◆番外編 レティ様ルート 4

side クラウス



 謁見の間に連れてこられた僕。


 僕の前には陛下、宰相様、宮廷魔術師長、近衛兵長、などがいる。

 エリアもいるし、マリーさんもいる。

 ついでにヴェインさんも。


 何というか陛下の信頼できる身内だけ呼ばれたような感じだ。



「さてクラウスよ」



 陛下が口を開く。

 エリアの父親でもある。

 これは命がないか、国外追放か、ろくでもないことだろう。


 が、僕は抗う気はない。


 悪いのは僕だからだ。


 今までエリアに助けてもらってきたうえ婚約者候補にまでしてもらったのに、僕がしようとしたのは酷い裏切りだ。


 逃げようと思えば【時空魔法】の転移で逃げられるが、それをしないのは僕なりのけじめのつけ方だ。


 それが分かってもらえたのか、今の僕は拘束措置を受けていない。


「平民の恋愛ごとであればかようなことにはなるまい。だが、事は国家政策に関わる。スタンから貴族教育を受けているお前なら理解はできよう」


「はい。いかようにも処罰を」



 王家の子女が成り上がりの平民から袖にされる。

 これ以上の屈辱はない。

 放置すれば王族は与し易し、と他の貴族から侮られるだろう。


「このままおまえを野に放つわけにはいかぬのだ、クラウス。エリア、やるのだ」


「ごめんねクラウス、私もこうしたくはなかった。けれどこれも第三王女として生まれたからにはなさねばならないこと。【女神の瞳】発動」



 そして、エリアの瞳が金色に光る。

 僕は……



◇◇◇


side エリアリア



 私の固有スキル【女神の瞳】は、対象を魅了する。

 ただの魅了ではなく、私の意に反する行動を取ることは一切できずしかも効果は永続する。

 これでクラウスは永遠に私の言うことを聞く人形となる。

 できれば、彼の意志を尊重してあげたかった。

 もう彼と真の意味での自由恋愛を楽しむことはできない。

 もちろん永遠の回廊への挑戦も続けさせるが、王国の意向があればそちらが優先される。


 そのような強力な効果のためむやみに発動することは許されておらず、こうして必ず王の立ち会いのもと行使することとなる。

 最も、今回が初めてだったのだけれど。


 

 私の力が抜けていくのがわかる。

 MPがごっそりなくなり、少しふらつく。

 だがそんな倦怠感も目の前の光景を見て吹き飛んだ。




 クラウスの目から光が消えている。

 彼の気配、というか存在感も消えている。





「ガウドよ、これは一体どういうことだ? 【女神の瞳】の発動が失敗したのか? 魅了系で最上位のスキルなのではなかったのか」


 父上が宮廷魔術師長のガウドを問い詰めていた。


 私のスキルは間違いなく発動した。

 それは発動時の感覚からわかる。

 だけど……



「恐れながら陛下、この症状はすでに魅了にかかっている者が同程度の魅了を別人から重ねて掛けられた場合に見られるものです」


「クラウスは誰かにすでに魅了されていたということか? だが先ほどまでそのような様子はなかったぞ」


「私も魅了判別の魔法を使用しておりましたが反応がありませんでした。つまり先に魅了をかけた者はエリアリア様と同程度のスキルを行使したものと推測されます」



 私の【女神の瞳】も、対象が魅了にかかっているかどうかは他者からは分からないようになっている。

 それほど対象に自然な振る舞いをさせるし、判別の魔法もすり抜けることが過去の例から判明している。

 宮廷魔術師長の魔法すら騙せるほどに。



 そうなると、心当たりは1人しかいない。



 クラウスのパーティメンバーのレティシアだ。


 彼女が王国に来るとき、ただのレティとしているが聖メルティア教国の聖女、【結界の聖女】ということは当然だが把握している。



 だが、魅了系スキルを持っているとは思われない。

 だから、クラウスからレティが好きになったということを聞いた時も異性として相性がいいのだろうかなどとは考えたが、その可能性は考えもしなかった。


 いったいどういうことなの?



 起きたことの整合性が取れずに混乱する私をよそに、父上はさすがというか頭の切り替えが早かった。



「ガウドよ、クラウスの今の状態を戻す方法はあるのか?」


「陛下、クラウスの今の状況は同程度の魅了魔法が拮抗しているため身動きが取れぬ状況にございます。どちらかがスキルを解除すればよいのですが……」


「つまり我が王国と教国のクラウスの取り合いというわけか」


「ですが陛下、この状況は長くは続きません」



 いったいどういうことなの?


 私ははしたなくも思わず口を出していた。


「ガウド、いったいどういうことなの、説明して」


「恐れながらエリアリア殿下、相反する魅了をかけられた者は遠からず精神が崩壊いたします。クラウスは人並外れてステータスが高いとのことですので今しばらくは大丈夫かと思われますが、【女神の瞳】と同程度のスキルに晒されていまだこの程度の症状で済んでいるのが奇跡的でございます。常人ならば精神崩壊が一気に進み今この場で死んでいてもおかしくないもの。楽観的な予測はされませぬよう」



「ならば今すぐ【女神の瞳】を解除します……!」



「ならぬぞ、エリア。解除すればお主は永遠にクラウスを手に入れることができん。それに王国としても大なる損失」


「ですがお父様、このままではクラウスが……!」


「すぐにレティシアを召喚するのだ。王命であるとな。いかなる手段を用いてもよい。拒否すればその場で殺してもかまわぬ」


◆◆◆◆◆◆


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