第3話 3日目 アイガーハイキング 修正版

※この小説は「スイスを旅して」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


トラベル小説


 朝7時にホテルで軽い食事。パンとコーヒーとハムといったオーソドックスな朝食だ。前回は夏に来たので、多くの日本人ハイカーがいたが、今回は皆無だ。

 今日は、アイガー北壁のふもとをハイキングする計画だ。およそ4時間の下りの道を歩く。妻は足の調子が本当ではないので、私一人で歩くことにした。

 クライネ・シャイデックまではハーフチケットを使って往復4000円程度。時刻の指定はない。10時の電車で上がることにした。今日もいい天気だ。クライネシャイデックに行き、おみやげ売り場をのぞいた。妻はコーヒーカップを買っていた。陶器を買うと後が大変なのに・・と言おうとしたがやめた。言ったところで機嫌が悪くなるだけだ。私もキーホルダーやマグネットといった小物を購入した。チロリアンハットにつけるバッジも購入した。

 クライネシャイデックでしておきたいことがひとつあった。ユングフラウをバックに芝生で寝転がっているところをカメラにおさめたかったのだ。妻はあきれながらカメラを構えてくれた。が、乾いている芝生がなかなか見つからない。少し登る羽目になった。何とか乾いている草原を見つけ、横たわったところを撮ってもらったが、山を入れたので私の姿はアリのごとくの小ささだった。妻のテクニックをどうこう言っても仕方ないことだった。

 ユングフラウの右下方に、三角錐のきれいな山が見える。調べてみると「シルバーホルン」(3,695m)というらしい。氷の山だということだ。今までに見た山でもっとも美しい山と感じ、何度もシャッターをきった。

 さて、昼食の時間となった。昨日来た時に、駅構内のレストランのメニューチラシに食べてみたいものがあった。ホワイトアスパラガスのハム巻きだ。以前、ドイツで食べた味が忘れられず、また食べることにした。ところが、私の英語では通じない。結局、写真入りのメニューを持ってきてもらって、やっと注文できた。

 出てきたホワイトアスパラガスは3本。それに生ハムとポテトが添えられている。かけられているクリームソースの味が違うので、ドイツの時と同じとは思えなかったが、それなりのおいしさはある。23フランなので、3000円程度。スイスでは常識的なランチの値段だ。テラス席で食べていたので、脇を通る観光客がおいしそうなものを食べているなという顔をしているのがおかしかった。

 12時過ぎ、帰りの登山電車に妻を乗せて見送った。ここから一人歩きだ。

 歩き出しは結構きつい下りで、大き目の石ころが転がっている。軽登山シューズをはいていて正解だった。

 少し歩くと案内板があった。コースの説明があり、オレンジの色の案内板が初級ルートと書いてある。途中の分かれ道で間違えないようにしないといけない。すると、MTBで降りていった人が大き目の石にハンドルをとられてコケてしまった。助けにいこうとしたが、すくっと立ち上がり、またペダルを踏み始めた。こちらの人にとっては日常茶飯事なのだろう。

 ヨーロッパの人と思われるハイカーの歩くペースは速い。私がゆっくり歩いていたせいもあるが、10人ほどのハイカーに追い抜かれた。私が追い抜いた数は0である。右にはアイガーの北壁がそびえたつ。圧倒的な迫力がある。そこを登頂する人間がいるとは信じられないぐらいの垂直の壁だ。そして足元には花畑。リンドウらしい青い花がきれいだ。小さな花びらをつけている黄色には花の群生も見事だ。そのたびにカメラを構えているので、追い抜かれるのは仕方ない。スピード競争をしているわけではないので問題ない。

 分かれ道で、木を切り抜いた水飲み場を見つけた。飲めそうなくらいきれいだ。でも、手を洗うだけにした。氷河がとけた水なので石灰分が多い。地元民は飲めるのだろうが、日本人の口に合わないことは明白だ。後で知ったことだが、この水は放牧している牛などの動物用だということだ。飲まないで正解だった。

 山をバックにして、芝生に横たわっているところを写真に撮りたくて、セルフタイマーでカメラをセットした。三脚がないので、石ころを使って構図を定めた。何枚か撮ってみたら1枚だけ見られるものがあり、年賀状用にすることにした。スイスの芝生で昼寝をする。というのが30年前からの願いだったのだ。それを妻に言うと呆れていた。

 1時間ほど歩いたところで、「ドドー!」という音が聞こえた。雪崩だ! アイガーの北壁を見ると、二筋の線ができている。小規模の雪崩だが、音はすごい。線路の向こうなので、ハイキング道まで来るような雪崩ではない。近くに石でできた退避小屋があった。火山ではないので、雪崩のための待避所だと思う。冬場はここも雪崩の危険があるのだと感じた。

 1時間半ほどで線路を横断する。ラック式なので線路の中央に電車のラックと噛ませる凸凹状の線路がある。これがあるから急斜面を上り下りできるのだ。

 2時間近く歩くと雨粒を感じた。山の方を見ると、雲がかかっている。急な天候変化だ。このままでは嵐がくるかもしれないと判断し、線路沿いの道を小走りで降りる。そこに下りの電車がやってくるのが見えた。駅まで残り100m。できる限りのスピードで走った。それでアルピグレンの駅で電車に乗ることができた。ふつうより長く停まっていたのは、私が走ってくるのを見てくれていたかもしれない。スイスの鉄道の時刻表はあってないかのごとく。お客さんがいれば、乗せるという田舎のバスと同じ感覚だ。こののどかさがいい。

 グリンデルワルドに着くと、雨が本格的に降っていた。ホテルは駅の隣なので、駆け込んで部屋にもどり、シャワーを浴びる。その後に山を見たら嵐の様相だ。翌日、ホテルのスタッフに聞いたら山の上は雪だったとのこと。6月なのに雪は降るのだ。

 夕飯は、ホテルのレストランで「チーズフォンデュ」を食べることにした。前回は3才の娘を連れていたので、やけどのおそれがあるメニューなので避けていた。今回は気兼ねなく食べることができる。

 パンとポテトをチーズにつけて食べるだけなのだが、チーズの味がいい。これは大人の味だ。子どもではわからない。一口目の味は格別だ。まろやかさとチーズの風味がマッチしている。口直しのピクルスもいける。でも、半分を過ぎたあたりでペースが落ちた。量が多いということもあるが、なんか酔っぱらった感じがしてきた。後で調べたら白ワインが入っていたとのこと。やはり大人の味だった。二人で8,000円程度。気軽に食べられる料理ではない。

 

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