015 ジョブスキルとユニークスキル

 ダンジョンが探索者に最初に授ける力であるジョブとユニークスキル。

 このうちで最も重要なのはユニークスキルだ。


 ここでいう「ユニーク」は、実はみんなが思っているような「固有の」や「個人の」「特有の」みたいな意味とは少し違うのだけれど、そこは一旦伏せておこう。言っても意味がないし、余計に混乱するだけだ。知りたかったら自力で「到達者」にまで昇り詰めればいい。

 こればっかりは手引書なんかにもなく、私たちも到達者になってようやく理解したのだから。同じように頑張っていただきたい。


 で、何故ユニークスキルが重要なのかというと、こちらは成長しないから。


 ジョブに関してはダンジョンで戦ったりいろんな経験をするうちに変化することもある。いわゆるランクアップだ。選択式ではないが、それまで積み上げた経験が反映される形なので、ある意味では選択式ともいえる。

 私も元々はただの「マイスター」だった。到達者になったときに今の「スターマイスター」になったのだ。じゃあ何が変わったのかというと、スキル任せのオート関連が最高水準になったくらいかな、変化としては。


 そういうわけで、ジョブに関しては体感の変化が起こりやすい。

 スキルを使うにしても微妙に変化が起こる。要するに安定性がないのだ。突き詰めてしまえば然程問題にはならないのだが、まだ第一階層とかでわちゃわちゃしているレベルなら、すぐにジョブチェンジの時がくる。そうなるとまた変化した体感の慣らしで攻略が地帯することになってしまう。


 なので、ユニークスキルだ。ダンジョンで戦ったりする分にはジョブスキルを使うのが手っ取り早いが、ユニークスキルは個人の才覚や資質に左右されたものであるため、どれだけ経っても感覚を変えることなく使い続けられる。

 ジョブスキルを磨くのはユニークスキルをきちんと使えるようになってからでいい。


「ユニークスキルについて勘違いというか、みんな使うためのエネルギーを間違えているんだよね」


『エネルギー?』

『魔力じゃねーの?』

『魔力って聞いたけど』

アネゴチャンネル『ギルドのパンフレットとか引っ張り出して読んでみたら、たしかにアネゴの言う通りにハッキリとは書いてない。「不思議な力」って書いてある』

『そういやそんなこと言われた気もする』

『あー! 不思議な力ってなんやねんって思ったわそういえば!』


 言われて思い出したようだ。


「比較的、魔力はわかりやすいと思う。みんなあるしね。ジョブスキルを使うときに必要なのが魔力だし」


 言いながら、キュウリを千切りにする。続いて白髪ねぎも作る。ミョウガも入れようか、夏だし。

 途中のコメントで包丁もすごいやつなのかどうか聞かれたので、ダンジョンで手に入れた魔鉄をスキル頼りで仕上げた自家製と応える。自家製ということもあって、すごいものかどうか判定は周りに任せる。

 最初から最後まで完全オートで作った場合、握りや刃渡りなんかのバランスは私にとって最適な形になるので、こういったものを他人に作る場合は部分毎に分けて作らなければならない。個人で形の異なる柄なんかはハンドメイドになる。


「万人に共通で与えられる不思議なエネルギーが魔力だね。で、ジョブに応じてそれとはまた別のエネルギーがあるんだよ。で、それはユニークスキルを利用するのに使うわけ」


『そんなのあるの!?』

『ジョブで?』

『なんでジョブ派生の力なのにユニークスキルに?』

『ユニークスキル使えるぞ?』


「魔法使い系のジョブの人はそのまま魔力だね。剣士とか格闘家とか、まあわかりやすく戦う人は闘気とかかな。生産職はひっくるめて気力って呼ぶことが多いかな。ユニークスキルの中には魔力で使える人とか種類とかあるから。使えるっていうのはそういうことだけど、使いこなすまで行くのは無理かな」


