001 タケノコ収穫
亜空間へと繋がる時空の渦を抜けて、ダンジョンへ潜る。
実家の蔵に出来たダンジョン渦を生まれて初めて見たときから今だに続くが、この渦というのがとても綺麗だ。
青と白、黒の光が線となって渦巻きながら一体混然と化した様。白の線の周りには金色が、黒の線の周りには赤色が火花のようにちらほらと一瞬だけ灯る。
光の流れに音はないし、それによって風が生まれるわけでもない。けれども無意識下で幻聴として、それらは聞こえるし、感じられる。
調査班の人が機械とか持ってきて調べたらしいけどね。音は発生していないはずなのに、誰もがその音を幻聴するのだ。
美しいと感動はするが、いかんせん慣れたものでもある。足を止めることなく渦へ身体を放り出し、エレベーターの浮上中に感じる無重力を覚えたかと思えば、もうその先に私はいる。
これら一連の流れを英語圏ではダンジョンダイブと呼び、だからこそ彼らの呼び名はダイバーとなる。
一方で日本人は細かく分類分けするのが好きな面倒な民族なので、冒険者だの探索者だの配信者だの呼ばれている。ざっくり全体を呼ぶときは探索者だ。
静稀兄さんは冒険者だ。スポンサーが付くということもあるが、より深くダンジョンを潜り、新たな階層を目掛けて最先端を往く命知らずたち。
英語圏における冒険者はスポンサード。けど日本の場合、スポンサーを受けて最深部を行く冒険者と、単に広告塔としてのスポンサードとあるので、非常にわかりにくい。
冒険者は実力がないと死ぬ、スポンサードはともかく華があって人気が取れればよしという差。だいたい配信者に多いかな。私は興味ないが。
私は普通の探索者です。自分のためにごはんの材料を取りに行くいわばマタギ。道中などで余ったものやいらないものがあれば、契約してる店に卸す感じ。
私の気分次第なのだが、それで良いというあまりにも私有利な契約がまかり通っている理由は格安だからである。
といっても普通に魚とか野菜とか買うよりは高い。けれども、世間一般のダンジョン食材ほどの値段ではない。
元々は単に気に入ったお店とかに持ってって、これで一品作っておくれ的ムーブだったのだけれど、それが続いた結果、こうなった。
なあなあのままでもよかったのだけれど、向こう側から「それはよくない」とわざわざ私有利な契約を結んでくれたのだ。
まあちゃっかりと、私の気分次第だとはいえ、格安でダンジョン食材を仕入れられるようになったのだから
それで向こうは良いのだろう。
信義には信義で。
ひいじい様たちが苦労したからか、そういった家訓というか風潮が故郷の村にはある。
まあ盗人とかも来てやり返したようだから、信義の後には「仇には仇で」がある。
目には目をのハンムラビ教典で生きてる予感。
そういうわけで、私の方も無理はしない範囲ではあるけれど、なるたけ契約は守る方針。
依頼があったり別のダンジョンで出るものが欲しくなったりで遠出をするときは、前もって連絡しておく。
さて、そんなわけで今日は野菜を卸す日です。ついでに私も野菜が食べたい気分。なので義務感とかではなく、張り切って行くぞ。
張り切った結果で行く店が和食なのかフレンチなのかイタリアンなのかはたまた中華かはわからないが、現状のお口は野菜で決まり。
「他の冒険者とかち合うと面倒だしな。五階層にでも行くか」
世間的なダンジョンの構成認識は上層、中層、下層、深層となっている。
要するに、現状の人類のダンジョン進行度だ。
世界中のどのダンジョンに潜ってもおおまかな形や出現する敵は変わらないので、一律で表現できる。
ゲームで例えるなら「サーバーが違う同じダンジョン」みたいな感じかな。
手引書に載っている私の認識としては、1〜5階が第一階層、6〜10階が第二階層といったもの。ここでいう第一階層が、世間一般の上層に当たる。
で、現在冒険者のたどり着いているのが深層つまりは第四階層なので、五階層にまで降りればかち合うことはないわけだ。うっかりどっかのパーティが第四階層の守護者を倒すなんて可能性もないわけではないが……まあないな。
アレは今の冒険者たちでは無理だろう。基本のキも出来ていないのだから。
そういう意味では、私よりもすごいよね。才能とか人数とかのゴリ押しでここまで来れているのだから。
私はほら、全部わかった上での強さだから、誇れない。
裏技使った状態みたいなものだし。そりゃあまあ、自分で鍛えた強さではあるけれども。
行く場所を決めたなら、ちゃっちゃと移動するのがよかろう。私は虚空に手を突っ込み、ユニークスキルから派生したスキル「蔵」のアーツ「宝物庫」から鍵束を取り出す。
