友人、再び相談される
灰田湊は久しぶりに友人の室田青に呼び出されたかと思えば、長くカオスな物語を聞かされていた。ファンの男に絆されたような気がしたものの、そいつは自分とは別のヒーローの敵で、ついでに一夫多妻制の星の出身だったとかそんな話だ。
自分がヒーローだったから騙して利用しようとしていたのだろう、と。いつも脳天気な室田にしてはどうも落ち込んだ様子で……。
謎の自白キャンディが出てきたり、どうも現実離れした内容の話だ。宇宙人とか魔法少女とか、ファンタジーなのかSFなのかジャンルをハッキリして欲しい。
設定を盛り込みすぎなのでもう少しシンプルにした方がいいのではないかと思う。
あとは何でもかんでも喋る室田にしては珍しく言い淀んだ箇所……推理するとどうもそのファンの男と体の関係を持ったような雰囲気である。あの室田にそんなことが起こり得るのかと叫びそうになってしまったくらいだ。
あの室田が。
高校時代、明らかに気がある女子生徒からのフラグを無自覚に折りまくり、精神年齢がおそらく小学生で止まっているのだろうと言われていたあの室田が、そんな難しい、複雑な感情を手に入れたなんて。
……大人になったなあ。
「それで、室田はそのファンにしばらく会ってないのか」
「……まあ、一週間くらい」
「連絡先とかは聞いてないのか?」
「別に会いたくはない」
本当にそうだったらそのまま会わずにいればそれでいいのに、室田はそわそわしているし、おそらくその男が会いに来るのを待っているのだろう。
湊としては、『彼氏と喧嘩した』と久しぶりに実家に帰ってきた娘からの愚痴を聞いているような気分になる。しかもその娘と来たら彼氏が迎えに来るのを待っているくせに認めようとしないわけで。
「その変なキャンディがそいつに効いたかはわからないが、室田はそいつが嘘を吐いてないと思ったんだろ」
「……わからない」
「それに、その宇宙人の敵は魔法少女だから室田とは敵対してない」
「たぶん」
「お前がそいつを信じたいと思うんだったら信じたらいい。普通は相手が何考えてるかなんてわからないんだし」
それに、室田の顔にはどう見てもその宇宙人を信じたいと書いてある。もしかしたら後で悲しいことになるのかもしれないけど、どうせ選択しなければそれはそれで後悔するのだから何かを選んだ方がマシだ。
室田は謎の宇宙人に対して怒りがよみがえったのか、唇を尖らせている。
「仲直りしたら?」
「……怜央が悪い」
拗ねた子供のように言う。
まあ、宇宙人なのを隠していたのは悪かったかもしれないけど……いや、そもそもヒーローと宇宙人と魔法少女なんて現実なのだろうか?
かなりヤバいやつに好かれてるとかじゃないといいけど……まあ、愛があれば何とかなるのか。
湊はそれ以上考えることが面倒になってやめた。
「あ、仕事入った」
「えっ」
憧れの雇い主からの呼び出しは最優先だ。たとえ、就業時間が過ぎていても。
「悪いな、室田。また」
そうしていつもの公園に室田を残して、指定された場所へ向かう。心配でもあったが、どうせ湊に解決することはできそうにないし。
湊自身には室田のような熱い夢は無かったが、ボスの夢を叶えたかった。最早それが湊の夢だと言ってもいいと思う。ボスが叶えたいというものなら内容なんてどうでもいい。あの人が成し遂げたいことであれば全て正しいのだから。
まだ新入りではあるけれど、成功を重ね、いつかブリザードの右腕になってみせる。
「――変身」
それが、エタニティ期待の新人・アッシュの野望だった。
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