013 変態的技量によるメシテロ

『俺たちは何を見せられているんだろう……』

『メシテロ』

『いい加減にして欲しい』

『いや、いちおう解説はしてる。してた。ジョブスキルとユニークスキル派生のやつは違うって』

『腹減った……』

『むしろ解説しないで欲しい。コンビニに走らせて欲しい』

『時間をくれ』

アネゴチャンネル『アネゴを知らぬ愚か者どもが嘆いておるわ』

『フェレスが出てくるんだから飯と酒は用意してないと』

『アネゴがメシテロしないことってまずないんだよなあ』

『まあ自然消費するカロリー高そうだよな。燃費は悪いんだろう』

『細いもんな、アネゴ。あれだけ食ってるのに』

『あああああああラーメンンンン』

『それは俺らにもクるぞフェレーーーース!』

『ラーメンはジュネーブ条約で人の前で食べちゃダメって古典で習わなかったのか⁉』


「知らぬ」

「悪魔の所業だよ?」

「じゃあ小町はいらない?」

「喰らうー!」


 現在、厄介事の対象二人をギルド員が捕縛して連れ出してくれているので、残った全員で車座になってお食事会。違う、私がこれからのことを解説している。

 ただ魔力も消費して疲れたから、並行してごはんで補給しているだけで。


 バベルは仕舞っているので、もう外国語ニキに私の言葉は通じない。まあ彼らは最初からそのつもりだっただろうから、私が気にすることではなかろう。「言祝ぎの寿珠」は装備しているから地味に魔力は喰っているが、自然回復が勝っているので問題なし。


 食べやすいようにカナッペとかピンチョスとか、サンドイッチにハンバーガーなどを出している。あとからあげとかも。ピンチョスに使った串で刺して食べてくれい。


 事前に全員に伝えているが、ダンジョン食材は使っていないので変顔になる心配はない。

 小町はそれでも警戒しているが、大丈夫。小町には私が直接喰らわせるので、この場には本当に出てないです。


 そしてその場の空気というか雰囲気をすべて破壊する塩ラーメン……!

 理由は私が食べたくなったから以上でも以下でもない。


「あの……俺も食ってみたいです」

「わたしも……」

「おや。なら作るか」

「えっ⁉ フェレちゃんが今から作るの⁉」

「そうだよ? だって、食べたいって言ってるし」

「あ、あたしも食べたい……!」

「あんたは今食べてるでしょうが」


 それだって私が作ったものなことには変わらないでしょう。仕上げた段階で「蔵」のうちのひとつの「出来合い倉庫」に仕舞っているというだけだ。ぶっちゃけ小町とつるみ出してから建てた。

 チマチマ作ったり、カレーとかシチューとかの大量生産する鍋物なんかがここに突っ込まれている。ピザとか意味もなく多めに焼いて仕舞ってる。

 肉関連もそうしたいのだが、マヨヒガ内で肉を焼くと間違いなく捕食者が現れるので、残らないのだ。自分ですぐに食べようと思って焼いているわけではないから、私の中の基準もだだ甘になっていて、つい上げてしまう。尻尾ぶんぶんして甘えられるとついつい……。


「何人食べたいの?」


 一応聞いてみると、さっきの二人以外にも手を挙げた二人と悔しそうな顔をする三人。


「……半分の量で作ったげようか?」

「是非!」

「いいんですか⁉」

「やった!」


 結局は全員食べたいらしい。


『優しいなフェレス』

『まあ話の流れ的に、この人たちはギルドが期待してるメンツってわけだろ? フェイスレスが目を掛けるのもわかるよ』

『恩に着るだろうしな。そういうメンツなんだろうし』

『わざわざ作るってどうするんだろ?』


「あれ?」


 私が優しいというのは正直自分自身で異論があるが……。


「コメントであったけど、クリエイターの超手抜き作成法をみんな知らない?」

「そんなのあるの?」

「私はよく使うけど、完全にスキルに頼った状態だよ」


『ほえー』

アネゴチャンネル『アネゴ、そういう裏技みたいなのもっと話していって欲しいです』

『でも手抜きでしょ?』

『フェイスレスの手抜きとか手抜きじゃなさそう』

『どういうレベルになるんだろう?』

鯖江信介『どれくらい差があるのか楽しみだ』

『クリエイターはやくきてくれー!』

『鯖江氏おるやん!』

『鯖江氏教えてー。どんなんなん?』


 コメントには……前もいたクラフターの人がいるみたいなので、放置で。それに口で説明するよりも、目で見せた方がいい。百聞は一見に如かずというしね。


「まあ、どれだけのスキルとアーツを、どれだけの数、どれだけの精度で操れるのかが問題になるんだけど」


 よく考えたら百聞は一見に如かずとか思ったけど、作業工程見えなくないかな? 私の場合はショートカットで短縮しているし、「蔵」から直接空間を繋げているし。まあいいか。今回は別に生産職の紹介動画とかではないし。


