悪役、間に挟まれる

「……それで、どうしたらブルーさんと仲直りできますかね」


 何だかついさっきもこんな事があったような気がしたがたぶん気のせいだろう。


 アッシュがブリザードからの命令で仕事をしていると、ブルーの粘着ファンが現れた。近頃エタニティの邪魔をしているのはブルーでもフレイムでもなくこの一般人なのではないかと思う。さりげなく他の人間を逃がしてしまうし、じゃあアッシュも引き上げようかと思うのに何故か捕まって長々と男の話を聞かされている。


 この男が言うにはブルーと付き合うことができたしブルーも満更ではなさそうだったのに、ブルーに黙っていたとあることがバレて怒らせてしまいそれ以来会えずにいる、みたいな……付き合っていると思っていたのがこの男の妄想のような気もするが。

 それかあまりにしつこくてブルーが観念したけどやっぱり無理だったのか。

 

「黙っていたことも、秘密にしてた訳じゃなくて……ちゃんと言うつもりだったんです。それを横から急にバラされて! せっかくいい感じだったのに……」


 一体何がバレて怒られたんだろうか。やはりストーカー行為か?


 それにしても何で悪の組織の人間に恋愛相談なんてするのだろう。それ以前に恋愛なんて感情自体、アッシュにはいまいち理解できないというのに。


「……そろそろ帰っていい?」

「怒ったブルーさんも可愛いんですけど、でも会えないのは辛いんですよね」


 こいつ、人の話全然聞いてないな……。


 これだったら室田の話を聞いていた方がマシだったのかもしれない。


 

 こんなにブルーの登場を待ちわびるなんて自分は一般人でこの男が悪の組織の人間だったかな、と錯覚してしまう。とにかく早くこの場から解放されたくて、ブルーに早く来いと念を送っていたアッシュだが――もちろんすぐに後悔することになる。


 アッシュの願いが通じたのかブルーはすぐに現れた。そしてまずアッシュを確保した。まあたしかに、敵なんだからそうなるかもしれない。だが今回は絶対にそうじゃない。

 うっかりアッシュを逃がしてこの男と二人きりになりたくないからだろうと思った。



「ブルーさん!」

「……アッシュ、お前まだ逃げるなよ」

「何でだよ」


 ブルーはアッシュを盾にするようにして男から距離を置いている。何故だ。俺はお前の味方ではないしもちろん盾でもない。

 一瞬前までブルーを今か今かと待っていた自分は棚に上げて、そんなことを思う。


 二人に挟まれたアッシュは最早抵抗する気にもなれず、ただぼんやりと喧嘩の様子を眺める。何だ、結局ブルーも満更でもなさそうだしただの痴話喧嘩じゃないか。



「僕はこの星の人間を襲ったりしません。たしかにうちの星の出身者は魔法少女と敵対してますけど、故郷が同じなだけの無関係な人達です。それに、きっと僕はブルーさんのお役に立てると思います」

「……たとえば?」

「エタニティを倒すお手伝いをします!」

「――ふむ、いいかもな」


 見事な手のひら返しに突っ込みたくなる。


「いや、お前の悩みをさっきまで聞いてやってたのに!」


 いつの間にか間に立たされてやっていただけのアッシュが完全に巻き込まれていた。悩みを聞いてやっていた相手に対する仕打ちとは思えない。この男たち、最悪だ。



「愛する人の前では些末なことですね」

「怜央、じゃあとりあえずアッシュをボコボコにしろ」

「はい!」

「はい!じゃないから!」



 ブルーから突き放されるが、同時に男がこちらへ手をかざす。嫌な予感がして後ろへ下がると赤い炎のようなものが目の前に現れた。

 避けきれなかったマントの裾がちりりと焦げ付いた、嫌な匂い。

 ボコボコに、どころじゃなくて完全に消す気で来ているのでは……?


 ブルーだけならまだアッシュで対応できるが、この謎の男の力は未知数だ。

 それに、何より、痴話喧嘩に巻き込まれて消されるなんて冗談じゃない。


「帰る」


 姿を消す直前にブルーが文句を言っているように見えたが、まあ、無視しておこう。


 ……ところでどこかで聞いた話にすごく似ていたような気がするのだけど、アッシュにはそれが何なのかちっとも思い出せなかった。

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