◆番外編 ギャングスター 2
「俺の異世界無双が! チーレムが! 転生したら好き放題できるんじゃねーのかよ。空気読めよ、ゴルァ!」
タケヤマは処刑される最後までよくわからないことを言っていた。
そして、タケヤマが処刑された後、脳内にアナウンスが流れる。
『タケヤマから奪ったスキルが失われました』
途端に僕は自分のスキルやステータスが見えなくなる。
やっぱり、と落胆する僕を尻目に、スキルがレベルアップして返ってきた被害者たちが大喜びしている。
「よかった。これでギルドの頭を悩ませていた問題が解決したぞ。感謝するクラウス。のちほどギルドから特別に報酬を出してやる。お前は素直に喜べないだろうがな」
「……ありがとうございます」
ギルマスが特別報酬をくれると言うが、僕はそれ以上に失うものが多かった。
危惧していた通り【交換】スキルが消えてしまったのだ。
それに【オートヒーリング】とかも消えた。
いったんタケヤマに【交換】スキルを渡した後、【ギャングスター】で取り返したので、タケヤマからの強奪扱い。
そして奪われた本人が死ぬと奪ったスキルが消える。
今考えればタケヤマが処刑されるのは目に見えていたのに……
何で僕は気が付かなかったのだろう。
バカだ。
ミジンコ並みの脳味噌だったのかもしれない。
こうなると固有スキルとして残ったのは【ギャングスター】。
こんな危険スキル持っててもろくなことにならないのは目に見えている。
強くなろうにも奪った相手が死ぬと使えなくなるから一時的な強化にしかならない。
また、奪った相手は生かしておかないと意味がないのでリベンジにも常に気をつけておかなければならない。
上級のダンジョンに潜っているうちに突然スキルが消えたりしたら生死にかかわる。
順調な冒険者生活という目論見がダメになったことを悟った瞬間だった。
◇◇◇
「この鑑定の宝珠の上に手を置きなさい」
僕の目の前には黄色く輝く丸っこい物体がある。
鑑定の宝珠なんて初めて見た。
ここは王都にある軍の治安部隊本部の建物の一室。
必要なもの以外が一切ないシンプルな部屋。
タケヤマの処刑後、あらためて僕はエリアさんに今後の身の振り方を相談した。
そして、ギルマス等も含めて相談の結果、軍に入るということになった。
ギルマスは身分が軍属扱いらしく、そこから取りなしてもらった形だ。
まあ、ギルドではこの【ギャングスター】のスキルを扱いきれないという判断の結果のようだけども。
鑑定の宝珠の上に僕のステータスが表示される。
スキル【ギャングスター】のところには奪ったスキルと相手の一覧があるが、いまのところ表示はなしだ。
タケヤマに使って以来一度も使っていないからね。
これで僕がみだりにスキルを使ったらバレる、ということがわかる。
僕を引き取ってくれたのは、治安維持部隊第9班。
軍内での通称は「クライムハンター」。
一般にはあまり知られていない。
【催眠術】【読心術】【誘惑】などなどちょっと訳ありの固有スキル持ちばかりが集まり、主に凶悪犯罪者を相手とするところらしい。
エリアさん達と考えた結論は、【ギャングスター】を一般人に対して使うのは言語道断で、犯罪者になら罪悪感とかも少ないと思われるが、自分の勝手な判断で断罪しても最終的に捕まるのは自分だ。
となると、国の監視下で自分の安全を確保しつつこのスキルと付き合うのが最もいいだろうということになった。
なので軍には素直に僕のスキルを明かして悪用するつもりはないことを説明し、鑑定の宝珠でのチェックも受け入れたのだ。
◇◇◇
治安維持部隊第9班に所属して数年。
僕はエース級の活躍をしていた。
かすり傷でもいいからとにかく当てさえすればスキルを奪って相手を無力化できる、というのはかなり強力で、軍からすれば使い勝手が良かったようだ。
凶悪犯罪者を処刑すればスキルが失われるので、僕が必要以上に強くなることはない。
また、犯罪者以外からスキルを奪ったりしても鑑定の宝珠でバレるからそんなことはできない。
軍から結婚相手もあてがわれた。
相手はディアゴルド侯爵家三女クロエ=ディアゴルド様だ。
クロエ様は赤髪のショートカットヘアで、勝ち気な性格の年下だが、剣術、体術に関しては僕よりスキルが上で、【剣術マスター】【体術マスター】も近いという。
そういう人材がゴロゴロいるというのだから、国という組織は侮れない。
逆らわなくて正解だった。
クロエ様は僕の見張り役も兼ねているのだが、夫婦というのは案外そう悪くもないものだ。
ただ一つ心残りは、『永遠の回廊』に挑んでみたかった、ということくらいか。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回の番外編は短いですがこれで終わりです。
クロエは本編でも出したばかりですが、ifルートなので関係はありません。
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