第2話 メリカリ
神の空間から送り出された俺は見知らぬ森の中に転移したようだ。
周りにはうっそうと木が生い茂り、先の方の視界は効かない。
今の俺の格好はと言うと、自然の多い野外を歩くためのトラッカーシューズを履き、ポケットがたくさん付いたオリーブ色のカーゴパンツが下半身。
蒸れない白スポーツシャツ、これまたポケットの多いオリーブ色のブルゾンが上半身を包んでいた。
手荷物は全くないが、強力なスキルと野外で動きやすい服を付けてくれただけで充分ではないだろうか。
ついでに今の身長は182センチメートルになっているはずなのだ。少しだけ地平線が遠いに違いない。
「よし、ここからだ。この世界でここから俺の旅が始まるんだ……」
何やら強力な敵もいると聞いてきたが、こちらも強力なスキルを授かった。
何とかなるだろうという気持ちで俺は満たされていた。
「街に向かって歩くか、水源を見つけないと危ない」
周りには人っ子一人いないので、何か聞くことも出来ないため適当に進むことにした。
「方位の確認ぐらいはした方が良いんだろうけど。スキルの確認をしないと。それではステータス!」
独り言が多いのは孤独だからだ。
スキルの使い方を一切聞かないで来てしまったが、目の前には文字が光っている透明ボードが現れた。良かった。
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名前:ハニューダ・タケシ
年齢:27歳
身長:182センチメートル
●スキル
言語理解
メリカリ
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記憶を保持し、日本人の身体を持ったまま身長が10センチも伸びた状態で俺はこちらに来れた。顔も平凡なままだ。
言語理解があるから、とりあえず会話で困ることはないだろう。
『メリカリ』というのはフリーマーケットのようなサイトだと聞いたことがある。
ネットショッピングは世界中で手広くやっている大手通販サイトである『アバドン』しか使ったことがない。
しかし『メリカリ』でも日本の物が買えるのはありがたい。『オファァオークション』のようなオークションサイトよりはずっとマシなんじゃないだろうか。
最後の『
俺はメリカリで買い物を試してみることにした。
「メリカリ……」
自信は無かったが、ためらいがちに声に出してみるとステータスボードが消えて、メリカリらしきボードが現れた。
目の前のその画面には色々な商品が溢れていた。
俺はフリーマーケットサイトのこと侮っていたかも知れない。一般の人たちが売りたい物を持ち寄って、そこで売っている様子は俺が思っていた以上の賑やかさだった。
「俺の預金額が表示されてる!?」
画面の左隅には使用可能な金額が表示されていた。親切設計だ。
俺が日本にいた頃に銀行に預けていたお金と、財布にいれていた額の合計なのだろう。総額は82万7700円だった。
「最初の購入はこれで何とかなりそうだ」
いよいよ次は実際に何か物を購入してみなければ。
「最初は水だな。飲料水で検索してみるか」
検索バーがあったのでそこに『飲料水』と入力して検索してみた。
ボードは大きめのタブレットサイズで、画面下からキーボードが出てきたので入力も可能だった。
検索した結果は
『
『濃厚カボス液(原液)』
『レモンのハチミツ漬け(ビン入り)』
の3つがいくつもズラリと並んでいた。
調べ方が悪かったのかもしれない。
それに出品者が出さなければ、定期的に入荷するものでもない。飲料水を出品している人がたまたまいない時だったのかも。
「仕方がない。『ドリンク』で検索してみよう」
検索した結果は
『ドリンク無料券』
『コーヒー(粉末)』
『カロペス(原液)』
『コラーゲン栄養ドリンク(100ml)』
という結果だった。
紙と粉末は論外だ。カロペスは乳酸飲料だが水で薄める前の原液だった。これもこのままでは飲めない。
コラーゲン栄養ドリンクがかろうじて飲める。助かった。とりあえず購入しておこう。
栄養ドリンクを購入すると、目の前に小さなビンが3本ポロリと転がった。箱も無いのか。
栄養ドリンクを飲みながら考えた。
金さえあれば最初から何でも買えるが、俺はメリカリしか使用できない可能性がある。
ひょっとして俺のスキル制限はこれのことではないだろうか。
初っぱなからこれはキツいが、そうすると他の能力は制限されていないと思われる。希望を捨てるのはまだ早い。
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