 あー、そうか。生産職用の回もやった方がいいのかな? 今回はダンジョン探索者の力量を上げるのがメインだけど、クラフターは別だからなあ。


 考えながら、全員の前にどんぶりを出していく。視覚的に量が把握できるように、半分の量がいい人には半分の大きさのどんぶりを出しておく。

 たぶんできるとは思うけれど、一人前のどんぶりに半分だけ作って出すとかしたことないし。ここで失敗したらカッコ悪すぎでしょ。


 空っぽの器を受け取って混乱気味のメンツ。いいからと落ち着かせ、地面に置かせる。

 目を細め、それらをターゲティング。料理系スキルを起動。レシピ上に存在するスキルサーキットにアーツを純繰りに並べておく。あとは「蔵」から材料を分量通り取り出して流し込むだけだ。


 わかりやすくするためだけに、指パッチンをする。完全なる演出だ。


「クラック」


 瞬間、全員のどんぶりの内側が決して混じり合わない青と黒と白の光を放ったかと思えば、それが止んだ頃にはほかほかと湯気と食欲を擽る香りを放つ中身が鎮座している。


「え?」

「は?」

「あ?」

「ちょ⁉」

「な⁉」

「ばっ⁉」


『はい?』

『何があった?』

『光ったらラーメン出てる。何事?』

『待て待て待て待て!』

『フェレス……いや、フェイスレスさん……? サマ?』

アネゴチャンネル『……マジかー』

鯖江信介『…………まじかあ』

『マジかきました』

『そらそうなるわな。聞いた話通りなら』

『意味わからんけど、フェレが異常なのはわかった』

『たぶん鯖江氏のがおれらの感覚に近いんだろうな。それでもよくわからんけど』

『比較対象が達人か、達人とかいう壁をぶち破った先にいる人だからなあ』

NWM『ざけんなカオナシまた今度食わせろください』

『通常食材らしいけど、ああやられるとすごい美味しそうに見える』

『フェイスレスが作ったってだけで美味そうだしなあ』

『特級が反応したw』

ノーネーム『私の分も頼むよ!』

NWM『雑魚どもうるせえ。あいつのスキルで作ったってことは、超一流のシェフがあらゆる技術の粋を尽くしてB級グルメでもなんでも作ってくれるってことなんだぞ。こっちが材料多めに出したら割と条件飲んでくれるし』

ノーネーム『こないだ九階で良い鶏肉が手に入ってね!』

NWM『おれはイノシシ仕留めたし豚骨ラーメンで頼む。似たようなもんだろ』

『特級が我慢ならん反応ってどんなんよ』

『フェレスマジかー。喰ってる連中めちゃくちゃ運良いんじゃね?』

イグニス『ランクは低いが不死鳥でどうだ?』

ラヴィ『枯死麦は交換条件に乗りませんか?』

NWM『ちょ――オマエらは駄目だろ⁉』

ノーネーム『面白そうな話ではあるね』


「なんか釣れてて草」

「いやいや! 草じゃないでしょ!」


 小町が冷や汗流しながら慌てているが、私たち事情を知っているメンツからすると、顔見知りではあるからなあ……。最後に顔を合わせたのはもう随分昔の話にはなるが。運命の子たちってことで、大多数はたぶん一度は会ってるんだよね。


「人によって違うけどね。私の場合はスターマイスターっていう恩恵もあって、他のクラフター系スキルもあるからさ。材料全部手持ちにあって、あとはレシピ通りに色々と連携させたら今の一瞬で作れちゃうんだよ。完全スキル任せだから、アレンジなんか一切利かせられないんだけどね? ゲーム感覚ってのが近いのかな? ゲームやらないから、この喩えが合ってるのかわからないけど」


 料理で好みの味じゃなかった場合なんかは致命的である。

 一方で、戦闘における使い捨ての投げナイフなんかには最高に相性が良い。


 私自身が別に好んで生産作業したい人間ではないので、大量生産大量消費に最適な感じだ。

 いやほんと、私のところに来たの最悪だったと思うよ、このジョブ。あとユニークスキルも。どうしてこうなった?