 他にも霊力とか神気とか仙気なんかもあるけど、レアなので除く。基本的には魔力、闘気、気力を押さえておけばいい。


「ユニークスキル派生で生まれるスキルもあるけど、これは覚えていなくてもいいかな。重要なのは、そこからさらに派生するスキルだし」


 続いてアーツの説明に入る。


「ユニークスキルがまずあって、そこから派生してスキルが生まれる。仮に子スキルと呼ぼうか。そこからさらに派生するのが孫スキル。で、私たちは孫スキルのことを『アーツ』と呼んでる」


アネゴチャンネル『子スキルは重要じゃないんですか?』


「子スキルも重要だけれど、どちらかというとアーツを派生させるためにあるって感じかな。ユニークスキルの力をどの方向に振り分けるのか、っていうのが子スキルの役割だよ」


 本当に必要な情報は細かい方角だが、その前にざっくり東西南北を知っておきたい。それが子スキルの立ち位置だ。詳細な方角アーツが解っているのであれば、実用上においては必要ない。

 もちろん、知識とテクニックの双方が揃っているのであれば、役立たせる方法もある。それを今紹介する必要はないからやらないが。


「ユニークスキル系を使うのにジョブ派生のエネルギーが必要な理由はわからないけど、強力なものが多いからね。その制限みたいなものじゃないかな?」


『言っていいのそれ?』

『ええんかいw』

『これ世界レベルの動画なんですがw』

『同接100万超えてるんだけどw』

『回線重いもんなあ』

『むしろ少ないよなあ、内容考えると』


「もういいでしょ別に。いい加減に使える人が増えても。私たち以外にも知っている人たちや企業なんかはきっとあったはずだよ。そういうところからすれば、私たちギルド側の今回の配信は不愉快だろうね。自分たちの利権が脅かされるんだから」


 とはいえ、それは世の中では当たり前のことではある。自分たちの権益に胡坐を掻いていた会社の影で別の会社がそれを上回る何かを生み出し、逆転。いわゆるうさぎとかめだ。

 むしろ先行者として頑張っていただきたい。所属の冒険者たちは前線にいるのだろうし。まだ数年はリードを保てるはずだ。


「『アーツ』を使えたら、そうだね。料理の場合はこんな感じだ」


 ニンニクとショウガを取り出して小皿に置いて並べる。


「クラック」


 指パッチン。直後、両方が擦り下ろされた状態になる。

 俄かに騒がしくなるコメント。

 ちなみに説明はしないものの、演出としての指パッチンと「クラック」のセリフだが、「クラック」自体は子スキルで存在する。私の場合はユニークスキルが特殊に過ぎるので、半ば強引にジョブスキルに噛ませて効果を相乗させることができる。


「私のユニークスキルの都合上、見せるのが難しいからジョブスキルで見立ててるんだけどね。これもあるから、アーツの説明とかはノーウェに任せたかったんだ」


 言いながら、鶏むね肉を取り出す。これも商店街で買ったやつで普通のブロイラー。


「基本的に、ジョブスキルがユニークスキルの出力を超えることはないよ。そういう意味でも、ノーウェの言う通りにユニークスキルから扱えるようになっておいた方がいい。ジョブスキルより扱い難いんだけどね。気力なり闘気なり使えるようにならないといけないし、ピーキー仕様のものが多い。だけど、訓練していくことで制御できるようになるし、派生して子スキルやアーツが出てくるかもしれない。アーツが出せればいいよ。実際、アーツの感じはジョブスキルと同じだから」


 砂糖と焼き塩を肉に揉み込み、紹興酒もかけてから、「スターマイスター」の料理系カテゴリからの「時間促進」へアーツの「クラック」を作用させる。この合わせ技により、ところどころでジョブスキルによるオートメイキングに私の好みを反映させられる。

 あくまでもユニークスキルによる干渉であるため、具体的に制御しなければ私の好みになってしまうだけなのだが。ここでいう具体的というのは「時間」や「味の浸み込み具合」といったものになるだろう。


「茹でてもいいんだけど……。料理人系のジョブの人ならこんなスキルもあるってわかるかな? 『ボイル』」


 指を鶏むね肉に向け、ジョブスキルを発動。魔力が指向性を持って放射され、それを受けて作用する。

 行われるのは現実の書き換え。「生肉」が「茹でられて火が通った肉」へ変わる。物理的に熱を加えられたわけではないので、温かくはならないが。これで温かくなるんならレンジカードなんて作らなくて済んだんだよ。

