011 経験値測定スカウター
「はいこんにちは。国選及びギルド認定特級救命探索者のフェイスレスです。ついでに今日はギルド式ブートキャンプの教官も兼任します」
「こんこんこんこんこんこーまち! 自称・酒吞童子と小野小町の子孫、酒呑小町です! 本日はギルド公式チャンネルにお呼ばれしました! あたしのこと知ってる人はよろしく! 知らない人もよろしくお願いしまーす!」
今回は名乗りを邪魔しないよう釘を刺されたので見守る。
ちなみに今回は限定的にギルド公式チャンネルだけれども、コメントを解放している。
「えーっと、ギルドの方でも依頼って扱いをされてるんですけど……あたしが進行役でいいの? ほんとに?」
「私より小町の方が慣れてるでしょ? 全体の流れみたいなのは教えられてるし、いけるでしょ」
「そりゃあそうだけどさあ……」
「それに小町が所感を喋りながらの方がよさそうだしね」
『助かる』
『ついにキター!』
『フェイスレスの感覚だとわからないことが多そう』
『こまっちゃんがボリュームゾーンの上の方の実力だから、ある意味ちょうどいいよね』
「うっわ、すごっ⁉」
「でっしょ~?」
「うっわ、かわゆっ! 観た⁉ みんな⁉ あたしの女のかわいい自慢げなとこ観た⁉」
「誰がおまえの女じゃ」
「ありがとうございます!」
尻を引っ叩いてツッコんでおいた。
さて、それはさておき。
「今回、ギルド公式チャンネルってことで私の方からギルドに要請したんだよね。ライバー系がほぼ義務になってる骨伝導イヤホン。これの性能を上げたいって」
「ちょっとこれマジでやばい。どういうことなの……?」
「これまで使われていた骨伝導イヤホンは、市販の品の外装をダンジョン探索に耐えられる強度にしているものだったわけ。それが気に入らないから、私の方で解析して新しいのを作ってみた」
「特許はギルド経由で公開されるらしいでーす。別次元なんだけど。えー」
「私が作ったのはハイエンドで、ほぼ全部ダンジョン素材だから非売品だけどね。今回のやつに技術料とかお金は取らないようにしてるから、すぐに利用されて高性能なのが出回るんじゃないかな」
『マジかああああ!』
『さすがはモノ作りの頂点!』
アネゴチャンネル『スターマイスター!』
『助かる。ほんと助かる』
『同業者として感謝します。ありがとうございます』
『環境音と重なると不意打ちリスク跳ね上がるからなあ……』
『そういうのあるのか』
『ライバー探索者特有の悩み』
『編集勢は骨伝導イヤホン嫌がってんだもんな。これからライブ配信時代くるか⁉』
「ひとつ言っておくと、これってライバー探索者用の技術だからさ。まあ音はちょっとくらい良いかもしれないけど、一般人のリスナーが音にこだわりたいって言うなら普通のイヤホンの方がいいからね? 音質を上げる方向では特に頑張ってないから」
「ああ、それはわかる!」
ざっくり言うなら、本気で気配察知なんかで集中したりするとコメントの音声はカットされる仕様だ。折角骨伝導ということで肌と密着しているのだから、そこを活かさない手はない。「伝心の鈴」を作るときに使った付与の一種を利用している。
あと振動を利用して、周囲の音と骨伝導での音とを直感的に差別化できるようにした。これで少しでも困惑するケースは減るはず。
「いや、でも! それ以上にすごいんだけど! これなんで⁉︎」
「それだけじゃあつまんないでしょ」
折角この私が作るのだ。それも今後のクラフターたちのための参考になるようなハイエンドの逸品。ダンジョン素材もふんだんに使えるというのなら、それ相応の付与もしないと「
気合を入れまくった……とまではさすがにいかないが、それでも胸を張って「フェイスレスの手ずからの逸品」とは言える。
『何がどうすごいのか伝わってこない』
『すごいってことだsけは伝わってくる』
『フェイスレスが作ったものかあ』
『どんな感じなんだろ』
『愉快犯フェイスレスがどんな付与したんだろ?』
「えーっと、どう言えばいいんだろう? みんなのコメントって自動読み上げソフトを使ってるんだよね。だから抑揚とかって変わらないはずなんだよ」
「アプリ方面には手を出してないからね、私」
「そういえばそっち方面もやろうとしたらどうなるの?」
「……黙秘で」
「えー」
いや、たぶん私のユニークスキルと相乗効果で現在存在しない新しいジョブが生まれる気がする。SE系のやつ。自動的に私のジョブに組み込まれてしまうのだろうが、そっち方面まで手を出したら相当大変そうなのでノーサンキュー。
