◆番外編 トルテルート 

(第42話からの分岐ルートです)


「トルテ、実は軍の魔法部隊に入らないかって誘われてるの」


「だから…… パーティを抜けさせてほしいの!」


「…………」


「クラウスさん、どうかされたのですか?」


「…………何でもありません。僕の意見はミストラルさんと同じでかまいません」


「トルテさん、私は少し席を外しますね」


「ミストラルさん、どこへ行くんですか?」


「ちょっと教会に用事があったのを思い出しまして。すみませんが、私の意見は後でということでお願いします。では」





 ミストラルがそそくさといなくなってしまったの。

 クラウスと二人きりになったの。


「クラウス、どうしたの? 黙りこんだりして」


「…………」


「……クラウス。あなたの素直な意見を聞かせてほしいの」


「…………」


「どんな考えでも軽蔑したりしないから」


「トルテさん、僕はあなたのことが好きです。だから軍に行ってほしくない。トルテさんといっしょに『永遠の回廊』に挑みたい。だけど、僕のわがままでトルテさんの夢を邪魔するわけにはいかないと思いました」


「話してくれてありがとうなの。トルテも話すね。トルテもクラウスのことが好き。宮廷魔術師の夢よりも。でも、クラウスは受付のエリアが好きなんだと思ってたから、諦めて軍に行こうかと思ってたの」


「そうだったんですか! 両想いだったんですね」


 クラウスの顔が一転して明るくなる。

 

「そうなの! よかったの! 軍にはお断りを入れてくるの! これからもよろしくね、クラウス!」


「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします、トルテさん」


「クラウス、エリアのことはどう思ってたの?」


「エリアさんは、そうですね、恩人です。返しきれない恩がありますけど、好きとかそういうのではないです」





 そうして、トルテはクラウスと冒険を続けることになったの。

 しばらくして、ミストラルは聖メルティア教国に帰ったの。




◇◇◇




 二人でS級になって数年後。











「……ラストレインボー!」


 フィールドが虹色の光で満たされる。

 

「助かる、トルテ」


「今よ、クラウス!」


「神聖斬魔流秘奥義! 天魔伏滅剣!」



 クラウスの秘奥義が『永遠の回廊』最深層のボスにクリティカルヒットする。

 一撃でS級のボスすら屠り去る斬撃を41回連続で繰り出すクラウスの奥義で斬り刻まれたボスは、とうとう膝をつく。


「人間がここまで私を追い詰めるとは…… 戯れに私が人間に与えたスキルを極めて神域魔法や剣神の奥義すら使いこなすなど、やはり人間とは面白い!」



 創造神を名乗るこの者を目の前にして、荒く息をするトルテとクラウスは未だに戦慄していた。

 『永遠の回廊』の幾多の罠を潜り抜け最深層に到達した二人のコンビが見たのは、この世界を創造したという自称『神』であった。



 戦いは熾烈を極め、経験豊富な2人ですら正体を掴めない攻撃を繰り出してくる神の僅かな隙を見極め、ようやく膝をつかせたものの、二人にもはやこれ以上の余裕はなかった。



 軽減されない無属性ダメージを敵に与えつつ、味方全員のHP全快、バッドステータス全解除、全能力上昇を付与する神域魔法『ラストレインボー』は若くして『賢者』と称えられるトルテの切り札。

 2回目を放つ余力はもうない。


 伝説のオリハルコン装備を全身に身につけ、あらゆる剣術の流派を限界まで極め『剣聖』とすら称されるクラウスの剣術も、この相手には効果が薄いように思われた。

 絶対に欠けることがないと言われるオリハルコンの大剣は、ところどころ欠けていた。





「人間である貴方たちは神である私を倒すことは叶いませんが、私が神でなければ既に倒されていたでしょう。私の最高傑作であるこの『永遠の回廊』を踏破したと認めます。何か望みを叶えて差し上げましょう。ああ、その前に貴方たちの体力と装備を戻してあげましょう」