 なお「加熱」ならあるのだが、これだと熱が入ってしまうので肉は硬くなるし麺も伸びてしまう。レンジカードならそれがない。対象の時間を巻き戻すという形だからだ。


「まあ生産系で詳しいことは、気が向けば別の機会に。こっちでもここまで話しといてなんだけど、ジョブスキルとユニークスキルの違いとかはノーウェの方を観た方がいいかな。ゲームの喩えがあった方がわかりやすいだろうしね」


 これは私の予想なのだが、ダンジョンでのジョブシステムやユニークスキルといった仕組みがゲームに近いのは卵が先か鶏が先かみたいな問題だと思っている。

 この世にダンジョンを出現させた神様が未来の世界を観たのか、はたまた過去のボードゲームやカードゲームなどから着想を得て考えたのかはわからない。けれども、現実にこうしたシステムがダンジョンと共にこの世に誕生した。

 現在のテレビゲームやソシャゲの類のシステムが独自に作られたものなのか、あるいはダンジョンシステムから思い付いたものなのかもわからない。


 どちらにせよ、ふたつはとても近しい距離感にある。だから、説明するのならもう片方を用いた方がわかりやすいのだ。


「生産系スキルで自動で作るとき、アーツが使えるようならスキルサーキットに組み込むことができるよ。ユニークスキル派生の子スキルだと力が強過ぎて無理だけど、アーツくらいまで格落ちなら、ジョブスキルに乗せられる的な考えでいい」


『またなんかサラっと変なこと言い出した』

『スキルサーキットって何?』

鯖江信介『生産系の話だ。ジョブスキルを組み合わせて一連の流れにしてしまうことで、規格というか最後の完成度とかが上がるんだ』

『ほえー』

『生産系にはそんなのあるのか。戦闘系にも欲しい』


「ん? あるよ? 戦闘系でもスキルサーキット。使ってないの?」


『え?』

アネゴチャンネル『マジで!?』

鯖江信介『生産系限定の話じゃないのか!?』


 一体スキルサーキットをなんだと思っているんだろうか?


「あんまり使い慣れてないのかな。スキルを使おうと魔力注いで励起するじゃない? その後に準備時間があるんだよ、実は。注がれた魔力がスキルを発動するまでに一周するんだけど、それがスキルサーキット」


 醤油、砂糖、黒酢、ごま油、水を合わせたものに鶏がらスープの素をちょろっと足し、さっきのニンニクとショウガを入れる。あとゴマも擦り下ろして入れる。

 うっかりダンジョン食材を入れたくなるが、他の人もいるから自重する。焼き塩はセーフ。ラー油は後で好みで掛けてもらおう。


「誰かが言ってくれたけど、トータルの完成度が上がるんだよ。一連の流れに統合されるからね」


 剣士の人がジョブスキル「スラッシュ」を使おうとする。その際のスキルサーキットに「シャープエッジ」を組み込めば「スラッシュ」の威力が上がり、尚且つ切れ味も上がるので、本来なら切れないものも切れるようになったりする。

 そしてその人が火とか氷とか出せるユニークスキル持ちだったなら、アーツで「炎転」とか「氷転」とかをスキルサーキットに組み込めば、魔法剣になる。


「そういう感じのことを繰り返していると、そっち系統の経験が溜まってスキルも派生したり、ジョブチェンジしたときに『魔法剣士』とか出るかもね」


『マジかよ』

『そういう派生だったの?』

『魔法剣ねえなあって思ってたらそういうこと!?』

『おれ魔法剣士ワンチャンあるってこと? がんばるわ』

アネゴチャンネル『魔法拳士もありえるのか』


 切り分けた鶏むね肉を並べ、上から仕込んだタレを掛けていく。さらにキュウリやミョウガ、白髪ねぎも散らしてとりあえず一品完成。よだれ鶏です。簡単に作れて美味しいおつまみといえばこれが私は思い浮かぶなあ。


 次はチヂミでも作ろうかしら。


 そんなことを考えていたら、後ろで轟音。ノーウェVS全員のバトルが勃発した模様。


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