第13話



 ドクンッ




 …なんだ…?



 …体が、…熱く…?




 目の焦点も合わないままに伸縮する景色。


 夜の静けさの中に伸びていく暗闇が、“ポツン”と、視界の背後を覆っていた。


 不思議な感覚だった。


 時間がゆっくり動く。


 それは「感覚」であって、実際の“出来事”なんかじゃなかった。


 ただ、目の奥を引っ張るような張りが、糸を張り巡らせたようにそこらじゅうに伸びていた。


 血が流れていく振動。


 ゴボッという破裂音。


 通り過ぎる「時間」を追いかける。


 ほとんど思考は停止していた。


 考えるだけの隙間は、どこにもなかった。


 目を動かす動作の中心に溢れる、——光。


 その光は、形という形の一切を解くように広がっていた。


 一つの場所にとどまることもなく、ポツポツと空間の中を漂っていた。



 ジグザグに。


 それでいて、まばらに。



 スローモーションに動く。


 瞳の先に映る全ての景色が、泡ぶく色の中に溶け込んでいく。


 何かが研ぎ澄まされていく。



 …ただ、その「何か」は——




 ギュルッ




 一瞬、耳を疑った。


 疑ったのは、鼓膜の内側に響く「音」だけじゃなかった。


 感覚。


 さっきも言ったように、それは意識の中にある“反応“だった。


 すれ違う景色の中で、今まで味わったこともないようなノイズが流れた。


 色が変わるとか形が変わるとか、そういうはっきりとした変化をありありと残しながら、煙のように掴みどころのない輪郭を広げていた。


 体の「中」で起こった出来事だった。


 少なくとも、目の前に通り過ぎていく、全ての事象は。

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