第4話 茶色い柱
その日は適当なレトルト食品とアルファ化米で食事をした。虫があまりいないのが救いだった。食事に入りそうになったのだ。
調理に使う小型の空気圧式オイルバーナーを動かす為に、横についているポンプレバーを一生懸命シュコシュコと押し込み続けたのがその日一番の労働だった。
寝る時には寝袋が無いことに気がついて慌てて購入した。キャンプ用品だけは相変わらず充実のラインナップだった。
こうして異世界の1日目が終わった。
翌日は川に沿って下流方向に進むことにした。下流域なら人が住んでいるだろうと思ったのだ。
地学的知識や野外活動の経験はほぼ無いので完全な当てずっぽうだが、少なくとも水で困ることは無いだろう。
リュックサックに器具と食料を入れ、寝袋を上に積んだものを背負って、俺は初めて見る土地を歩き始めた。持久力だけは自信がある。
「まだ2日目だけど、地元の動物を狩ることも考えた方が良いだろうなぁ……」
メリカリのみでは所持金が心許ない。安い物で揃えたがもう70万ぐらいしか残って無いのだ。
動物のさばき方は全く知らないのだが、ハウツー本と道具を揃えれば何とかなるかもしない。だがそれは後でいいだろう。
それより先に、何か簡単な武器を手に入れなければいけない。
日本にいた頃に『KOホームセンター』や『カインズ SIN ホーム』で剣鉈が売っているのを見たことがある。
銃刀法的にあれはセーフなのだろうかと不思議に思ったのだ。ナイフや包丁よりも凶悪な武器ではないだろうか。
どうしてイカれた通り魔はアレを使わないのかと、俺が悩むぐらいにアレは武器としての外見を備えていた。
メリカリでは剣鉈と砥石は大量に出てきた。サビサビのやつから短いのや値段が高いやつまで豊富なラインナップだった。
そして通り魔が長い剣鉈を使わない理由が分かった。ものすごく高いのだ。破滅的思考に陥るぐらい追い詰められている人間に払えそうな金額じゃなかった。
「高いやつだと買うのをためらうな。護身術も何も知らんし。長いやつを買って使いこなせるだろうか?」
悩んだ挙げ句、結局は刃渡り20センチぐらいのヤツにした。長さが包丁と変わらないことに気がついたのは後からだ。
「これでも何も無いよりはマシだ! 初心者はナイフから! それに鉈だしな。邪魔な植物を払う役にも立つ」
とは言ったものの、川沿いは草もそこまで生えておらず、わざわざ剣鉈で払うような物は何も無かった。
ベルトケースが付いてて良かったよ。鉈を
俺がそんなことを思いながら、川沿いをとぼとぼと歩いていた時のことだ。
突然に妙な音が聞こえ始めた。
その音は雷の音と木を引き抜く様な音、何かを引きずる音、四つ足の野生生物らしき悲鳴、鳥の叫び声を全部混ぜて一斉に発したようなものだった。
俺は今、川を左に見て下流へと進んでいる。右手側は森だ。
そのひどい音は右側の森の全体から聞こえて来るように感じられた。
歩き続けているにもかかわらず、音の聞こえ方は全く変わらなかった。
俺はいざという時の心構えというか、何かの生物と接触することや、その結果どうなるかという危機感がまるで無かった。
なのですぐ右にある森の木が、まとめて何本もゴッソリと消えた時にはすぐに反応も出来ず、そこで馬鹿の様に突っ立っているだけだった。
自分がしょせんはその程度の人間だと思い知ったのはさらに衝撃的な光景に出くわしてからだった。
かなり高い場所から降りてきている様に見える茶色い柱のような物体が、凄まじい速さで上空へと引っ込んで行ったのを見た時に、それが目の前の木をまとめて持っていったことに気がついた。
ここはもう奥の手を使うしかない。
使うのだ。『
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