということもクラウスは気がついていなかったはず。
儂の心を読みでもしなければそんなことは……
まさか。
「そうです、陛下。僕のスキルはいつからかレティさんに向けられた悪意も対象に入っていたのです」
やはり、か。
それほどまでに聖女とクラウスの結びつきが強くなっていたのか。
エリアが数年かけた関係すらあっさりと超えるほどに。
ということは、聖女が魅了系のスキルを持っていたのではなくクラウスとの相性がよかったと。
魅了の重ねがけによると思われたクラウスの茫然自失状態もエリアの【女神の瞳】の効果が強すぎたという副作用と見るべきか。
思わず隣に控えていた宮廷魔術師長のガウドを横目で見てしまう。
「申し訳なく、陛下。此度の失態は我が命をもって」
「ならぬ。そなたの責にあらず」
そう、こうなることを誰が予想できようか。
そして、クラウスが口を開く。
「陛下、レティさんの命を狙ったことは個人的に許せません。ですが、今まで世話になった恩は忘れていません。僕はレティさんとともにこの国を出て行きます。……さようなら、エリア」
我が娘は泣き崩れた。
そして、聖女とクラウスは転移でこの場から消えていった。
消える瞬間、聖女の口元が歓喜で歪んでいたように見えたのは気のせいだったのか。
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