そもそもマヨヒガに電気は通っていないのです。それを考えたら何も起こらない可能性もあるな。どちらにしても黙秘安定だが。
「一応、自分に制限は課したんだよね。素材に使うのは現状の冒険者が行ける第四階層までにしてるし。基本的に食材系ダンジョンにばっかり行ってるから、改めて素材探しから始める必要があって面倒だったな」
「えっ⁉ あの配信からこれ作ったの⁉」
「それはそうでしょ。当たり前じゃん」
「ごめん、質問を間違えた。……あれから素材集めしたの?」
「そうだよ」
『は? 二週間しか経ってないが?』
『早過ぎ。これがフェイスレス』
『六層到達者だっけ? 五階層だっけ? わかりにくいな』
『召喚器使ってても早いんよ』
アネゴチャンネル『第六階層のはずです。公言してるのは』
『その先まで行ってても驚かん』
『素材集めだけでも早いのに、これいちから作ったのか……』
鯖江信介『スターマイスターのスキルが気になり過ぎる。素材を使える状態まで持っていくだけでも、そのレベルの素材だと二週間以上かかるぞ……』
『時間おかしくない?』
『鯖江氏おるー⁉』
『鯖江いる!』
『やべえすげえ!』
アネゴチャンネル『クラフター同士は引かれ合う……!』
「おおおおお! フェレちゃん! 鯖江さんが反応してるよ!」
「……誰? 聞いたことある気がするようなしないような……」
「うそでしょ⁉ あ、でも……」
『フェレス知らんのかい!』
『ダンジョン素材のクラフターだと日本でもトップクラスの知名度なんだけどな』
『鯖江知らんとかマジィ……?』
アネゴチャンネル『まあアネゴなら、それもありえるのか……』
『そうか! フェイスレスがクラフターで世界トップクラスだもんな。頼む必要がないのか』
鯖江信介『精進します……』
『へこんじゃったw』
「なんか悪いことしちゃったかな? まあいいや。知らんもんは知らんし」
「逆にフェレちゃんでも知ってるクラフターってどんな人なの?」
「アーティスト系かな? 私がやるとデザインが画一的になっちゃうからさあ。あとはコンパクトに術式をまとめる人かな。アレはセンスがモノを言うからね。……私みたいにジョブにおんぶにだっこの人間だと憧れるよ」
どうしても参考程度になるかなあ。
知ってるって言っても、ちょっと普通の人と感覚が違うぞ。
ああ、料理系に限れば料理研究家系をよく動画で見ます。
ダンジョンで手に入れた食材だが、それをどう料理すればいいのかとか、どんな材料と組み合わせればいいのかとかの発想が自分では出せないからさあ。
それ以上によく見るのは美味しいお店探訪系動画。足を向けては眠れない。寝るのはマヨヒガだから足の示す先に誰もいないけど。
「ま、そういうわけだからリスナーのみんなも、何も気にせずコメントしてくれていいよって話。私たちが黙り込んだら、それは集中していて音が聞こえないモードに切り換わってるってだけだから、そういうものとして受け入れて」
「戦いが終わって一息吐いたら自動的に戻るの?」
「そうだよ」
『戦闘モードに入ると自動的に切り換わるのか』
『消音モードになるのね』
『自動的ってすごいな』
『どっちなんだい⁉w』
『どっちだよ』
「戦闘モードか。それいいね。そっちの方がわかりやすいか」
「おっ。聞きましたかリスナーさん! 採用されそうですよ!」
『マジか』
『そんなのあるん?』
『フェレス公認⁉』
鯖江信介『わかりやすいし、それなら無視されても気にならない名前だな』
『フェイスレスがある意味で自分のことを職人と見做してないから柔軟なのかな』
『えっ? 適当に言っただけなんだけど?』
『鯖江氏も誉めてるw』
『本人降臨』
『困惑しとるwww』
わかりやすいのは良いことです。
「そろそろ、脱線した話を戻すよー」
「あ、はいはい」
「コメントも一時的に無視するけど、ミュートではないから気兼ねなくどうぞね」
私の作った骨伝導イヤホンが欲しいと騒がれても困るので、これ以上の宣伝はやめておく。たぶん、今紹介されていたコメントの抑揚関連は誰にも真似できないだろうし。それで「スターマイスター」の規格外感は伝えられるはず。
ちなみに意識の集中具合で音量も自動で変化するようになっております。
「とりあえず、現状の力量の話をしようか。自分の現在の実力がわかっていないと、何がどう変化するとかわからないでしょ」
「うん。でもどうやるの?」