この鍵、座標を登録させておくことで転移できるようになるのだ。
宝箱から得られるアイテムのようだが、私が作りました。名前はそのまま「転移鍵」で、ひとつ作れば五本の鍵がセットされた鍵束となる。
なので「◯◯ダンジョンの転移鍵」が正式名称。わかりやす〜い。
鍵を捻って目の前の空間に扉を出現させる。潜り抜けて扉を閉めると、すぐに霞となって消えてしまう。
扉を抜けた先に広がるのは、日本において私を含めて両手の指の数より少ないであろう人数しか知らない不愉快な森。空気中に漂う濃厚な魔力は、まだ第一階層を探索しているビギナーたちでは酔って倒れてしまいかねないほど。
きちんと探索者として基本を修めた人物であれば、推奨レベルは48以上といったところか。
「さてさて」
続いて「宝物庫」と同じく派生アーツ「武器庫」にアクセス。名前こそ武器庫だが、防具もある。むしろ防具の方が多い。要するに装備系の倉庫だ。
そこから一式セットにしている装備へとチェンジする。私のジョブ関連から、こういうのばっかり有用なスキルやアーツが揃っているんだよね。
私の装備はたいてい「透明化」が付与されているので、きちんと装備効果は得られているものの、見た目などは元の衣服のままだ。つまり普通のお洋服でございます。
ダンジョンに潜る以上は死ぬリスクを背負って覚悟してるんだから、私がどんな格好してても口を出すなよと言いたいがーーまあギルドとかからしたら、ただの服着てダンジョンに潜ろうとしてるやつがいたら止めるよね、普通は。
なので誤魔化す用にレザーの軽鎧を装備しているのだけど、早速脱いで本来の装備に戻ります。
いや、敵の攻撃から身を守るためには金属とかモンスターの素材とか使うんだけど、まあうるさいのよ。加工して布系にしてもいいけど、そうしたらまた外野がうるさいし。
万一、冒険者たちより深い階層の素材使ってることがバレたらめんどくさそうだし。
静稀兄さんからそこらの話は聞いている。一線級冒険者がスポンサードになるのは、もちろん援助が頼りになるからというのもあるが、有象無象の干渉の防波堤になってもらうから、というのもあるらしい。
有名税といえばそうなのかもしれないが、私はその辺滞納させていただく。
次の準備。
探索者たちは皆がジョブとユニークスキルをひとつずつ得られる。
ジョブは名こそジョブだが、実質はロールといった感じ。何に影響があるのかといえば、レベルアップしたときのステータス配分がジョブの名に相応しいものに偏るのだ。それ以外はあんまりない。ユニークスキルの派生にジョブが影響しているくらい。
ユニークスキルはその名の通り、個々人固有のものだ。そしてあらゆるスキルはジョブや個人の行動の影響を受けたユニークスキルによる派生だ。同じ名前のスキルがあったとしても、ユニークスキルが違う以上は必ず差がある。
なんかギルドで出版される本にはそこらへん書いてないけど。まあ検証しようがないものね。
私の知識は神様の攻略本によるものなので、それが嘘だったらどうしようもないが、今のところ間違っているものはない気がする。
私のジョブは生産系。そしてユニークスキルはそれを強化する感じ。
ユニークスキルは大元を辿れば別のところに行き着くが、まあそれはそれ。ジョブを強化する基本的なスキルツリーとなるのがユニークスキルと解釈しておけばいい。
そこのところは世間一般の解釈も正しい。
そんなわけで、私に戦闘系スキルはほぼ皆無。だから、私のダンジョン探索はアイテムを湯水の如く消費するものだし、すぐさま使えるようになっている。
周りに見られてたら悲鳴が上がるのだろうなあとニヤニヤ。
性格が悪い? 兄さんが許してくれるからいいのだ。他の誰にどう思われようが、どうといったことはない。
匂い消し系アイテムでモンスターから発見される可能性の低下。消音系と気配殺し系も使ってさらに低下。
これで正面から攻撃しても不意打ち判定が起こるので、武器は「アサシネイト」のスキルが付与されたダガー。
相手が戦闘に入る前に攻撃できれば防御力を貫通してダメージを与えられる。
たとえ相手がドラゴンであろうと、鱗を傷付ける攻撃力さえあればさぱっと捌いて首を落とせるって寸法よ。
ただ私自身に周りの存在を感じ取るようなスキルはないので、こういった戦術をする場合にパーティは基本的に組めない。
透明人間とかパーティにいても困るでしょ。
「最初の獲物は……君に決めた!」
ターゲットはとことこ歩く奇怪植物マンドラゴラ……の仲間であろう季節外れのタケノコくん! 君の足はアレだね、足というか根というかダンゴムシというか、非常に見ていてゾワゾワするな!
