◆番外編 サレンルート 

(第16話 パーティの誘い からのifルートです)



「クラウス、お帰りなさい」


「ただいま、サレン」


「おかえりー、パパー」


「おかえり、お父さん」


「おかえりなさい、お父さん」


「ただいま、ちゃんとママの言うことを聞いていたかい?」


「うん、いい子にしてたよ」


「僕も!」


「私も!」


 ウォーレン商会にある僕専用の魔道具工房から戻ってきた僕は、子どもに囲まれながらくつろぐことにした。






◇◇◇






 エリアさんの紹介で出会ったパーティーメンバーの中にサレンがいた。

 僕は最初グラマラスなサレンに惹かれ、サレンは僕の強さに惹かれていた。

 あるとき、二人同時にダンジョンの転送トラップに引っかかり、パーティに合流するまでに話しているうちに性格も合うことがわかってきた。

 やがて、どちらからともなく付き合い始め、サレンのお腹に僕の子どもがいるのが判明したのをきっかけに二人でパーティーを脱退した。


 そして、僕は責任を取るため冒険者を辞め、【初級錬金術】を活かして錬金術師としての道を歩むことにした。

 ポーション類は【錬金術】系統のスキルがないと作れないため、職には困らない。


 最初は、母の勤める薬屋で見習いとして勤務。

 サレンはウォーレンさんの紹介でクレミアン商会のメイベル支部で働いている。

 出産が近くなるギリギリまで働きたいというサレンの意向だ。

 情けないことに、僕一人の稼ぎではまだ生活の維持が厳しい。

 なので二人で僕の実家に身を寄せている。

 


 ちなみに、ウォーレンさんは僕とサレンの仲を取り持ってくれた恩人だ。

 『よくあることさ。俺は二人を応援してるからな』、と言いつつその上働き口まで斡旋してもらって、ホントに頭が上がらない。



 お互いの両親にサレンとの付き合いを知らせていなかったため、二人で挨拶に行ったらどんな対応をされるかと思ったが、僕の家は母と妹がサレンを気に入ったようで問題なかった。


 しかし、サレンの両親とはほとんど会話をさせてもらうこともできず、サレンはその場で絶縁を言い渡された。


「ごめんね、クラウス。私の両親は冒険者という職業が嫌いなの。あなたのせいではないから気にしないでいいわ。私の家族の問題なの」


 と言われ、僕は家の縁を切らせてしまったことを申し訳なく思いサレンと生まれてくる子どもは幸せにしなければ、と改めて誓ったのだった。



◇◇◇



 勤めて三ヶ月ほどした頃、錬金術ギルドの査察が入った。

 定期的なものだと聞いていたがなんだか異様な雰囲気だった。

 査察に来た人はみな何かに機嫌を伺うような顔をしており、一番偉いと思われる国家錬金術師だけがニヤニヤしている。


 薬屋の店長が別室で対応し、求められた書類を提出しているはずだ。

 内容は、商品の質のチェックや、販売価格が適正かどうかの確認、納税をちゃんとしているかどうかの確認だ。




 なぜか怒鳴り声が聞こえてくる。

 



 やがて査察一行が部屋から出てきて、僕はその国家錬金術師のステータスが見えた。

 そいつは、


「この店を営業できないようにしてやる!」


 と吐き捨てていった。


 査察の他の者は僕たちを憐れむ目で見ていた。





「店長、どうしたんですか?」


「あいつは悪名高い国家錬金術師だ。今回の査察はどうやら外れを引いてしまったみたいだ。書類は問題なかったが、賄賂と、……売り子の店員を一晩寄越さないと次の営業許可を与えないと言ってきやがった」


「そんな……」


「もちろん断ったが。すまぬ、この店はもう終わりだ。親父から引き継いで多少なりとも大きくしたというのに……。次の就職先を探しておいてくれ。君は若いからすぐになんとかなるさ」


