◆番外編 暗黒街の皇子 6
驚き困惑する僕に対してエリアは冷たく言葉を放つ。
「最後だから教えてあげる。私のスキルは【神罰の執行者】。普段は発動しないけど、ある条件を満たせば自動で発動する。発動したら最後、相手は必ず死ぬ」
「必ず相手を倒せるなんて夢のようなスキルがあるわけが……」
「あるのよ。代償も大きいけれど。【神罰の執行者】は、神より与えられし固有スキルを悪用した者が非道の限りを尽くした時にのみ発動するの」
「…………」
代償とはなんなのだろう。
「【神罰の執行者】の効果により、相手は固有スキルと汎用スキルの全てを封じられる。対峙した者のステータスは強制的に全て1となる。身につけている武具は全て極限まで弱体化し、特殊効果があっても発揮しない。アイテムも効果を発揮しない」
「……君で試していいかい?」
そして僕はいつも身につけている宝剣ミザリーフェイトを構える。
この剣は不死身のペイルが持っていたものだ。
「やってみるといいわ。無駄だけど」
「痛くても許してくれよ。後で回復してあげるから!」
僕は振りかぶってエリアに斬りかかる。
エリアは全く素人の剣筋で迎え撃つ。
見る限りエリアの剣は数打ちのもののようだ。
ガキン、と一瞬だけ金属がぶつかる音がし、直後に宝剣ミザリーフェイトが真っ二つに折れた。
「…………なん…………だと…………」
「言ったでしょう。武具は性能が落ちると。たとえオリハルコンの武具でも鉄屑以下になるわ」
……これが【神罰の執行者】か。
エリアの言う通り【交換】スキルが発動せず僕は自分のスキルやステータスすらも見えなくなっていた。
「自分のステータスも見えないでしょう。さあ、一般人以下になった『
「…………」
僕は無言でマジックバッグから予備の剣を取り出そうとする。
が、マジックバックは開かなかった。
本当にアイテムが使えない。
『
「『裁きの時は来た! 願わくば、彼の者の穢れし魂を救わん! ニルヴァーナエッジ!』」
エリアの詠唱が終わり、僕はなす術もなく浄化の光を纏った剣により袈裟懸けに斬られる。
速さも1らしいから避けられるはずもない。
自分の血飛沫が見える。
斬られると同時に僕から黒い靄が抜けていった。
◇◇◇
「クラウスさん!」
両膝をついて倒れ込む僕を抱えるエリアさん。
さっきまでとは違って悲しく泣きそうな顔をしている。
……ああ、僕はなぜエリアさんを泣かせているのだろう。
エリアさんの言う通り、道を誤った僕が悪かったのだ。
いまさら改心しても遅いのだろうけど。
「……エリアさん、すみません。また、貴方に助けていただき、ました。ごほっ、僕の書斎には、隠し部屋が、あります。そこには、今までの組織の記録が、……あります。ごほっ、ごほっ、それで、組織を壊滅、できる、はず。せめてもの、罪滅ぼし……」
「ごめんなさい、あなたが姿を見せなくなった時に探せばよかった…… 私はあなたのこと……」
彼女の言葉を最後まで聞くことはできず、霞みゆく視界の中、僕が最後に見たのはエリアさんから零れる涙だった。
◇◇◇
1年後、王立無縁墓地の一角にエリアは立っていた。
「クラウスさん、あなたの言う通り隠し部屋から大量の書類が出てきました。それをもとに『ブラックカンパニー』の悪事が全て明るみに出ました。律儀に書類を残していたなんてクラウスさんらしいですね。あの善良な貴族の暗殺を依頼した貴族も捕まえることができました」
エリアは名もない墓標の前で誰かに報告するように独り言を紡いでいた。
本来なら大罪人は墓を建てることが許されない。
しかし、エリアの懇願により、他の墓と区別がつかないように、という条件のもと特別に無縁墓地にクラウスの墓が作られた。
そしてその場所は、エリアにしかわからない。
「クラウスさんが残していた証拠により騎士団が一斉にアジトを襲撃し、『ブラックカンパニー』は壊滅しました。真っ当な商売を演じていたところは何も知らない従業員に混乱が生じていますが、そのうち収まるでしょう」
エリアの独白は続く。
「……私の【神罰の執行者】は、絶大な効果と引き換えに相手の人生の記憶を引き継ぐのです。そして、忘れたくても忘れることができない。殺した分だけ記憶が蓄積していくのです。気が狂うことも許されない。それが代償なのです」
周りには誰もいない。
ここに来るとしたら月に一度の清掃人くらいなものだろう。
「私に【神罰の執行者】が与えられて初めて発動したのはクラウスさん、あなただったのですよ。こんな初めてうれしくないでしょうけれども……」
◇◇◇
王立無縁墓地。
その片隅には、二つ寄り添うように建てられた墓標がある。
片方は、【神罰の執行者】のスキルを持ち、数々の極悪人を容赦なく葬ってきた女性のものである。
彼女はずっと独身のままだった。
彼女たっての願いで、その場所に墓標が建てられた。
誰も墓参りに来ないそんな場所を指定した理由は、彼女の口から語られることがなかった。
彼女の多大なる功績ゆえに名誉ある英霊墓地に移すべきではないかという意見も多かったが、結局は故人の意思を尊重すべきということになった。
……そして、もう片方の朽ちかけた墓標。
彼女の墓標を知る者はいても、その朽ちかけた墓標を気に留める者は、誰もいない。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
バッドエンド編でした。もちろん本編とは設定が異なります。
書きたかったのは悪いクラウスとエリアの中二みたいなスキルだったのですが、気が付けばこんなに長くなってしまいました。
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