あと奇妙な肉樹が生え並ぶグロ注意階層で生気に溢れた新鮮なタケノコとはこれ如何に? 初見時は二度見した。
「突撃! おまえが今日の晩御飯!」
とんがった頂点から縦にダガーを一閃して一撃で討伐。倒されたモンスターは黒く染まり、泥団子が水流でホロホロ崩れていくかのように瓦解していく。
ドロップがあった場合、崩れていく塊の中央に残されるのだが……今回はなしか。アンラッキーだな。
一般的確率ともいう。普通はドロップしないからね。
私だからあっさり倒したけれどもこのタケノコくん、普通に倒そうと思うとすさまじくめんどくさい相手でもある。なにせあの厚い皮を一枚一枚全部剥いでやらないと、まともにダメージを入れることもできない。
あっちもそれを理解しているから、被弾を無視して突っ込んで来やがる。
そのうえ、皮が減れば減るほど攻撃力が上昇するという罠。
第五階層クラスになると、雑魚敵であっても、ただの一撃で軽自動車を横に吹っ飛ばすくらいの威力を持つ。そんなヤツの攻撃力が上がるのだから、後衛ジョブとかで布系防具だったりした場合、下手すると腹パンで内臓破裂しかねない。
耐久力上がらないからね、後衛ジョブ。
なお私も同じ紙耐久の模様。
流石にレベル高いし防具の質も高いから、このタケノコくん程度に苦戦はしないが。
「上手いこと倒せたと思ったけどな。引きが悪かったか」
ドロップについては世界各国のギルド等で調べられている。
ダンジョン探索の目的そのものなので、結構いい線まで研究は行っている。ジョブやユニークスキルについてなどもそうだ。
ダンジョンは世界の歯車の一部でしかないが、一部ではある以上、しっかり調査はされているのだ。
私は手引書というか攻略本というか、アレのおかげでわかっているからこそ、人々の科学的な調査というのはやはり優秀なのだなあと思う。
実力差などから私の方がほとんどの探索者より強いとは理解しているが、見下したりといった悪い方向に行かないのはそれが理由だ。
まあ静稀兄さんのおかげがないわけでもないが?
むしろ九割くらいだが?
モンスターを倒したときのドロップ率は、何も考えずにいると5%といったところ。命を懸けるにしてはシビアな数字だ。
けれども、複数の条件を達成する毎にドロップ率は上昇していく。ドロップ率自体を上昇させるスキルやアーツなどを抜きにしても、倒し方次第で最大60%まで上がるようになっている。
有名なのは大きな火力によってオーバーキルするというもの。ある意味、これは間違っていない。情報が少し足りないだけだ。
実際のところがどうなのかというと、ドロップはモンスターを倒した際に余っていた魔力等が多い場合、消滅しきれず余ったモノが形を成している。
モンスターの魔力の余分が変形するわけだから、そのモンスターの性質に合わせたモノになる。だからタケノコくんの場合は食糧がドロップする可能性が高いのだ。まあタケノコの皮とかがドロップする可能性も普通にある。「ちくしょう!」と叫びながら足元に叩き付けること受け合い。
私も一度はそうした。
ごめん嘘ついた、何回もそうした。
いやだってアレ、素材として何かに転用しようと思ったけど紙の材料にしかならなかったよ? しかももっと紙に相応しい素材を落とす敵は他にいるし、このタケノコ皮でないと作れない紙とかもなかったし!
強いて言うなら音の非常に弱いボヨンボヨンといった音を立てる太鼓ができるくらいかな……。
このダンジョンは割と一般的なダンジョンだ。つまりはメイズであり、基本的には通路で構成されている。通路と通路の交差点に当たる部分が時々小部屋だったり大部屋だったりする造り。
壁になっているのは先に述べた通りの肉樹で、内視鏡で見る体内臓器をイメージしてもらえれば問題ない。
隙間から奥に行けそうにも見えるが、ダンジョンの中なので見えない壁があって、その先には行けなくなっている。かと思えば、時々行けるショートカットもあるから困る。
うん、つまるところ、ゲームでよくあるダンジョンをイメージすればいい。
実際、探索者は命を懸ける職業であるため、そこまで人口は多くない。かといって、ダンジョンから手に入る素材は地上と同じ素材でも性質が違うので、欲しがる人や企業は多い。
国もそんな需要を満たして国力を上げたいので、探索者の数は増やしたい。
けれども政府が国民に対して「文字通り命懸けで働け」とか言えないので、ゲームやアプリという形で無料配布されており、知識などを幼いうちから学習させようとしているのだ。
……私は田舎娘なのでやったことないけどな! なんなら家にあるダンジョンに幼い頃から突入させられてたけどな!
