第30話



 「…わかります」



 天ヶ瀬はコクッと頷いた。


 視線はずっと金髪に向いたままだった。


 苦しそうな表情を浮かべていたが、それ以上にグッと前を向いていた。


 反抗しようとしているのがわかった。


 掴まれた首を解こうとしてはいなかった。


 ただ、まっすぐ見つめ返したまま、強気な顔を保っていた。


 それが気に障ったのか、金髪は苛立ったように腕に力を入れて——



 「なんだぁ?その目は!」



 「マキ」と、再度語尾を強めた声が聞こえたのを皮切りに、金髪は天ヶ瀬から手を引く。



 「ゲホッゲホッ…」



 天ヶ瀬は息を整えていた。


 首の表面は赤くなっていた。


 相当キツく握られていたんだろう。


 手が離れたと同時に、首を押さえながらうずくまる。


 金髪はそんな彼女を見下ろしたまま、険しい表情を一層と強めた。



 …やばすぎるだろ



 なんでそんなに怒ってんだ…?


 事情が呑み込めなさすぎる。


 2人が怒ってるのは明らかだったが、思い当たる節がなかった。


 いや、待てよ…


 ひょっとして、俺にナイフを刺してきたこととか??


 どう考えてもおかしかったよな…?


 …おかしかったっていうか、“ぶっ飛んでた”って言うか


 

 「で、どうするんだ?」



 金髪は俺の方を睨んできた。


 鋭い目尻がナイフのような切れ味を持ちつつ、滑る。


 “どうする”、か。


 その言葉の鋒が、明らかに俺の方に向いていることに気づいた。


 逃げようにも動けなかった。


 体が硬直していた。


 動ける気もしなかったんだ。


 腕は後ろに回されたままで、岩でも乗せられたかのような“重み”が、全身に覆い被さってて。

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