◆番外編 暗黒街の皇子 4
もうギルドにはほとんど行っていない。
脱退の手続きをしていないからまだ籍はあるはずだ。
というか『ブラックカンパニー』の幹部が素知らぬ顔で冒険者ギルドに顔を出すとか無理だ。
他の幹部の中には、表向き真っ当な商売をして二足の草鞋を履いている者がいるが、僕はそんなに芸達者じゃない。
エリアはどうしているだろう。
数多の女を経験してきたが、多分エリアはぶっちぎりで最高の女だろう。
いつか抱いてみたいな。
◇◇◇
正式に幹部になってからは忙しくなった。
幹部とか椅子にふんぞり返って高級なネコをなでなでしてればいいんじゃないかと思っていたが、そうではなかった。
現場に出ることはあまりないが、下っ端が起こしたトラブルの仲介が思いの外時間を取られる。
他の組織との縄張りギリギリで事件が起きるととてもめんどくさい。
死人が出るともみ消すのも大変だ。
その度にお役所に金か女を握らせないといけない。
それでも靡かない役人の鑑とも言うべき人に対しては、家族への危害を示唆して黙らせる。
それでも聞かないなら軽く家族を誘拐してこちらの本気を見せれば大人しく言うことを聞くようになる。
というか、真面目なほど損するってどういうことなんだろう。
職務に不誠実で賄賂をもらった役人は金持ちになるが、真面目な者は恐怖と悪に屈してしまった罪悪感に苛まれなければならない。
それと、娼婦たちの相手を定期的にしないといけない。
これもしんどい。
体力は誰かと交換すればいいが、義務的な行為となるとあまり楽しくない。
気持ちはいいんだけど。
僕の権力の源泉は彼女たちなのだ。
彼女たちが一般人相手に稼いでくる金は貴重な収入なので、あまり雑にも扱えない。
それ以外にも、彼女たちは役人にあてがうのに必要だ。
好みの女性をあてがうほうが当然効果が高いので、できれば数多くストックしておきたい。
◇◇◇
そんなこんなで忙しく過ごし、『ブラックカンパニー』への貢献度も多くなってきた僕だが、あるとき少し余裕ができた。
そして考える。
こんなに苦労して稼いで上納しているのにボスからの報酬はさほどでもない。
独立したほうがマシではないか。
しかし一から組織を作るのは面倒だ。
しかも『ブラックカンパニー』から抜けさせてくれるとも思えない。
じゃあボスを殺して僕が組織を乗っ取ろう。
でも、ちょっとだけ問題があった。
ボスの秘密を探ろうとした者は悉く帰らぬ人となっている。
元店長にも聞いたが、ボスは『不死身のペイル』と呼ばれている。
いわく、騎士団に捕まり処刑されたが生き返って脱獄した。
いわく、暗殺者に心臓を一突きされたがすぐに生き返って返り討ちにした。
いろいろあるが、本当に不死身なはずはない。
多分固有スキルの効果だろう。
仕方がない、出たとこ勝負だ。
◇◇◇
幹部会にて、他の幹部たちの報告が終わって僕の番だ。
「早速ですが、ボスを始末してこの組織を貰い受けます。ボスは普段から『力こそ全て』と言ってるからいいですよね」
僕がただの報告事項かのごとく淡々としゃべったからか、しばらく沈黙が続く。
僕が言ったことをようやく理解したのか、
「久しぶりにバカが現れたか」
「『不死身のペイル』を殺せるわけがない」
などと他の幹部たちがざわめき始める。
当のボスはと言うと、
「好きにしろ、と言いたいところだがお前は勢力を拡大しすぎた。私を脅かすほどに。ここで退場してもらおう」
と、ポツリと呟くように発言した。
「ちょうどよかった。はい、死んでください」
僕はすぐさま接近して手刀でボスの首を刎ねる。
そして、ボスは二度と起き上がってこなかった。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
まだまだ続きます。
もう少しでタイトル回収できそうです。
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