 神が2人の前でサッと手を振ると、トルテとクラウスの体力が全快し、欠けていたオリハルコンの大剣も修復される。



「ホントに神なんだな……」


「まあいいじゃない、クラウス! あなたの夢が叶ったの!」


「ありがとう、トルテ。君がいなければここまで来られなかった。俺の夢はもう叶ってしまったから、トルテの望みを叶えるといいよ」


「……望みは2人で一つだけなどと神は狭量ではありません。一人一つずつ叶えて差し上げましょう」




 どうしようかな。

 多分クラウスのことだから、何もいらない、と言いそうなんだよね。

 本人がそれでいいと言うならそれでも構わないんだけど、ちょっともったいない気がする。


「クラウス、何もいらないとか考えてない?」


「さすがトルテ、俺のことをわかってるな。うん、何も思いつかないんだ」


「なら、全世界の人々に私たちが『永遠の回廊』を踏破したことを伝えてもらうってのはどうかな?」


「それも可能だが、『永遠の回廊』を踏破したことの証明が残るほうが良いだろう。固有スキル【永遠の回廊を踏破せし者】を作成して二人に付与しよう。ちなみに特に効果はない。これ以上強くなる意味がないからな」



「ありがとうございます。俺はそれでかまいません」


「それではスキルを付与する。……鑑定の宝珠で確認してみるといい」




【永遠の回廊を踏破せし者】

 創造神が作り給し『永遠の回廊』の全ての罠を破り、最奥の創造神を打ち負かしたことの証



 ちゃんと2人とも新しく固有スキルが追加されていたの。

 やはり目の前の存在は神だったの。




 クラウスがふと思いついたことを目の前の神に尋ねる。

 

「望みというわけではないが、あなたが人間にスキルを与えたと言っていたな。俺の固有スキル【交換】が発現した時にマイナススキルがたくさんあったのはなぜか教えてもらえるか?」


「いいですよ。私が強いと思ったスキルについては、バランスを取るためにマイナススキルも付与しているのです。でないと遊戯として面白くなくなりますからね。マイナススキルの数や内容は私の気まぐれです」


「そうだったの……」


「多分【交換】スキルを作成したときの私は、このスキルが強力過ぎると思ったのでしょうね。実際、こうして私を打ち負かしたわけですし。あなたのたゆまぬ努力もあったでしょうが」


「わかった。答えてもらって感謝する。で、トルテの望みは何にするんだ?」


「そうね……。私はクラウスと居られればそれでいいからねー」


「ふむ……。ならば、二人に固有スキル【輪廻の記憶】を授けよう。生まれ変わっても前世の記憶を保持できるスキルだ。15歳になったときに隠れスキルとして発現する」


「これで生まれ変わってもトルテのことが分かるのか」


「そういうことだ。外見は違うだろうがな。それでは、二人を外へ帰そう。もう会うこともないだろう。私は今回の反省を活かして次のダンジョンの作成に取り掛かるとするよ」


「ここのボスはどうなるの?」


「私の幻影を置いておこう。気が向けば闘うといい。それではな。このダンジョンを作るのに3千年かかったからな。次はいつになることやら……」


「3千年…… さすが神、規模が違いすぎるの」



◇◇◇



 こうして、クラウスと2人で『永遠の回廊』を踏破したの。


 国で正式に功績を認められ、歴史に名を残すことになったの。

 あのあと何回か『永遠の回廊』に挑んだけど、創造神の幻影は本物とほとんど同じ強さだったの。

 ただ、倒しても何も得られるものはなかったの。





◇◇◇





 目標を達成したクラウスは、やがてトルテと共に冒険者からの引退を決め、後進の育成に生涯を費やす。

 引退時には新たに創設されたSS級に昇格となったが、以後SS級になった者はついに現れなかった。









 そして3千年後……


 とあるダンジョンの最奥。









「やあ、会ったね。魂の色でわかるよ。私の傑作のダンジョンだったんだが、踏破したのがお前たち2人とはな……」


苦労させられたぜ」


「ホントなの。何回も死ぬかと思ったの」


「そうか、楽しんでいただけたようで何よりだ。では最後は私との勝負だ。遠慮なくかかってくるといい」


「いくぞ!」


「いくよ!」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 投稿一周年記念です!


 番外編のトルテルートで、トルテ視点のためクラウスが200%くらい美化されています。

 そして転生してもやはりクラウスは冒険者のままでした。

 永遠の冒険者エンドです。

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