「一応ノーウェに言っておくと、イノシシの骨だと豚骨ラーメンは作れないよ。レシピ的には別になる。それがノーウェの想像する豚骨ラーメンの味と一緒かは知らない。それでいいなら作ってあげるけど」


NWM『あー、そうなるか。まあいいや。それはそれで。ダンジョン食材だし美味いのは間違いないだろ』


「そうだね。それはそうだ」


ノーネーム『あの鶏肉の名前、よく調べておくべきだったかな……?』

イグニス『不死鳥はどうなる?』

ラヴィ『枯死麦は麦ですし、麺に使えますよね⁉ ね⁉』


「なんか二人というか三人とも必死で笑える」

「だから! 笑い事じゃないんだよ!」


 私とノーウェが余裕ぶっているのは、まあ……現在の世界でトップワンツーをぶっちぎりなのが私たちだと理解しているからだろう。そしてイグニスやラヴィもそれがわかっているからこそ、私の逆鱗に触れない範囲でどうこうしている。


 そりゃあ、そうだ。

 私の逆鱗に触れた瞬間、どれだけ距離があろうが、問答無用でこの世から消されることになるのだから。頭を低くして生きて行くしかあるまい。少なくとも、私に明確に睨まれている間は。

 私の性格も知られているから、私に害がないと判断して睨まれていないとわかれば、また好きに行動し始めるのだろうが。まあ私に害がないならいいや。面倒事にならない程度に世の中を引っ搔き回してくれい。


 ナナキはなあ……。私たちほど汎用性がないんだよなあ。いや、汎用性はあるか。火力が足らないというべき? でも対ダンジョンや対モンスターではなく、対人であればメチャクチャ強いんだけどね。

 私に降り掛かる面倒事を一部肩代わりしてくれているだけでこっちは大喜びだぞ? だがどれだけ求愛されてもおまえには応えんから諦めろ。私は兄さんのものなのです。


「それはそうと、小町はいいの?」

「なにが⁉」

「ほら」

「ハッ⁉」


 さっきから静かだとは思わなかったのだろうか? この場に集まっている面々はみんな塩ラーメンに夢中である。残っているギルド職員たちもだ。ずるずるはふはふごっくんとあちこちから聞こえてくる。


「あくまでも私の所感だけど、スキル任せの料理の作り方なんだけどさ」


 撮影用ドローンをこちらに寄せ、話し始める。


「料理のレシピあるじゃない? あの材料の欄を自分の用意した食材で置換するだけで終わりなんだよね。あとは勝手にスキルの方で材料の質に合わせて最適な方法を選んでくれるから、勝手に美味しいものが出来上がるってわけ。ダンジョン食材よりも地上の食材向けの能力なんだよね」


『なにそれ?』

『はい? ずるくね?』

『なぁにぃそぉれぇ?』

鯖江信介『嘘つけ! そんな便利じゃねえぞ!』


 識者が文句を言っているが、私にとってはそうなので、そうだとしか言えない。

 自分の分の塩ラーメンのどんぶりを取り、微妙な顔になる。スープが冷めているし、麺ものびている。視線を向ければ小町も同じだった模様。それでやたらとこっちに噛みついていたのか。不満気に麺を啜っている。


「まあ私は時間を巻き戻すんだけど」

「っぶひゅぅうっ⁉」


『は?』

『ないに?』

『はい?』

『なんてった?』

『え? 湯気?』

『何した?』


 名刺くらいのサイズの金属製カードの角には覗き窓がある。そしてその上にはスイッチがある。

 覗き窓から対象をスキャン。スイッチボタンを転がして目盛りから巻き戻す時間を調整。あとは「これでよし!」というタイミングでスイッチを推せばオッケー。


「おおおえええあええええ⁉」

「今から食べるから、ちょっと待ってね」


 小町がエキサイトしているが、気にせず塩ラーメンを食べる。

 うん、美味しい。ホタテと昆布は良いやつを選んだ甲斐があった。わざわざ北海道まで足を運んだのだ、私は。

 ……まあ依頼ついでというか北海道の依頼を探したというか。ちゃんと「転移鍵」は仕掛けたから、次回からは楽に行き来できるぜ。


 そして鯛の骨から出た出汁がうまい! ガツンとうまみが来るのはダンジョン食材と同じだが、そこから味わう余裕と余韻がある。ダンジョン食材の場合は、慣れるまでうまみの暴力だからな。ヘッドホンで大音量のハードメタルを流されるようなものだ。


 塩にもこだわったというか……ちょっと反則気味。

 焼き塩を使ったのだけど、サラちゃんに頼んでやってもらったので、一割か二割くらいはダンジョン食材といえるかもしれない? 本来なら塩にないはずのうまみ成分が付与されてしまったはずだ。


