第3話 品質保証なし

 通販スキルであるメリカリはフリーマーケットサイトにつながる能力だった。

 日本にいた頃は大手通販サイト『アバドン』しか使っていなかったから、フリマがどういうものか本当にわかっていなかった。

 定期的な入荷が見込めない為、小まめに確認しないと買い逃しが酷そうなのと、元から出品されない商品があるのがネックだ。


「とりあえずここから移動しよう。方位磁石を買わないと……」


 今度は『方位磁石』で検索してみた。さすがにこういう物はあるだろう。

 検索結果は

『アニメキャラクターグッズ(ピンバッジなど)』

『コンパス(文房具)分度器付き』

『迷えるコンパス(写真集)』

『羅針盤(小説)』

という予想の斜め上を行くラインナップで、検索結果を40ページもめくってようやく求める方位磁石が見つかった。


 これ300円だけど一応買っておこう。


 ポロンと地面に転がった方位磁石を手に取り、水平にしてみたが針が動かなかった。よく見てみたら針が錆びていた。


「どうしてこう……最低限の品質保証も無しか……仕方がない。歩こう」


 飲める物がそれしか無かったので、コラーゲン栄養ドリンク(100ml)を3本飲んで渇きを癒した俺は森の中を歩き始めた。

 壊れていた方位磁石は捨てた。




 滅多なことでは死なない身体にしてある、という神の使い(窓口担当)の言葉を信じて適当な方向へ向かって歩き続けた。

 そう言えば俺はキャンプも連れていってもらうだけ、ついでに自炊も面倒に思う料理も出来ない男だった。

 日曜大工もしないから工具が手に入っても使いこなすことも出来ず、サバイバルの知識も無いから火をおこすことも出来ないのだ。


「こういうことになるなら、気合いを入れて多趣味な人間になっておくんだった」


 今さら後悔してももう遅い。神からザマアされるようなことになるとは思いもよらなかった。


 そんな感じでへこんでいたのだが、歩き続けると水の音が聞こえてきた。


「水だ! 良かった。川か何かがあるんだ」


 目の前には川があった。かなりの水量だし使う分については心配ない。

 食事をどうするかいい加減に考えないと。俺は気力を振り絞ってメリカリを開いた。


 リュックサック、スキレット、空気圧オイルバーナー、携帯オイル缶、オイルライター、深皿とスプーンとフォークは驚いたことに種類が多くすぐに購入出来た。商品の偏りが酷すぎる。 

 キャンプには連れてってもらうだけだったが、必要な物の記憶が残っていて良かった。


 水は川のヤツを沸騰させて使うとして、問題は食料の方だった。

 まずは『食料 食べ物』で検索してみる。

 肝心の検索結果は

『食品サンプル(ウレタン)』

『食べられるお姉さん(写真集)』

『飢える死体(小説)』

『サラダ油詰め合わせ』

が上位に来ていたが、俺もそろそろこのフリマサイトに慣れてきていた。

 結果表示のページをめくっていき、レトルト食品詰め合わせ、キツネそば(加熱用)、缶詰め各種、アルファ化米パックを見つけ出し購入することが出来た。


 まずは慣れて、この能力を使いこなすことが大事だということなのだろう。


 危険な生物とこれから遭遇する可能性もあるが、ビクビクしていても始まらない。


 俺の心に希望の光が差し込んできた。



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