「店長は?」


「何とかするさ。私のことは気にするな。さあ、仕事に戻ってくれ」




◇◇◇




 容赦はしない。


 僕はあの国家錬金術師に対して【交換】を行う。

 まずは【中級錬金術Ⅴ】のスキルから。

 そして【器用上昇Ⅴ】【詐術】【交渉術】と。


 さらに、もし店が潰れてしまったときに収入がなくなってしまうので、それを補うための財産の【交換】。

 サレンにも知らせた。


 しかし、本人の財産は大してなかった。

 だが、【交換】対象を所持金に変えてみると、こっちに金があった。

 常に大金を持ち歩いているとか、強盗に襲われたらどうするんだろ。 

 もちろん、もらった。

 ただ、交換した瞬間財布に入った大金貨を見て、慎重に使い道を考えないとまずいな、と思った。



 次の日、もう一度所持金を【交換】対象にすると、また昨日と同じくらいの大金を持っているのが見えた。

 変だなー、と思って所持金の前所有者をみると、彼の父親となっていた。

 なんだ、毎度親に金をもらっていて本人にはあまり財産がないのか。

 もちろん、もらった。



◇◇◇



 そんなことを繰り返してニ、三週間ほど経った。




 僕の勤めている薬屋の次の営業許可が下りた。

 とある国家錬金術師が錬金術のスキルがないのに持っていたと偽っていたことが判明し、国に対する詐欺で逮捕された。

 その後、在職時の犯罪が多数告発された。

 とある貴族は爵位を売り払い、地方へ逃げていった。



◇◇◇



 僕とサレンだけが知っている。


 その国家錬金術師は、詐欺ではなく後発的にスキルを失ったこと。

 気前よくばら撒くために用意した金がなぜかすぐになくなるので、その金を当てにしていた人間が離れていってかばう人間が誰もいなくなったこと。

 子ども可愛さに金を渡していたが、とうとう財産がなくなり逃げるしか無くなった元貴族。


 結局、元国家錬金術師は拘禁中に何者かによって殺されていた。

 彼は、死ぬ寸前自分が金を渡していた人間の悪事を全て喋って道連れにしようとしていたから、多分口封じされたんだろう。



◇◇◇



 僕が手に入れたお金は、世話になっている僕の両親にいくらか渡した。

 そして、両親の家のすぐ近くに僕とサレンの家を建てた。

 それでも余るので、僕たちの一年分くらいの生活費を除いて、冒険者ギルドを通じ孤児院や救護院に匿名で寄付した。


 お金の使い道については、冒険者ギルドの受付のエリアさんに相談し、そうしたほうがいいという結論になったからだ。

 詳細を告げたわけではないが、なんとなく悟ったであろうエリアさんは、


「冒険者でなくなってもやはりクラウスさんですね」


 と、苦笑しながら寄付に関する手続きを全て代わりに行ってくれた。

 



◇◇◇




 【中級錬金術Ⅴ】だと、一般に流通している魔道具はたいてい製作できる。

 薬屋に勤めつつ、副業として時々クレミアン商会に作製した魔道具を卸す。

 ここでもウォーレンさんの世話になった。


 いわく、僕の作る魔道具は値段の割に質が高くデザインもよいため、すぐに売れるのだそうだ。

 買えなかった人に対して高値で転売する者すら現れたらしい。

 それはイヤなので薬屋を辞めてクレミアン商会、というかウォーレンさんと専属契約を結び、魔道具を一定数供給することにした。



 あの殺された元国家錬金術師、スキルではないけどデザインの才能が当世随一だったのでほとんど無いに等しい僕のデザインの才能と【交換】しておいたのだ。

 真面目に生きていれば彼は確実に歴史に名を残していただろうに。



◇◇◇



 そうこうしているうちに無事に子どもが生まれた。

 僕のスキルも【上級錬金術】にレベルが上がり、作製できる魔道具も種類が増えさらに質が上がり、製作スピードも早くなった。

 相変わらず僕の作った魔道具は飛ぶように売れ、ウォーレンさんはとうとうメイベルでウォーレン商会を立ち上げた。




 それから、僕とサレンの間にさらに子どもが生まれた。

 ウォーレン商会は順調に規模を拡大している。

 僕は共同経営者となっていて、経営者としての給与と製作者としての報酬の両方をもらっているが、経営にはほとんど関わらずただ気の向くままに魔道具を作っている。

 やがて僕の名前でブランドが立ち上がり、ウォーレン商会は王都に支店を構えるまでになった。




 また、僕とサレンの間に子どもが生まれた。三人目だ。

 この頃、サレンの両親が復縁を申し出てきた。

 サレンに任せることにしたが、僕たちに一切金の無心をしないことを条件に認めたようだ。


 サレンの心配はもっともだったが、サレンの両親は孫の顔が見たくてしょうがなかっただけのようだ。

 金の話はされていない。

 まあ、もし金の話がでたらすぐにこちらから縁を切る、とサレンが言っているからかもしれない。



◇◇◇



 さらに数年後。


 今度、貴族の地位が貰えることになった。

 なんでも僕の作品が国王様の目に留まり、いたくお気に召されたそうだ。

 今度王都に呼ばれ、直々に国王様に謁見させてもらえるらしい。

 とても名誉なことだ。

 それから最新作は必ず先に王宮に献上することになり、販売時には王家の名前を使用してもかまわないこととなった。


 今、僕は専ら貴族向けの魔道具を製作している。

 単価がとても高く、見栄を張りたい貴族向けだ。

 それでも実用に耐えるようには作製している。

 僕の弟子たちは、僕が作った物のグレードを落とした平民向けの魔道具を量産している。



◇◇◇



 家計はサレンに任せているが、お金は勝手に増えていくのでいったいいくらあるのかよくわかっていない。

 そのへんの貴族よりは多いらしく、僕の家の周りに盗賊が増えたので貴族街に引っ越さざるを得なかったくらいだ。


 サレンいわく、『浪費の誘惑に耐えるのが大変』とのことだ。

 『子どもにもお金の使い方を教えなくちゃ』とも言っている。



 さあ、明日はどんな魔道具を作ろうかな。







◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 設定は本編と異なり、ウォーレンとサレンは恋人関係になく、ただのパーティメンバーです。


 国家錬金術師って書いてて某エルリック兄弟を思い浮かべました。

 あの作品とても面白くて好きです。


 クラウスはいつの間にか魔道具ばっかり作るようになっていました。

 魔道具職人エンドです。

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