 ニンニクはスープを作る過程で最後まで悩んだが、入れなかった。

 少量ずつ作ってニンニクありとなしとで比べたところ、どっちも美味しくはあったが、ニンニクありだと昆布出汁が比較的負けている印象を抱いたからである。

 塩ラーメンならニンニクをあんまり主張させるのも違うだろうと思ったので。


 白髪ネギと柚子の皮も香りが変わっていい。改めて海産物の香りを味わえる。なお私はラーメンに海苔は要らない派。乗せるくらいなら別皿に分けて欲しい。ふやけるじゃないか。


 チャーシューは鶏。軍鶏の良いやつのももを仕込んでおいて、乗っける直前に炙って焦げ目を付けたやつ。

 むね肉は酒粕で仕込んでおつまみ行きとなった。また今度小町と呑むときに出そう。……それまで私が手を出さずにいればだが。


 そして麺は既製品。私が作ってもいいけど、普段行ってる商店街からちょっと外れたところに製麺所があるので、そこで仕入れている。個人相手ではあるが、大量に注文して「蔵」で保管するので特別に受けてくれるのだ。

 なお、そこにダンジョン食材は卸していない。話はしたが、小麦の掃除が面倒だからと断られた。まあ通常の小麦とはレベルが違うから、毎度大掃除レベルでやらないとダメだもんね。


 ちなみに私は女の子だからちゅるちゅる食べるとかそういうの嫌いなので、麺を一気に手繰って豪快にずるずるっと食べる人です。これが一番美味しそうに思える。

 そういえば以前台湾人の探索者と話す機会があったのだが、向こうでは啜らずにレンゲの上にミニラーメンを作って食べる風習っぽい?

 すごく時間がかかる食べ方だなあと驚いた記憶がある。


「フェレちゃんフェレちゃん! あたしのも! それの何がどうなってるのとかどうでもいいから、あたしのも!」

「しょーがないなあ」


『いやそこは追求しろ、小町』

『時間戻すって言った?』

『さすがにジョークだろう。……だよね?』

『どこまで本気なのかわからない……これがフェイスレス』

『ラーメン温めるだけの話がどうしてこんな』

『知らんのか? ラーメン温めるとフェレスのすごさがわかる』

『ラーメン温められるフェレちゃんすごい』


 私をどっかの家庭で飼われているサルみたいな呼び方するのやめろ。


「わー! ほんとにあったまってる……ウマーイ!」

「冷めちゃったもの温め直そうとしたら、電子レンジ使えないとめんどくさいじゃん? だからダンジョンでも使えるように開発しようとしたんだけど、デカいし邪魔でしょ? そしたらこうなった」

「『そうはならんやろ〜!』ってリスナーの気持ちを代弁してみたけど、フェレちゃんならなるんだな、これが!」


 正常まともに美味しいラーメンを啜ってご満悦な小町。他の面々も目を輝かせながら食べているが……そこまでか?

 一口スープを啜って、改めて思うけど、そこまでかなあ?


 たしかにこだわりはしたけど、それは素材の話であって、作るのに関してはスキル頼りなんだけど。やってることは調理機能付きレンジと変わらないんだけど。


「到着だ、オラァァン! 俺にも食わせろカオナシ!」

「うわ来た。お早い到着で、ノーウェ」

「え? え? え?」


 小町が壊れた――と思ったら、周りの人たちも同じ感じ。あらら、ギルド職員たちもかな。


「ノーウェ、抑えて抑えて。おもらしカッコ悪い」

「ん? ああ……めんどくせえな!」


 じゃあ来るなよ。知ってただろうが。


 おもらしというのは魔力のこと。

 私やノーウェ、ナナキなんかのレベルになると、無意識に放射する魔力なんかで周囲を圧迫してしまう。ざっくりいうと威圧感があるのだ。


 とはいえこれは身を守る防御でもある。ダンジョンのより深くに行けば行くほど、さながら深海の如く人の身体をペシャンコにしようとする圧力が高まるのだ。防具で防ぐ手もあるが、自然回復が間に合うなら自前で対処した方がいい。装備への付与枠が空く。

 そういうこともあって、ダンジョンという戦場でノーウェが魔力放射したままというのは、一定以上の実力者からすれば責められる話ではない。


「私みたいにスキップして周囲に張り巡らせればいいのに」


 私は一定範囲、ワンクッション挟んでから放出している。

 ここがダンジョンの中なのにこれほどまで呑気にしているのは、周囲に張っている私の魔力放射による網がモンスターを威嚇しているからだ。一体たりとも近寄らせないよ! こちとら食事中でござる!


「おまえみたいな変態的に器用な真似できるか」


 変態的と言ったかこいつ……! おまえに出すラーメンだけ虫で出汁取ってやろうか⁉

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