第5話

5年後・・・

大阪道頓堀

観光客が思い思いに写真を撮ったり、忙しなく通り過ぎる人がいたりするなかで、あきらかに注目を集めている男がいた。


阪神タイガースのユニフォームを思わせるピンストライプのタンクトップ。

胸にはタイガースの文字がある。

それに同じ柄の短パンを履いて両手片足を上げて立っているのだ。

観光客にお馴染みのグリコの看板が見えるところでグリコのポーズをしている。

面白がって写真を撮る人が沢山いた。

大道芸人のように身動きひとつせず頑張って片足で立ち続けていたのだが、3月の初旬の気温は低く生憎の強風でようやく観念して足元にあったボストンバックに手をかけた。

そしてそのままの姿で人混みを抜け、目指す物があるような歩き方で闊歩していった。


その目指す先は交番だった。

躊躇することなく引き戸を開け中に入る。


「すみません、落とし物を拾ったのですが」


と右手に持っていたボストンバッグを台の上にドサッと置いた。


「あどうもありがとうございます拾った場所と時間と

あとは差し支えなければお名前と連絡先を記入してください」


そう言って用紙の挟まったバインダーを渡しながら、バックの中身を確認する。


「持ち主が現れた場合、連絡しますか?

あとは、持ち主がお礼の連絡をしたい場合はどのようにしますか?」


そう言われて男は

「いえ連絡は結構です。よろしくお願いします」


と言って交番を後にした。

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