第3話 チャラ男でもパズルくらいします
観客のいないステージ。キラキラ輝くアイドルのステージというより、ラップバトルとかをするようなカッコいいステージだ。少し落ち着いた柑奈と一緒に、私たちの運命を決める決闘の様子を伺っていた。
「形式は?」
「お好きにどうぞ」
「ならタイマンの勝ち抜きだ」
「勝ち抜きって、三人いるアンタらの方が有利じゃん!」
「うっせぇ。外野は黙ってろ」
「外野じゃないわよ!アンタら誰を賭けて決闘してると思ってんのよ!」
リーダー格の男は鬱陶しそうに騒ぐ私を無視して少女と話を続ける。
「で、いいか?」
「いいわよ」
「それじゃあ第一回戦始めるか」
リーダー格の男はそう言って後ろに下がり、代わりに手下の男を一人前に出した。最初はこの二人の対戦のようだ。
「種目も俺らで決めていいか?」
「いいわよ」
「へぇ、自信があるんだね。それじゃあ遠慮なく。俺がやるのは……パズルゲーム!」
男が高らかに宣言すると閑散としていたステージが急に揺れ始めて、地面から二つのモニターが迫り出してきて、ステージがカラフルにライトアップされた。さらに無個性な大男はギザギザ頭の金髪チャラ男に変身していた。
「ヒュー!やっぱ決闘の時はバイブスぶち上がる格好じゃねぇとな!」
さっきまで無言で威圧していただけの男の変わりように驚いて私と柑奈は目を見合わせる。
「多分私たちを威圧するために大男のアバター使ってただけで本当はあのアバターなんだろうね」
「あぁ……それで」
柑奈の説明で納得し、再び決闘の方に注目する。ストリート系の衣装を着ている少女はポケットに手を突っ込んでモニターを注視していた。
「一筆書き、アナグラム、知恵の輪……このゲームは世界のありとあらゆるパズルが遊べる。お前との勝負に使うのはランダムモード。ランダムに選出されるパズルを先に5問解いた方の勝ちだ」
「難易度は?」
「ベリーハード。二番目に難しいやつだ」
「分かったわ」
淡々とルールが決められ、二人がモニターの前に立った。
「あの見た目でパズル得意なんだ」
「おうよ。こう見えて大会優勝したこともあるんだぜ?」
「ひえっ、す、すみません!」
小さな呟きに反応してくるとは思わず、柑奈は私の後ろに隠れて謝った。チャラ男は残念そうに眉を下げてモニターに向き直った。
「意外とフレンドリーね」
「仕事だから怖い顔してただけ。いつもならあんなに可愛い子を脅かしたりなんかしないって」
チャラ男が画面を操作してルールを設定していき、スタート直前まで進んだ。チャラ男はパンと両頬を叩いて気合いを入れてから、一度会話をしてから無言を貫いている少女に話しかけた。
「ねぇ、君の名前って何なの?」
「……Fとでも呼んで」
「オーケー。じゃあエフちゃんよ、あの子達に変な期待を持たせるのはやめときな」
チャラ男はボソリと何かを呟いてからスタートボタンを押した。それと同時に二人の画面にマス目と、それにはめ込むためのピースが十個くらい映し出された。正直言って私には解けないレベルの複雑な形をしているのに、チャラ男は迷わずピースを取っていき次々と埋めていく。一方少女は一切動かず、じっと画面を見つめていた。
「どうしたエフちゃん。俺はもう一個目終わっちまうぞ」
彼の宣言の通り、僅か一分でパズルを解いてしまった。彼の実力は本物で、少女は一切動いていない。柑奈は不安を感じたのか、私の腕を掴む力が強くなった。
「どうしたんだろう……もしかして分かんないのかな」
「流石にそれはないでしょ。だってあんなに自信満々に受けたんだよ」
そうは言ったものの私も不安で仕方ない。もしかしたら想像以上の強さに圧倒されてしまっているのだろうか、私達を安心させるために強気でいただけで本当は弱いのか、ネガティブな予想ばかりが浮かんでくる。
「俺の実力はわかったろ。潔く諦めてあの子達にごめんなさいするんだな」
「……えぇ、よく分かったわ」
少女はようやくモニターに触れた。その瞬間、信じられない光景が目に映った。
『クリア』
ほんの数秒だった。答えがわかっているかの如く迷いはなく、コンピューターのようにピースを最適な動かし方ではめていった。
「アンタと私じゃ勝負にならないってね」
「ッ!!こけおどしが!さっきのは前もって頭ん中で整理して動かしただけだろ!解くのは俺の方が」
『クリア』
男が二つ目のパズルにとりかかろうとした瞬間、モニターからの無機質な機械音声が少女の正解を告げた。さっきと同じように最適化された迷いない動き。その信じられない光景に圧倒され、今度はチャラ男の動きが止まった。
『クリア』
「最初のはごめんね」
『クリア』
「でも私の信条なの」
『クリア』
「悪人は徹底的に叩き潰すって」
『パーフェクト!』
スコアは1対5。二分にも満たない決闘は、力の差を見せつけた少女の勝利で幕を閉じた。
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