014 減っていく自重

 ノーウェからメタルジャケットボアという一軒家くらいの大きさの金属猪を丸一頭受け取る。

 さすがはノーウェ。私では相性の悪い金属モンスターを丸ごと仕留めるとは。おかげで素材がっぽりですよ。豚骨ラーメン食わせたら残りの素材は私がもらっていいらしいので、また今度気合を入れて作ろう。

 なお、私に同じことができないわけではないが、非常に疲れるし面倒くさいので、メタル系モンスター素材が欲しいときはサクサク数をこなしてドロップ待ちになる。


 なんかモンスター素材をドロップ単位でなく丸ごと死体で仕留めていることに、コメント含めてみんなどよめいているが、そこは説明しないでいいだろう。

 そういうこともできるのだ、と匂わせておくだけで十分だ。そもそもどうやって持って帰るのか、という問題もセットで出てくるしな。アイテムボックス論議再開で私が大変になる未来が見える。


「え? そこらの雑魚ども雑魚いなーと思ってたけど、ジョブスキルとユニークスキルの違いもよくわかってないくらいの糞雑魚だったの? はー、アホらし」


 配信とか観てない勢のノーウェにこの集まりについて説明すると、そんな反応が返ってきて小町が沈んでいる。なおノーウェは塩ラーメンを啜りながらの会話である。食いながら喋るな。


「ノーウェってゲームとかするタイプ?」

「おまえよかするんじゃねえ?」

「……おまえに私の何がわかる」

「知らんけど、時間あったら何か食ってるだろおまえ。あるいは何か作ってる。ゲームとかしてそうにねえ」


 くっ、否定しきれない。

 作ってるというか、隙間時間を使って短期集中にちょうどいい材料を用意しているのだ。細かく砕いて粉末状にしないといけないやつとか、個人的な好みに合わせた分量に量って小分けにしたりとか。ギルドでの待ち時間なんかによくやる。

 ちなみに私だけというわけではなく、こういうのはクラフターならみんなわかってくれるんじゃないかな。

 あと隙間時間に何かをボリボリやるというのも、遊園地の待ち時間にポップコーンを食べるような感覚である。


「じゃあ私の代わりに説明しといてよ。ゲームの喩えとかあったらわかりやすいでしょ」

「なんで俺が」

「今塩ラーメン食ってんじゃん」

「……対価取んのかよ! さっきのイノシシで絶対元取れてるだろ!」

「それはそれ、これはこれで。たまには配信とかに顔出せばいいんだよ」


 ノーウェにしろナナキにしろ、私に一任せずちょっとくらいは出るべき。ナナキはその代わりに他のやつをやってくれるけど、ノーウェはある意味私以上に自由だろ。


「ざっけんなてめえ! その言い方だとさも自分が常識人みてえなこと言いやがって! 基本的におまえが選り好みして残ったやつの尻ぬぐいを俺とナナキがしてんだよ!」

「選り好みじゃなくて、それぞれの得意分野を残してあげたんでしょ?」

「その理屈でいうと、てめえは俺たちの不得意分野をやってるはずだろうが! めんどくせえの残りまくってんだよ! 国外系とかまずやらねえだろてめえ!」

「たまにはやる」

「一年に一度くらいだな!?」


 私と兄さんを物理的に引き離すような真似を許すわけがない。「転移鍵」があるので問題ないように思えるが、実際はパスポートの記載などによる物的証拠が必要になるため、それもできない。あと個人的な常識というか倫理的にというか、そこらへんの兼ね合いもある。


 ガチな緊急時ということもあるから、年に一度くらいは別の国に行って転移できる先を増やしている。「解把月見」は年齢がわかっているからまだ探索社歴も短いのだが、「フェイスレス」は仮面の効果もあって年齢不詳なので、それ以前からやっていたのだ。


「いいじゃん。ギルドのお金で海外旅行」

「依頼で行ってんのに余計に遊びに出かけられるわけねーだろ!」


 真面目だなあ、ノーウェ。私は中国に行ったときに商店街を練り歩いて色々食べたぞ。そのあとでお腹を壊したから何か当たったのかもしれないが、食べたお店が多すぎてどれが原因か特定できなかった。

