◆番外編 レティ様ルート 3
「会わせたい人間がいる?」
ティンジェル王国に潜入しているミストラルから連絡があった。
しかも王国にはバレていない符牒を使ってのもの。
このミストラルは布教の名目で王国で活動している。
表向きは神官兼冒険者、だけど真の任務は王国の内情を探り優秀な人間を教国にスカウトするためのスパイだ。
どこの国も行っているけれど、あまり派手にやらなければ黙認されている。
お互い様、ということ。
昔はもっと殺伐としていたらしいけれど、今ではある種の人事交流にも近い感じのようだ。
そして私は今ティンジェル王国の教会への慰問という形で王都で一番大きな教会へ来ていた。
応接用の小部屋でミストラルを待つ。
どんな人が来るのだろう。
事前の話だと茶髪でちょっと童顔の男の子だそうだが、実力ではミストラルの遥か上を行っているらしい。
古の【時空魔法】を使えるとか。
さすがに盛りすぎじゃない? とも思うが優れた密偵でもあるミストラルの眼は確かだ。
わざわざ私に嘘をつく理由はない。
「あなたがレティさんですか?」
ミストラルと一緒に入ってきたのは、確かに茶髪の男の子だ。
ダンジョンに入ると先陣を切って勇ましく斬りかかりにいき、スタンピードでも臆することなく魔法で大量の魔物を容赦なく虐殺する。
だが、目の前にいる男の子は虫も殺さなさそうな優しい顔をしていた。
ちなみに私はただのレティでミストラルの親戚ということになっている。
「ええ、そうよ。クラウスくん、だったかしら? しばらくよろしくね」
◇◇◇
「瞬速連斬!」
エルダーリッチやレイスキングがあっという間に斬り伏せられていく。
魔物が纏っている瘴気ごと斬り裂き、クラウスくんはその影響も受けていない。
近づくだけでも常人は気が狂い、物理攻撃はほぼほぼ無効。
そんなS級ダンジョンの敵すらも一撃で葬り、本人はかすり傷さえ負わない。
一応回復役のエキスパートということで付いてきているのに、全くといっていいほど私の出番がない。
そしてクラウスくんを見ていて思うのは将来性たっぷりだろうな、ということだ。
そんな人間を教国に引き抜いたらさすがにティンジェル王国が黙っていないのではないか。
ミストラルは言った。
「おそらく王国を敵に回しても問題ないでしょう。彼一人で国に勝てますので。もっとも、彼を引き入れることこそが最大の難関となるでしょう」
◇◇◇
「エリアさん、今日の成果です!」
クラウスくんが嬉々としてギルドの受付で報告する。
ミストラルの調査によると、澄ました顔で受付しているのはエリアという女性だが、その実、この国の第三王女であるという。
なぜそんな者が荒くれ相手のギルドの受付をしているのか、見かけによらずたくましいのかわからないが、些細な表情の変化にクラウスくんへの恋慕が確かに見える。
それを見た瞬間、私のスキルがざわついた。
一生に一度しか発動できない、ここで使え、と。
それはつまり、クラウスくんは国を左右するほどの力を持っているということ。
それより何より、そのような力を持ちながら王女様ともおそらく恋仲。
父親も知らず、母の死は誤魔化され、聖女の修練に明け暮れ恋もわからない私とは違う。
先代の若き聖女は私に引き継いだあとまもなく結婚した。
彼が羨ましい。
彼を欲しい。
初めて感じる激情だ。
居ても立っても居られない、とにかく何かをしなければ、という思いに駆られる。
聖女として人々を癒し、感謝され向けられる笑顔に不満はない。
でも、少しの休憩時間とかに、何かが足りないような気はしていた。
もしかしてスキルというのはどうしようもないものを埋めるために神から与えられているのではないか。
…………【????】、発動。
◇◇◇
side クラウス
どうしたんだろう、最近ミストラルさんの紹介で会ったレティさんのことがどうしようもなく気になる。
僕はエリアのことが好きなはずなのに。
もう彼女とは口付けも済ませている。
あと少しで婚約者候補から婚約者へとなる内定ももらっている。
でも最近それらに興味が持てなくなってきている。
何かがおかしい。
だけどその違和感もレティさんと会うたびに薄くなってきている気がする。
いったい僕はどうしてしまったのか。
レティさんの笑顔やふとした時に見せる翳りのある表情。
それらがすごく気になってしょうがない。
◇◇◇
side レティシア
しばらく教国と王国の二重生活が続いた。
一方では聖女レティシア、もう一方では光魔法使いのレティとして。
驚くことに、間を空けて会うたびにクラウスくんの強さは増していった。
【結界の聖女】と言われる私でも彼を結界に閉じ込めることはできない、と直感できるほどに。
会うたびに会話の量が増えていった。
彼の家族、食べ物の好み、過去、スキル、友人、先輩、強敵、転生者、そして女性の好み。
幸い、私が特に取り繕わなくてもクラウスくんには私が好ましく見えているようだ。
もっとも、それがスキルによるものなのかどうかはわからないけれど。
そして、第三王女様のおかげでクラウスくんは強大な力を持ちながらも歪むことなくまっすぐ成長していた。
平民の彼が考えが及ばないところ、貴族社会の汚いところを彼女が全て処理してきたのだろう、彼には悟らせないように。
そんな彼を私は横からかっさらうのだ。
彼女からは恨まれるのだろう。
◇◇◇
side クラウス
「……エリア、ごめん。僕はどうかしている、と自分でも思うのだけれど、他に気になる人ができたんだ」
「本気なの、クラウス?」
「……うん」
「相手は、レティさんよね?」
「知ってたんだ」
「直接は話したことはないけどね。最近あなたとパーティを組んでいるから、もしかして、と思ったのだけれど」
「ごめん」
「でもねクラウス、ここまで来たら引き返せないのよ。貴族なのだから、わかるでしょう」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
ようやく本編の主人公が出てきました。とはいえ、ここでは脇役なのですが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます