ヒーロー、怪文書を送られる
「ブルーさん! 会いたかったです!」
ブルーが現場に駆けつけると、何故かうんざりしたようなアッシュと、ニコニコ笑っている怜央が居た。
おかしいな、たしかアッシュが民間人を襲っているという話だったはずなのに。怜央はちっとも怯えた様子もなく、他に民間人らしき人影はない。
思わず回れ右して帰ろうとしてしまった。ヒーローにあるまじき行為だ。
「やっと来たか、ブルー。さっさとこれを引き取れ」
「は?」
これ、と言ってアッシュが指したのは佐藤怜央だった。
「お前が現れるまで離れないと言って俺にまとわりついて来て非常に邪魔だった」
「やっぱり悪の組織あるところにヒーローありだと思って、アッシュさんにつきまとってました!」
「は、はあ」
言葉の通じない怜央の相手によほど疲れたのか、アッシュは深いため息を吐くと「じゃあな」と消えてしまった。
……普通、戦うところでは?
自分も逃げ出したいと考えたことは棚に上げてそう思うブルーだった。
一応敵はいなくなったものの、ある意味もっと油断ならない男がいるので変身は解かずにいる。
「あの、ブルーさん」
正体を知られていると言っても、日常生活の中で怜央を見かけたことがない。わざわざアッシュにつきまとうあたり、怜央も青がどこの誰なのかまでは知らないのだろう。
ならばこうして出動する時だけ気をつければいいのか。だが、こうして危険に飛び込まれても困る。
「僕、ブルーさんに会いたくて……迷惑でしたか?」
「そうだな」
「そうですか……」
しゅんと落ち込んでみせる様子に罪悪感を覚える。危険(アッシュ)は去ったのだし、少しくらいなら話してやっても……。
「僕、ブルーさんに手紙を書いてきたんです! これ読んでください!」
ブルーが迷っている間に怜央はどこかから取り出した封筒を押し付けてくる。ん、封筒? 妙に分厚いような……小包?
受け取るとずしりと重い謎の物体。手紙だけが入っているとはとても思えない。怜央はブルーがそれを手にしたのを見ると、満足して帰って行った。
後には謎の小包のような、手紙だというそれと、ブルーだけが残された。
初めて会った時、逃げ惑う人々を助けようとする姿が美しいと思いました。その時は素顔がわからなかったけど、自分が恋をしたのだとハッキリわかりました。襲われるのも、誰かにそれを守られるということも、初めての経験でした。自分がそういったことに巻き込まれるのだと想像したこともありませんでした。
だから、単純に守ってもらえて嬉しかった。誰かのために戦おうとするあなたがとても尊くて美しいものだと思いました。僕は誰かを守ろうなんて考えたこともありませんでしたから。
次に会った時は素顔の貴方を知りました。
綺麗な黒目黒髪。
桜色の唇。柔らかそうな頬。ヒーローではない貴方もとても美しく、僕はまた恋をしました。
変身して戦うブルーさんも、素顔のままの貴方も、どちらも大好きです。
キスを迫った時の反応もとても愛らしく、興奮しました。怯えからか涙目になっている表情が色っぽくて新たな扉を開いてしまいました。ブルーさんはヒーローをしている姿がカッコイイのですが、僕が強引に迫った時の怯えた反応が堪らなく可愛いです。その目尻に溜まった涙を舐めとってみたくなりましたが、我慢しました。
どうか僕と付き合ってもらえないでしょうか。
ブルーさんにもっと会いたくて調べているのですがなかなか見つかりません。僕の愛の力が足りず申し訳ありません。早く普段も会えるように頑張ります。
当面の間はエタニティが現れたところにすぐ駆け付けられるようにすることにします。そうすればブルーさんの活躍を誰よりも近くで見ることができますから。
それでも、こうして思うように会えないのはとても辛いものですね。集めた写真を見ながら想像の中のブルーさんを汚すことで寂しさを埋めてはいますが、本物の貴方には敵わない。いっそ捕まえて飼おうかなとも思いましたが、まだ準備が整っていないので我慢しています。
エタニティがもっと暴れてくれればブルーさんに会えるんですが、なかなか難しいですね。
なんとか読めたのは一ページ目だけだった。次の紙を見ると『ブルーさんと付き合ったらしたいこと』という内容が始まり、普通のデートプランから卑猥な言葉が並ぶとんでもないものへ変わっていく。
そもそも一ページ目から不穏ではあったが、それ以降はとても読む気になれなかった。自己紹介ページなんてものもあったが、一体何枚の便箋をこんなことに使ったのだろう。紙の無駄すぎる。
やりたいプレイのページはかなり恐ろしい。というか、考えたくないのだが、怜央は青をそういう目で見ているということなのだろうか。しかも青が受け身?
挑戦したい体位の図解を眺め、背筋をゾクゾクしたものが走る。うう、考えるのはよそう。
この恐ろしい小包はとりあえず……捨てるのも怖いから、押し入れの奥に封印しておこう。あと、絶対顔以上の個人情報がバレないようにしよう。
そう誓う青だった。
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