 だから台湾に行ったときは結構警戒したが、そっちは大丈夫だったので内心の所感としては台湾の方が好き。まあ事前に薬を持って行って飲んだからだと思うが。


「私は今日の打ち上げ用のごはんを仕込むので」

「あ? スキルメイクしねえの?」


 私は配信用ドローンを指差し、ノーウェもそれに釣られて見る。


「スキルも使うけど、分割しないと私の場合見えないでしょ」

「ああ、なるほど。お優しいこって」


 実はコメントで例の有名人をはじめとしたクラフター系の人たちが、私の得意系でもなんでもいいからモノづくりの工程を見たいと言っている。

 それだけなら流していたのだが、集まった人たちがさっきのラーメンなりピンチョスなりに食い付いてくれたから、じゃあ打ち上げか何かでごはんでも食べさせるかーと思った次第。


 ギルドで何かしたときのイベントだって、何も知らない一般職人もいるから、私は兄や義姉さんの親族扱いでの参加だったしな。そういった場は私が料理を出す状況ではない。

 だからこれまで個人とか少人数でいるときにごはんを出して食べさせたことはあったが、これだけの人数に出したことはなかった。なお実家の田舎を除く。ガチ田舎だと隣近所呼んで一緒にごはんとか普通にあったので。……まあウチの場合は、村全体でダンジョン関連に団結していたのも一因かも。


 ちなみにこの場にはブートキャンプを受けるメンバーが小町含めて八人。ギルドの指導員が三人に、私とノーウェで十三人。さすがに同じメニューをこれだけの人数に出せるほどは量を作っていないので、新たに何か作る必要があったのだ。

 で、折角ならついでに生産職用配信の入口用に何かあってもいいかなと思って。撮影用ドローンも複数あるし。連絡を入れて枠を複数にしてもらえば大丈夫だろう。


「おまえ、当然俺の分もあるんだろうな?」

「とりあえず今日一日分付き合ってくれるなら、いいよ」

「ちっ、めんどくせえな」


 文句を言いつつも引き受けてくれる様子なので、これで一安心。

 と思っていたら、魔力放出による圧にも慣れた小町が文句を言い始めた。


「えー。私、フェレちゃんがいいんだけど」

「雑魚がいっちょ前に文句言ってんじゃねえ。弱え探索者はダンジョン内で人権を持てねえんだよ」

「フェ、フェレちゃーん! この人問題発言しました!」

「ちゃんと『ダンジョン内』って言ってるし、いいんじゃない?」


 私もそこらへんは似たようなこと考えてるしな。

 無視しているうちに、二人の口喧嘩はヒートアップしていく。


「ちっ。めんどくせえが教えてやる。傾聴! 聞き逃しても知らねえぞ!」

「まあこれ配信だから、あとでアーカイブで観返せるんだけど~?」

「……聞き取れないくらいの早口で喋ってやろうか?」

「低倍速にすればいいし~? そもそも、それだとやる意味ないし~? 職務放棄ですかぁ~?」

「なんだてめえ。やたらと噛み付きやがって」

「うるさいやい! フェレちゃんの後方腕組み彼氏面しやがって! さも『わかってますよ』みたいな会話するんじゃない!」

「はあ? なんだそのキショイのは! 絶対ごめんだわ!」

「なんだと!? かわいいだろフェレちゃん! あたしの女に謝れ――痛っ!?」

「誰が小町の女か」


 八百屋のおっちゃんのところで買ったキュウリのヘタを切っていたら勝手なことを言われていたのでぶつけて黙らせておいた。


『ちょっとトイレで目を離してたら台所があるんだけど、どういうこと?』

『意味わからん』

『フェレスが出した』

『安心しろ。俺も意味がわからん』

アネゴチャンネル『さらっとアイテムボックスから流し台出したなアネゴ……』

『たぶんあのシンク、本当に水もお湯も出るんだろうなあ……』


 コメント当たり。ちゃんと出ます。どこでもキッチンくんはアイテムボックス持ちだとみんな持ってて困らないぞ。収納能力を前提としているので、材料もあるだろうから料理もきちんとできる。料理技能があることも前提とする。


「とりあえず、ダンジョンに一度でも入ってモンスターと戦えば、勝ち負けに関係なく誰でも探索者にはなれる。……ああ、ギルドが認める探索者って意味じゃなくて、ダンジョン側が認めた探索者って意味な。それで個人にそれぞれジョブとユニークスキルが与えられるわけだが――」


 とりあえず、ノーウェはみんなが知っていると思っている事実を壊しに行くつもりの模様。こっちもこっちで生産者向けに同じようなことを言っておくべきか?


「ノーウェが言ってる話と重複するから、好きな方を観て欲しいんだけど……」


 そう前置きして、話し始める。

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