パワーレベリングは無意味というか悪影響しか及ぼさないので、手引書に則って成長させられたが。
「今は午前十時か……」
スマホを取り出して確認。今日は野菜だけ収穫するつもりだったし、家の畑とかペットの相手もする必要があるので、そんなに時間がない。
お弁当も持ってきてないし、お昼ごはんまでには帰りたいところ。
「ってなると、さっさと誘き出さないとな」
罠を張って一か所に集め、そこで一気に刈り取るのがいいな。よくやるやつだから特に悩むことはない。
冒険者は戦うのかもしれないが、探索者はモンスターと戦ってはならないと個人的に思う。収穫とか駆除とかいった評価が得られそうな戦い方をするべきなのだ。無駄に苦労するなんてバカのすることだよ、まったく。
決めたらさっさと動く。見つからないのをいいことに、できるだけタケノコくんが集まっている小部屋を探す。肉に飢えた双頭の狼とか目が血走った牛とかびゅんびゅん飛び回る血で染まった翼を持つ鳥とかいるのを無視して探す。
出汁も取りたいからシイタケくんとかいないだろうか。このダンジョン、21階のお野菜はタケノコくんだけなのかな?
コンブくんでもいいのよ? コンブちゃんかな?
そんなバカなことを考えながら、ちょうど良い場所を見つけた。
タケノコというのは地下茎で繁殖する植物だから、複数存在してもおかしくないと思っていたが、予想通りだ。
なので小部屋に入って罠を仕掛けて回ろうとしていると――
「えっ? はっ⁉」
見つかった⁉ バカな⁉ この程度の雑魚相手に私がアイテムを使いまくった上で見つかるなんて有り得ない! 効果時間も切れていないぞ⁉
次々と襲来するタケノコくんの群れ。ダンゴムシの如き脚が気持ち悪い。夢に見そう。
タケノコくんたちはモンスターなだけあって結構大きい。私の腰くらいはある。つまりは80センチに届かないくらいだ。
太さは両手で抱くと、なんとか指が組めるくらい。それらがワチャワチャと時速40キロくらいの速度でやってくる。慣れてないと怖いわな。
その場で踏み切って真上へ跳躍。今の私のステータスは生産職らしく、低い。
ただし……それは戦闘に必要なステータスが、という話。
つまりは筋力や耐久力、敏捷性などだ。裏を返せば、器用さや魔力、精神力といったステータスは高い。むしろ、総合ステータスは生産職の方が高い傾向にある。
だから、私はそれを逆手に取った装備を作っている。
コストが非常に重いので、かなり深い階層の貴重な素材を湯水のように使って失敗作を山のように築き上げ、そうして作られた逸品。
それだけの素材を用いてもなお、付与できたスキルは「透明化」を除いてそれひとつのみ。そのうえ、ステータスへの恩恵はないというアクセサリーに近いモノ。
されど、その効果は破格。付与されたスキルの名は「変幻自在」。
かっこいいが、分かりにくいので、個人的には「職業自由の権利」とかにしたいところ。できないが。
私の付けたい名前の通り、その効果は自分のジョブを別のジョブに自由に切り替えられるというものだ。
ユニークスキルは変わらないので、別段他のスキルが使えるようになるというものではない。
けれど、ステータスの配分がそのジョブのものに切り替わるというのは、相手に合わせて最適な状態になれるので、すさまじい利点を誇る。
中空へ飛び上がりつつ、顔を片手で撫でるようにスライド。選べるジョブの数はまだそう多くない。必要な素材が希少かつ多すぎる上に、失敗したら装備自体がゴミになるのでそう気安く試せないからだ。
変更先のジョブは最もよく使っている……というより、基本的にダンジョンにおいて私が使っているジョブ。今回使っていなかったのは、なんというか、ええ……舐めてまして……。油断はいけませんな。慢心、ダメ絶対。
「チェンジ、『ファントム』」
ぐ、と身体に力が廻る。器用がやや下がるが、生産職は伊達ではない。十分以上に高い状態を維持している。筋力と耐久力は大して伸びないが、敏捷性と精神力が非常によく上がる。
大して伸びないとはいえ、元のレベルによるステータスの暴力だ。現行の冒険者の前衛以上の筋力と耐久力にはなっているだろう。