「私が昔、マンガを読んで冗談で作った道具を使います」
「は?」
超が付く名作だぞ。時代を超えて耐え得る貴重なバトルマンガだ。
いや、小町の怪訝な表情がマンガの内容にあるわけではないってのはわかってる。そこまでコミュニケーション能力が低いわけではない。
だからといって細かく説明する気はないが。
「これです」
「あたしの値段を測るってこと?」
取り出したのはスーパーやコンビニのレジにあるスキャナーだ。バーコードリーダーあるいはバーコードレジスターともいう。
無意味に調べたこともあるが、リーダー呼びは主に日本で、レジスター呼びは主にアメリカらしい。まあ海外でリーダー呼びするところもあるようで、結局のところなんの役にも立たない知識が増えただけだった。
嗚呼、素晴らしき哉、無駄知識。
「まあ手元のモニターに数字が表示されるから、機能的にはどちらかというとスピードガンに近いんだけどね」
「じゃあなんでレジでぴってするやつにしたの?」
「そんなもの当時の私に言え」
中学生の頃の私はよくわからんモノを色々作っていたからな。それ以前は打って変わって、誰かに言われないとモノを作ったりしていなかったのだから不思議。
あと今から思えば恐ろしいくらい大人しくて、周りに従順だったなあと思う。今の性格は反動かな。
「この物体、その名も『
「なにそれ……?」
「あの名作を知らないだと……⁉」
『小町まぁじぃ……?』
『これはチャンネル登録解除案件かな……フェレスがいるから許してやるか』
『は? 常識なの?』
『おいやめろふざけんなこんなとこrでジェネレーションギャップくらうとか予想してねえよ』
『知らない世代とかいるのかまじか』
『そもそも何故あの形じゃないのか。フェレスが悪い部分もある』
『そんなの測れるの?』
『さらっとすごい発明じゃないか⁉』
『フェイスレスすごい』
アネゴチャンネル『アネゴマジかマジかありがとう夢だった』
『戦闘力たったのゴミか、5め……とか言えるようになるのか』
『私の戦闘力を教えて差し上げたいですよ』
『フェレスの戦闘力が知りたい。53万は最低として、どこまでだろう』
『逆じゃね?』
「なんかコメントすっごいはやい! あとこれすごいね⁉ 爆速で読み上げてるのに全部理解できてるんだけど⁉」
「そういう素材を使って、そういう付与をしてるからです」
空属性のモンスターの素材を下処理するときに手間を加えてですな、方向性を限定するのです。空属性には情報系も一部あるからな。
似たような理由で付けた付与で、時系列を無視してコメントへのコメントみたいなセットでまとめた方がいいコメントはまとめる機能付きだ。あくまでもオートなので時折変な感じになるが、投稿時間に従っていたら変な感じは常時あるので問題ない。
より深い階層でならモロに情報系モンスターが出てくるのでその素材を使えるのだが、第四階層まででは空属性を使ってどうにかするしかなかった。苦肉の策ではあるが、縛りプレイみたいでちょっと楽しかったな。しばらくはやりたくないが。
「これで小町を測ります」
「やめろー! あたしはハゲてないぞー! バーコードなんてないんだー!」
『なんて棒読み。そしてなんて笑み』
『基本的にフェレスのやること全部受け入れるからなあ……』
『業の深いガチレズ……』
『また髪の話してる……』
『ハゲは泣いて帰ってどうぞ定期』
失われた毛根を取り戻したいなら、第四階層じゃキツイかなあ。でも薄毛の治療で年齢相応くらいに戻すだけなら十分な気がする。言わんけど。絶対私が忙しくなる未来が見える。
沈黙は金で、鳴いたら撃たれるのだ。
「はい、暴れなーい。ぴぴっとね」
「あら~、あたし測られちゃったぁ☆ これでもうフェレちゃんのお嫁にもらってもらうしかないやぁ」
「経験値獲得量18.72……こんな低い数字の女をもらえるか! ぺっ!」
「しどい……!」
『この寸劇である』
『小町よくわかってないけどとりあえず喜んでるよな』
『こまっちゃんが嬉しそうで、おれは嬉しいよ』
『おまえファンの鑑かよ……』
『訓練され過ぎだろ』
まあコメント欄もわちゃわちゃ楽しくやってくれてるならなにより。
ギルド公式チャンネルのおかげか、はたまたこの私「フェイスレス」だからか、生意気なことを言うコメントは少ないようだ。
「冗談はともかくとして。この経験値スカウターだけど、実は形を変えてギルドに納品もしてるんだよね」
「えっ⁉ そうなの⁉」
