◆番外編 クオーツルート 1
第80話からのifルートです。
(クラウスが魔の聖域の敵を退け、指揮官室でスピネルにティンジェル国王からの書状を渡す)
「これは、国王様の封蝋! 中を拝見させていただく。…………早速だが、物資をお渡しいただきたい。それと貴殿には指揮官同等の権限を与える。もちろん軍規の範囲内だが」
「ありがとうございます。とはいってもすることは魔物を倒すくらいなものですが」
「お兄様、いったいどういうことですの?」
「彼の者は王国からの援軍だ。可能な限り彼に便宜を図ること、との勅命だ」
「なんと…… この少年たった一人で援軍ですって? 誠なのですか?」
「王の書状を疑うのか? それにクオーツは見ることができなかったが、S級の魔物の大群をたった1人で無造作に蹴散らしたのだ。一騎当千というのは彼のためにある言葉だろう」
「まあ…… サンバッシュ家に婿入りしていただきたいですわ。それが本当であるならば!」
そして、クオーツ様の僕を見る目が挑戦的なものになる。
あ、これはもしかして。
「お兄様、ご存知でしょうが大事なことは私は自分の目で確認しないと気がすみません。真剣で彼との勝負を許可してください」
僕の強さを確認したいってことかあ……
別にいいんだけど、こんな美人さんに武器を向けるのはちょっとねえ……
「クラウス殿が困っている。戯れはそこまでにしておけ」
僕の様子を見てスピネル様がストップをかけてくれるが、
「いやですわ、本気ですわよ」
「真剣って、せめて模擬剣にしましょう」
「あら、死んでいなければ失われた肉体すら再生させる回復魔法を使えるのでしょう? 腕の一本や二本、心置きなく真剣で闘えるではないですか。こんな機会ありませんわ。さあ、早く闘いましょう」
とんだじゃじゃ馬だよ、この人。
戦闘狂なのか?
「困ったな……。クラウス殿、すまぬが妹のわがままに付き合ってくれぬか。多少なら痛い目を見させても構わぬが、殺さぬよう加減はしてほしい」
「はい……」
「手加減は必要ありませんわ。武人なら剣と剣で語り合うもの」
僕は武に生きる者じゃなくて冒険者なんですが……
「すまぬ、クラウス殿。我が家は辺境地を預かるゆえ、力を追い求める気風にある。クオーツは自分より強い者でないと嫁がぬといって、未だに恋人も作らぬのだ」
それってクオーツさんの強さ次第だと結婚できないんじゃ……
◇◇◇
辺境を守護する砦にある練兵場。
クオーツとクラウスが向き合い、スピネルが立ち会う。
クラウスが魔物を撃退するところを見ていた者は、
「クラウス殿! お嬢を手に入れるチャンスですぜ。そのままもらってやってくれ」
と囃し立て、クラウスの活躍を見ていなかった者は、
「お嬢と戦って骨の一本くらいで済めばいいがな。戦いに夢中になると容赦ないからな」
と笑っていた。
あまり娯楽のない辺境では、クオーツとの手合わせも娯楽として成立していた。
最も、本気の彼女に勝てた者はスピネルを除きいなかったのであるが。
◇◇◇
「両者、構えよ」
スピネル様が促すと、僕はメタルブレードを構える。
魔法剣は使わない予定だ。
対するクオーツ様はレイピアを構えている。
そういえばレイピアを使う人はあまりいないな。
そんな風に思いながらクオーツ様を見ていると、
「あら、レイピアが気になるのかしら?」
「ええ、実際使っているのを見るのは2人目ですので」
「もしかしてその1人目はマリーディアかしら?」
「えっと、マリーディアさん?」
「マリーディア=ディアゴルド。スカーレットレイピアの使い手。女にしておくのが勿体無いくらいの強さよ。貴方も手合わせしておくといいわ」
ああ、マリー様のことか。
「知っています。僕もスタン侯爵様にお世話になっていますので。手合わせをしたことはありませんが……」
タケヤマの胸に炎の薔薇を咲かせた『ブラッディローズ』の威力はまだ覚えている。
