第6話

大学4年生になった私は単位を全て取り終わり

バイトと旅行で最後の学生生活を謳歌していた。


朝のんびりと起きてきて、テレビからのニュースを見るでもなくぼーっと麦茶を飲んでいた手からグラスが落ちた。


テレビを背にして洗濯物を干していた母が

「なに!!!なんの音、どした!なにがあった!」

と振り向きざまにまくしたてた。


「あ、お母さん!もしかしたらたけちゃんが…」


最後まで言い終わらないうちに、母の携帯が鳴った


いつもの同じ音なのに何故か切羽詰まった音に聞こえる


テレビではニュースの緊急速報テロップが流れている

〜大学教授と研究員何者かに刺される〜

スタジオでは慌ただしく速報が読み上げられている

画面に映る大学は武の大学だった

武の写真こそ出ていなかったが、あのくしゃっと笑っていた教授の写真が大きく映し出されていたのだ。


動揺のあまり、電話をお手玉のように手の上で何度か転がしてやっと通話できた母が大きな声で話す。


「なに、なにお姉ちゃんしっかりして

とりあえずそっちにいくから待ってて」


電話を切る母と目が合う。


視線をテレビと母とを高速で行ったり来たりさせながら


「わたしもいく!」


寝起きの顔も格好もそのままに2人で伯母の家に走った。


家に着くと伯母は玄関にいて

これから病院に向かうと言うので私はタクシーを拾いに走った。


警察からの連絡では詳しいことは言われず重傷を負って病院に運ばれたのできて欲しいと病院の名前を告げられただけのようだった。


タクシーの中でスマホで見た速報によると、今朝9時ごろ教授と研究員が外部から侵入したと思われる男性に刺され重傷。

男性は逃走し、刺された2人は病院に運ばれたとの事。



無言で手を握りあって病院へ向かった。


空いている方の手で最新の情報を見ようとスマホのニュースを更新した指が止まる


教授死亡…


嗚咽をこらえた。母にも伯母にも今は言えない。

たけちゃんは大丈夫…たけちゃんのことは何も言われてない。大丈夫大丈夫


病院に着くと報道陣が多く待機していて、事件の大きさと共に、これは本当の事なんだという実感が辛かった。


母は伯母を支えながら小走りに、私は2人の先頭を走ってたけちゃんの居場所が分かる人を探した。


たけちゃんは緊急手術中だった。

先に病院についた伯父が同意書にサインをしたらしい。

そうか、最初から伯父に電話すれば良かったんだ…

緊急時とは当たり前のことを難しくする。


伯父にあって切羽詰まっていた伯母が崩れた。


4人は無言で待合室に座り、父もニュースを見て駆けつけた。

そうか、父にも連絡した方が良かったんだ。


幸い武は一命は取り留めた。


警察の人が伯母たちに話しているのを隣で聞いていた


教授の叫ぶ声を聞いて駆けつけた時に男と遭遇し、腹を刺されたらしい。

教授は何ヶ所も刺されていたため助からなかったと。


今日は家族以外は面会出来ないとのことで

私たち3人は黙ったままタクシーに乗り黙ったまま家に帰った。


ニュースをつけてやっと母が声を出した。


「誰よ!なんでよ!武をこんなめに!教授をこんなめに!!」

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