◆番外編 暗黒街の皇子 5 

 一応【探知】により周囲を警戒しているが特に何も起きない。

 他の幹部もボスの復活を待っているが、何分経ってもボスの身体は動かないままだった。

 生きていれば僕のスキルが反応するはずだが、それもない。



「『不死身のペイル』が……」


「誰も殺せないはずのボスがなぜ……?」




◇◇◇

 ペイル


 固有スキル【ヴァンパイアライフ】

 

 このスキルを持つ者は、直接・間接に殺した者の命をストックすることができる。ストックした命は自身のステータスアップに使えるほか、自身が死んだときにそのストックを使って任意の場所で復活することができる。

 ストックの上限は9999。

◇◇◇




 ボスが僕に悪意を持ったことで見えた内容はこういうものだった。

 

 致命傷を与え続ければいつかはボスを殺すことができる。

 が、任意の場所で復活することができるから殺し続けるのは無理だ。


 どうやってボスを殺したかというと、ストックの数を【交換】したのだ。

 僕は【ヴァンパイアライフ】を持っていないからストック数はもちろんゼロ。

 ペイルが持っていたストックは9999。

 同種のものならなんでも【交換】できる僕のスキルでストック数を交換し、直後に首を刎ねて終わり。


 ボスは自分が復活するという確信のもと不敵な笑みを浮かべた顔のまま絶命した。




「誰か僕がボスになることに異議のある人はいますか?」


「…………」


 誰も何も言わない。

 仮にいても僕のステータスなら誰でも瞬殺だ。

 伊達に敵対組織との抗争の中で地道に交換でステータスやスキルを強化していたわけではない。

 たとえS級の冒険者がいたとしても問題ないだろう。

 


◇◇◇



 こうして僕は『ブラックカンパニー』のボスとなった。

 

 部下からの上納金は全て僕のもの。

 離反が起きないように適切に分配する必要はあるけど。



 やがてとある王国の有力貴族から敵対する貴族の暗殺依頼が来るまでになり、莫大な報酬と引き換えに僕自らが成功させた。

 僕が暗殺した貴族は人格者で領民にすら慕われていて、彼の葬式には国王さえ列席したという。

 その墓には領民からの花が絶えないらしい。

 ただ、僕はそれを聞いても特に何も感じるところはなかった。


 これにより裏社会で僕の名は不動のものとなる。




◇◇◇



 今日も一日が終わって、自分の家に帰ってくる。

 僕の家はメイベルのスラム街の中にある。

 まさかこんなところに『ブラックカンパニー』のボスがいるとは夢にも思うまい。

 来客などあるわけがない。


 だが、この日は違った。




 夕食を終えて静かに読書をしていると、ふと人の気配を感じる。

 そこには軽鎧を纏った麗しき女性がいた。


 一体どこから入って来たのか。

 どうやって僕の最高レベルの【探知Ⅴ】を潜り抜けたのか。

 そして何者なのか。



「クラウス、残念だわ。こんな形で再会することになるなんて」



 何者かはすぐに分かった。

 もう何年も見ていないが忘れることもない美貌、声は変わっていない。



「どうしたんだい、エリア。久しぶりだね。武装した姿も綺麗だよ。さしずめ戦乙女といったところかな。けど、僕としては鎧を脱いだ君と相手をしたいな。一人で男の部屋に来たんだ、そういうことだろう?」



 抱かれにくる女性が武器を持ってるわけないが、冗談めかして話しかける。

 抱きたいのは本音だが。




「冒険者になりたてのときのあなたはどこにいってしまったの? どこで道を誤ってしまったの? ……せめて私の手で引導を渡してあげる」


「つれないねえ。そんな険しい顔をした君も魅力的だよ」


「姿を見せなくなった貴方は無事なのだろうかと思っていたけれど、まさか『暗黒街の皇子プリンス・オブ・ダーク』になっていたなんて予想外すぎるわ。でも、それもここで終わり」



 エリアが僕に剣を向ける。

 その姿すらも凛々しい。



「僕に悪意を持ったね。もう僕には勝てないよ。さあ、君も抱いてあげよう。……なぜステータスが見えない?」




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 不死身のカラクリを考えてかつクラウスに撃破させる方法に苦労しました。

 GW特別編も次で終わりです。

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