第4話



 …け、警察



 こういう時は、すぐに警察を呼んだほうがいい。


 咄嗟に思ったが、体は固まったままだった。



 …なんで?



 身を乗り出すように男は叫んでいる。


 店員は困ってた。


 そりゃそうだ。


 見る感じ華奢な女の子が、自分よりも二回り以上大きい男に脅されてるんだ。


 困るとかっていうレベルじゃない。


 俺が店員だったら、多分卒倒する。



 どうすればいい…?



 このまま見過ごすわけにもいかなかった。


 かと言って、体は震えたままだった。


 我ながら情けなかった。


 こういう時、アイツだったら止めに入る。


 絶対、逃げ出したりなんかはしない。


 でも俺は、そんなに強い人間じゃない。


 喧嘩だってしないし、人を殴ったこともない。




 …見ろよ?


 震えてんだぞ?


 何かができる気はしなかった。


 一瞬でも、“向かっていこう“って気持ちは芽生えなかった。


 訳もわからないまま時間は過ぎた。


 そんな中だ。


 男が、ナイフを手に持ったのは。


 

 「さっさと出せ!」



 そっからの記憶は、いまいち残ってない。


 女の子の顔ほどもある大きな刃物が目に映った時、最悪の未来が、頭によぎった。


 怖いとか震えてるとか、そんなの言ってる場合じゃない。


 無我夢中だった。


 考えてる余裕はなかった。


 女の子を助けようと思った訳じゃなかった。


 正直、後先のことは考えてなかった。



 ガッ



 男の肩を掴んで、意識をこっちに向けようとした。


 注意をそらせれば、きっと…


 女の子の顔を見た。


 彼女に向かって、俺は何かを叫んだ。


 なんて言ったのかまでは覚えてなかった。


 やばい。


 きっと、そんな感覚だった。


 無意識のうちに手を伸ばした時の、——感情は。

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