ジョブチェンジに紐づけして装備も一式切り替わっている。すべて「透明化」が付与されているので、見た目は変わらないものの、装備に付与されているスキルが起動していく。
筋力と敏捷性が飛躍的に高まったことで、動体視力も超強化された。滞空時間が体感的に引き延ばされる。この状況下で一網打尽にする方法は……正攻法によるラッシュか。
「武器庫」から風魔法スキルのアーツ「
同時に数少ない私の攻撃系スキル「投擲」も使う。まあ攻撃用かと言えるかは微妙なところでもある。生産系かもしれん。本来は自分で製造したアイテムを投げて仲間を回復したり、相手にダメージを与えたりとかが習得できる理由だろうし。
ともかく、私でも「投擲」のスキルはあるので、派生されたアーツも使えるということ。そしてファントムのジョブにもある。
すなわち、このステータスを存分に活かせるってわけだ。
「『スプレッドスロー』!」
放たれた刃が煌めき、すかさず十本以上に分裂。狙いはタケノコくんではなく、その真下の床。衝撃を受けたナイフが内側から溢れる翡翠色の輝きに吞み込まれ、炸裂する。
轟と耳をつんざくような轟音を上げながら竜巻が発生し、タケノコくんたちを巻き込んだ。旋風の内側では風の刃と、粉々になったナイフの破片が狂乱する。
どうでもいいが、私はこの攻撃方法を内心でフードプロセッサーと呼んでいる。
「料理は手際が大事だよ。そのことくらいは、わかるね?」
優秀過ぎるスキルの弊害として、一時的に私の言動はどうしてもジョブの影響を受けてしまう。基本的な言動は元のままだが、そこにプラスαが加わってしまうのだ。
「ファントム」の場合は、キザと言えばいいのか中二と言えばいいのか。
まあ、なかなかに香ばしく黒歴史を刺激しそうというか積み上げているというか。私個人は「スキルのせい」と開き直っているからいいのだが。
動きを束縛しての多段攻撃で皮を剥ぐ。勢い余れば、そのまま倒せもする。あとは残ったのを倒せばいい。楽ちん撃破だ。
料理は手際などと言いつつ、実はあまり料理とか好きじゃない私。美味しいものを食べるのは好きだから、凝ったものはお店へ行き、簡単なものだけ家で食べる所存。疲れるから家でごはん作るのにスキルとか使わないしね。
それにしても、どうして私の存在が気付かれたのだろう? これまでこんなことはなかったのに。もっと深い階層ならともかく、私にとってこれほど浅い階層で。
ましてや、嗅覚や気配探知に長けた犬や蝙蝠などと違う、タケノコくんに。
「……ああ。変異種なのか、キミ」
鑑定してみると変異種だったことが判明。皮を剥いだ内側、本体の色が違っていて、皮の上からでは見分けがつかないようだ。
だとしても、こんな数がみんな変異種なのはおかしいとより詳しく鑑定してみると、タケノコくんのアビリティに「地下茎」というものを発見。株分けとは少し違うが、どれも同一個体ということだ。
竹という植物は土の中で地下茎を拡げ、そこからタケノコを生やして群生する。なので植える際にはコンクリートなどで拡げられる範囲をあらかじめ区切っていないと、際限なく繁茂する畏れのある危険な植物だ。ある意味でミントやドクダミ、レモングラスなどと同じ。
まさに「個にして軍」。最初の一体とエンカウントした時点で、私は残る連中と接敵したのと同じ判定だったみたい。
「危ないな、コイツ」
変異種は危険性がワンランク上がるが、通常のタケノコくんの持たない「地下茎」というアビリティはツーランク上げてもいいくらい危険だ。
私からすれば格下だから大した手間でもないが、えんやこらとやってきた探索者くらいだと物量に潰されかねない。
なにせコイツ、最初に一体だけ放ってこちらの戦力確認してくるくらいだったし。つまりは斥候だ。そして全体でそれらの情報を瞬時に把握している。
探索者たちがダンジョンアタックの際にやっていることを、そのままやり返されるのだ。有用かつ重要だから、みんなやっていることを、だ。
「ギルドに報告しとかないと」
ドロップアイテムを回収しながらぼやく。
そして忘れないようにメモっておく。変異種は危険度が上がるーーすなわち、美味しくなっているのだ!
報告を忘れる自信が、私にはある‼︎
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