作り方も公開しているから、材料さえ集められれば私以外でも作れる。材料も第二階層で集まる。ただ素材の下処理とか面倒だったりする。上位素材ならそこらへん適当でも力ずくでどうとでもなるが。
そういうわけで私とそれ以外では生産速度に大きな差があるため、気が向いたときに量産している次第。自分でいうのもなんだけど、ギルドの身内だから許されてるゆるゆる具合だよな。能力を持っているからなんだけど。
「それが何でどんな形なのかは説明しないけど、仕様の概要を説明するよ」
「お願いしますっ!」
『気になる』
『たしかに』
『小町が約19か』
『低い数字なのか……』
『フェイスレスの主観だからなあ』
『ギャグパートだったしなあ……』
「まずは数字の説明なんだけど、小数点以上がレベルで、小数点以下がレベルアップまでの経験値量だと思ってくれたらいいよ」
「レベル‼ やっぱりあるの⁉」
「私が作ったって言ってんでしょーが。あくまで目安だよ。レベルが10以上あればソロ活動が許される感じかな。で、フロア毎に2レベルが目安。20レベルあれば、第二階層に入れる最低限みたいな感じかな」
なお、実際にはレベルはある。
むしろそれを目安に作っているのだから、答えから逆算している形だ。そりゃあうまい具合にハマってくれるよ。
問題は私のジョブが生産系ってことだ。生きている相手には鑑定スキルが使えないのだ。おかげで各フロアのモンスターを倒して素材を取得し、そこからレベルを設定していくしかなかった。
面倒だと思ってたら、食材素材からでもレベルは調べられて助かった。
「詳しいことは省くけどさ。これ、オーラ的な経験値に感じられるよくわからない何かを感知して無理矢理数字にしてるだけなんだよね」
「なに? そのオーラとか経験値じゃないようなそうであるような……はっきりしないんだけど?」
「私もはっきり言えないよ。よくわかってないし、それが違ったときに『責任取れ』とか言われても困るし。スキル任せで作ってるだけだから、一応正しいとは思うけどね?」
『本人にもわかってないんかいw』
『けど生産系最上位がスキル任せで作ったって言われると、正しいんだなって思えるわ』
『システムに則ってるなら正しいか。それが何かはわからんけど』
「で、この数字なんだけど、あくまでも経験値というわけです。なので、同じ手順とか……まあ作業的にモンスターを狩っているような人には一定数以上適用されなくなってます」
「ああ。ゲームみたいに雑魚を時間かけて倒して延々とレベル上げみたいなのできないんだ?」
「そうそう。ただ、この後話す内容としてはそれでも構わない。あくまでも、こうして『経験値スカウター』では表に出ないような……なんて言えばいいんだろう? スキルじゃないしなあ。技能? でもそれじゃ言語の壁を越えられないしなあ」
日本語だと「スキル」と「技能」と言い換えることで差別化できるが、これを外国語にも当て嵌めようと思うと難しくなる。
「まあいいか。プレイヤースキルでもアビリティでも適当に誰かネーミングセンスのある人が決めてください」
「それでいいんかーい⁉」
「別にいいよ。どうでもいいし。私には常識以下の言葉だし。
「お、おおう……し、しつ? 部屋? 部屋で反射?」
困惑している小町を無視して説明というか注釈を続ける。
「要するに、探索者が持っているスキルやジョブはこのレベルになんの関与もしてないんだよね。純粋にモンスターを倒して得られた経験値っぽいものの量を示しているだけなんだ。だから低レベルでも強い人がいるかもしれないし、高レベルだけど中身はスカスカみたいな人がいるかもしれない。頭の良さとかも考慮してない。あくまでも、参考のひとつくらいにしてね」
「そこらへんどうにかできなかったの?」
「できたけどさ。……低レベルだとバカにされてるけど、実はガッチガチに中身詰まってる実力者ですみたいな展開、おもしろくない?」
「おもしろい!」
「でしょ?」
「みんな! これはフェレちゃん責めれないね⁉」
『ロマンあるな』
『あれ、俺何かやっちゃいました……?』
『さすがフェイスレス。こればかりはさすがフェイスレス』
アネゴチャンネル『たまんねえ~』
『王道展開過ぎる』
『ありがち過ぎるけど熱いやーつ』
『小籠包かな?』
おいやめろ。
お腹が空いてきただろうが。
まさか配信やってて、私が飯テロ喰らうとは思ってなかったよ!
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