第14話
「キミは今、生と死の間にいる。だから、ナイフで刺されても痛いんだよ」
痛みが消えていく。
そう感じたのは、ものの数秒のことだった。
わからなかったんだ。
何が起こってるのかは、”すぐ“には。
感じたこともないような感覚が頭に掠めて、視界が揺れるような歪みが、意識を持ち上げるように倒れた。
バタバタッと慌ただしい時間が、垂直に横たわっていた。
力が抜けていく。
そういう感覚にも近かった。
激しい痛みとは裏腹に、薄く引き伸ばされていく筋肉。
絹のような滑らかさを持ちながら、ぼそぼそと弾力のない繊維の繋ぎ目が、鋭い弧を描きながら浮かんでいた。
足元が“すくんで”いた。
深い水の中で、足がつかないような状態だった。
体を支える接点がないまま、フワッと全身が浮かぶ。
そういう掴みどころのない感触だった。
ほんのわずかな、「時間」の中では。
視線を、落とした。
ほとんど無意識だった。
何が起こっているのかの整理は、ついにできないままだった。
それでも意識ははっきりしていた。
目が覚めるような鮮明さが、目の前に染み渡っていた。
色。
空気。
光の加減。
——外灯。
…ああ、と、予期していない息が漏れた。
視線がゆり動いたのは、前に倒れてくる時間が、硬直した意識を解きほぐしたからだった。
優しい感触さえ、“手前”にあった。
それがどれくらいの近さを持っているかはわからなかった。
けれど、ナイフで刺すような鋭さだけは、そこにはなかった。
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