第32話



 「さて、本題に入りましょうか」



 天ヶ瀬は入り口横に立ったままだったが、その一言を機に、渋々ソファに座った。


 1人掛け用のソファは、俺が座ってるソファと同じ素材でできていた。


 艶のある、黒いレザーシートだった。


 その場所に腰を下ろした「アリス」と呼ばれる女性は、白いマグカップに淹れられたコーヒーを口に運ぶ。


 スッと細い指がコップの縁に絡み合い、どこか優艶な雰囲気を漂わせる。



 …大人だ



 まごうことなき“色気”が、ちょっとした仕草からもこぼれ落ちてた。


 そんな悠長なことを考えてる場合じゃないんだが、思わず見惚れてしまっていた。


 ぽけーっと口を開ける俺を叱りつけるように、冷たい視線が目の前から降ってきた。


 『マキ』


 金髪の名前は、マキと言った。


 見た感じギャルっぽかったが、それ以上にヤンキー気質な顔立ちをしていた。


 顔立ちっていうか、…雰囲気?


 他の2人と同じように、すごく綺麗な見た目をしてるんだけど、その「綺麗さ」が台無しになってしまうくらいの尖った顔つきが、凍りつくような寒気を運んできていた。


 彼女が急にナイフを出してきても、きっと驚かないだろう。


 いや、ビビるけど。


 …なんていうか、持つべき人が持ってるみたいな??


 釘バットとか持ち出してきそうだもん。


 木刀とか、鉄パイプとか、…さ?



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