今なら見えるだろうけど、当時はマリー様の動きが早すぎて結果しか分からなかったからね。
「私のは何の変哲もないレイピア。S級の魔物の素材を使って頑丈ではあるけどね。さあお兄様、始めてくださる?」
「では、始めよ!」
「直刺剣!」
うーん、速い。いきなりかあ。
この技はレイピアと相性がいい。
とりあえずメタルブレードで受けて上に弾く。
次の瞬間、クオーツ様のレイピアを持っていない手が激しく光り、思わず一瞬だけ目を瞑ってしまう。
「乱れ突き!」
弾かれて少し上向いたレイピアを力で押し戻してからの突きのラッシュ。
鈍色のレイピアが分裂してるのかと思うくらいの素早い突きが目を開けた僕に迫ってきていた。
「パリィ!」
久々に使った防御技だ。
全ての突きを捌いたあと、僕はバックステップで距離をとる。
「あんな目眩しに引っかかるのに私の突きを躱しきるなんてあなた一体……」
「魔法ありなんですか?」
「当然よ。実戦なんだから。貴方は魔物に魔法を使わないでってお願いするの?」
真剣で、って言ったから魔法なしだと勝手に思ってたよ。
あの目眩しの光は初級光魔法のライトトーチだった。
魔法禁止って思ってたから、対魔法防御もしてなかったせいであっさりと引っかかってしまった。
次からは気をつけよう。
とはいえ、高火力魔法で倒すのもなんか違う気がするので、
「瞬速連斬!」
一つ、二つ、三つ、四つ!
「何ですって!」
僕の瞬速連斬を受けたレイピアはクオーツ様の手元から4分の1くらいのところで斬り飛ばされていった。
ついでに斬り飛ばした最後の斬撃でクオーツ様の軽鎧の浅いところを真一文字に切り込みを入れておいた。
折れたレイピアは回転しつつサクッと地面に突き刺さる。
「まさか、同じ場所を精確に攻撃してこのレイピアを破壊するなんて…… 防御場所を少しずらしていたはずなのに」
やっぱりわかるか。
使い慣れた瞬速連斬なら、四回とも同じところを狙うことはできる。
クオーツ様が防御のたびにレイピアの角度を変えたりして受け流そうとするのも見えていたが、それに合わせて同じ場所を斬りつけた。
ただ、瞬速連斬ならこれができるが、時空魔法との合わせ技であるテトラスラッシュではまだできない。
例えるなら4人の僕を同時に操って完璧に同じ場所を攻撃させるようなもので、これがなかなかうまくいかないのだ。
◇◇◇
「市販品のメタルブレードで特注品のレイピアを破壊しやがったぜ」
「これはお嬢の切り札がでるか?」
どうやら切り札があるらしい。
武器を破壊したのにスピネル様は終了を宣言しない。
「まだやるのか、クオーツ」
「もちろんですわお兄様。せっかく次の段階に進めそうな相手ですのよ。いきますわよ、クラウス。……もっと強く、もっと強く、私は強くなる! 【鬼人化】発動!」
クオーツ様がスキルを発動する。
長く流麗な金髪がブワッと広がり荒れ狂う。
彼女から赤いオーラが立ち昇る。
心なしかクオーツ様の体躯が一回り大きくなったような……
そして剥き出しになった闘争本能のせいか、クオーツ様のステータスが見えるように。
どうやら彼女の固有スキル【鬼人化】は彼女の強くなりたい、なれる、という自己暗示により全能力を上昇させるもののようだ。
ただし、理性の大半が一時的に失われるらしい。
彼女の手に握られた欠けたレイピアが復元されていく。
というか、彼女の闘気がレイピアの形を象っているという感じか。
僕の魔法剣とも違う、【鬼人化】により引き出される闘気は、たぶん真似できないな。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
マリー様の名前をマリーディアにしたので、番外編マリールートでマリーが自己紹介をするセリフをマリーディアに変えています。
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