可愛い転入生が俺の幼馴染かもしれない

第1話転入生 八女井凛

中学最後の春休みが終わり、今日から高校一年生になった。

 厳しい受験シーズンを乗り越え、新たな制服に身を包み、今までと違う学び舎への期待を胸に通学をする……なんてことは俺にはない。

 すべての高校に落ちて浪人をする……わけではない。ただ、中高一貫校なだけである。

 輝翔キト高等学校……通称キト高である。

 福岡県にあり、学校から見える多くの山は授業の暇つぶしには丁度いい。昔からある学校をリフォームして建てられているため、所々が古くなってしまっているが、それらを差し引いても余りあるメリットが、高校受験をしなくても良いところである。この一つのメリットの為だけにこの学校を受験することに決めた。

 「やっば、遅刻する」

 始業式ということで少し昔のことを思い出していたら、バス出発時間に間に合うギリギリの時間になっていた。初日からスクールバスに遅れるのは勘弁である。ただでさえ、家から学校が遠いのにバスに乗り遅れてしまったら休むのがほとんど確定である。

 そんな風に考えながら自転車を漕ぐ。漕ぐ、と言っても三分程度な為たぶん間に合うはずだ。

 バスの停留所が家から近いのがせめてものの救いだな。

 そういう風に考えた後、ただひたすらに無心でペダルを回した。

 バス停留所近くの駐輪場に自転車を止め、時刻を確認すると、バス出発の三分前であった。

「意外と早かったな」

 そうして俺はバスに乗り込み、40分かけて学校へと向かった。

 通学中に寝ても乗り過ごさないし、スマホも見れるって最高じゃね?まぁ、スマホは学校公認じゃ無いけど……。

 バスから降りて、いつもと同じ昇降口を通り、一学年前の靴箱に靴を収納し、階段を上り、今まで一年間使ってきた教室の扉を開ける。

 一番後ろの窓側に位置する席に座ると同時に、背中が軽く叩かれる。

「おはよ。いや~楽園だった春休みが終わっちゃったね」

 俺に話しかけてきたのは、キト高で出会った……俺の数少ない友人ーー西島流華にしじまるかである。

「まぁ、今日はちょっと楽だよな。掃除して入学式の準備して終わりだたよな?」

 俺がそう聞くと、少し呆れたような表情をしながら西島がしゃべり始めた。

「ちゃんと貰った月間行事予定表見てる?一応転入生が来るかもって朝から皆落ち着きをなくしてるんだけど……」

 西島から話を聞き、少し周りへ聞き耳を立てていると、様々な声が聞こえてきた。

 ーおい、転入生めっちゃ可愛いって聞いたけどどうなんだよ。

 ーしらねぇよ、ただ、春休みの間部活に来てたやつは会ったらしいが、凄い美人だったらしいぞ。

 少し聞き耳を立てただけでこれだけの声が聞こえてくるとは正直思っても無かったが、未だになぜこれだけ噂になるのかがわからない。

 中高一貫校であるキト高は、高校に上がる際にも編入考査をしているらしいが、先輩たちの代では予定表に書かれていなかった。しかし、俺たちの予定表には、編入考査という文字が書かれているため、転入生が来るかもという噂が立っている……というのを今教えてもらった。

「へぇ、まぁ来たら来ただけど、その転入生が俺たちのクラスに来るとも限らないから、今気にしても変わらないんじゃないかなぁ」

 俺がそういうと、少しムッとしながら西島は反論してきた。

「その転入生が私たちのクラスに来るかもしれないから皆落ち着きをなくしてるんだよ?」

 確かに。それでも反論しようとしたら先生がやってきてしまったため、ここでディベートは切り上げになってしまった。

 入って来た先生は俺たちの名前と次の学年での組を呼び、そのままHRを始めた。

 やはり、所詮噂は噂だ。予定表に書かれているからと、勝手に期待するのは良くないのではないだろうか。

「じゃあ、このまま階段を下りて四年の教室行けよ~」

 先生に促されるがまま、俺たちは階段を下り、俺たちは出席番号順に椅子に座った。

 皆が座り終えるのを確認すると先生が話し始めたが、正直何を話しているのか全く聞いていない。俺が考えていたのは一つだけ……なぜか俺の横の席に人がいないことだ。もしかしたら初日から休んだ人間の可能性もある、その場合は……今の時間が無駄になるだけだ。

「と、今まで色々話してきたが、正直お前らが俺の話を聞いていないことは、話しながらでも分かった」

 流石先生といった所だろうか。俺たちが別の話題に興味を示しているのを感じ取ったらしい。

「じゃあ、ここで別の話題に行こう。お前らが興味を示しそうな話題にーーお前らの大好きな転入生だ。入っていいぞ」

 先生が扉に向かって大声を出すと同時に、扉が横にガラガラと音をたてながら、スライドしていく。

「転入生のーー」

八女井凛やめいりんと言います。好きなものはクッキー。好きなことは散歩です。皆さん仲良くしてください」

 八女井凛ーーショートカット気味な黒い髪、前の席の頭のせいで良く見えはしないが、場の空気的にとても目鼻の整った顔をしているのだろう。

 八女井さんがしゃべり終え、一泊置くと、クラス中から大歓声が巻き上がった。さすがの豹変具合に俺はたじろいでしまったが、それでも、ほとんどのクラスメイトから歓声を浴びただろう。

 時には席を立ち友達に話しかけに行く者も現れ始めた。

 それから程なくして先生からの注意でようやくクラスは静かになった。

「それじゃ、席は氷室ひむろの隣な、じゃ」

 そう言い終わると先生は教室を後にした。

 こちらを見ながら笑顔を見せる八女井さんに俺は、引き攣った笑みしか見せれなかった。

 次は俺が静かにされるかもなと心配しつつ、早く時間が流れるのを祈った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る