食べられるスキルでオレが放浪用携帯メシ 強いモンスターを従えて楽に戦おうとしたらそいつの食事がオレだった
お前の水夫
第1話 鉄骨の下敷きから異世界へ
俺の名は
会社でいろんなことを飲み下しながら頑張る、普通だが目立たない勤め人である。
俺の人生で評価出来そうなことと言えば、10キロメートル泳げること、1回だけ営業成績が社内で9位になったこと、育てたパキラ(観葉植物)が2メートルを越えたこと、それから建設現場で鉄骨の下敷きになりそうな小学生を救い、自分が身代わりになったことだろう。
死ぬ前の意識がある時に、カバンを背負った少年の
「死に方は立派だと私も思う。うちの上司たちも自己犠牲の精神は高く評価している。我々としてはその行為に対して、それなりの対価をあなたに払う必要があると判断する」
俺が今いるのは寒くも暑くもない快適な空間だ。周囲全体が暗く光源も無いのだが、不思議なことに自分の手や身体と目の前に浮いている爬虫類のことはよく見えた。
非常識な光景と存在、そして自分の記憶から予想したことを俺は確認してみることにした。
「すいません。私が死んだということはあなたは神様でしょうか?」
目の前に浮いているトカゲさんに俺は聞いてみた。
トカゲさんは頭から茎が生えていて8枚の葉っぱがそこから出ていた。
サンショウウオよりも丸い体型で目がかわいい。全身はキラキラした青い鱗で包まれ、粒子のような光が周囲を舞っていた。
「それは私の今の上司だ。私はここの転生用窓口の受付をしているマンマデヒクという。
実はまだ研修期間中なのだが、判断に迷った場合は神にエスカレすることが出来るので安心してほしい」
(※エスカレ:エスカレーションの略。上司に報告や相談をして判断や指示を仰ぐこと)
そのマンマデヒクさんの声は落ち着きのあるアルトボイスだった。会社の総務課に1人は欲しいタイプだ。しかも新人らしい。
「それはつまり、私はどこかに転生出来るということでしょうか? それなら今の姿と年齢のままで移動することも出来ますか? それから言語理解やネットショッピングのような能力をもらえるのでしょうか?」
実は俺には会社はもちろん家族にも言えない好きな物があった。
それは『猛烈スキルで異世界放浪グルメ』というWeb小説で、アニメ化も書籍化も映画化もされ、ベストセラーになった作品だ。
俺はその主人公の様に活躍出来るかもしれないのだ。
「あなたには具体的な希望があるのだな。私では判断できない内容が早くも出てきてしまった。他に希望があれば先に教えていただけないだろうか。全部まとめて上司に確認してくる」
新人の受付担当では難しい内容だったようだ。
俺は強いモンスターを餌付けして使役する能力、異世界でネットショッピングが使用出来る能力、その世界で使用される言葉を理解し話すための能力、出来れば身長を15センチ伸ばしてもらって転移したいことを改めて伝えた。
希望内容の確認が終わると、受付係であるマンマデヒク
体感で30秒後ぐらいだろうか。彼女はそこに突然現れるようにして戻ってきた。
「お待たせして申し訳ない。希望内容の確認が取れた。まことに言いにくいのであるが、全部の希望をかなえるとなると、あなたに仕事をしてもらう必要があるとのことだ。
今回の亡くなり方だと希望に対して少々足りないものがあるのだ」
希望が5つなのは欲張り過ぎたらしい。
トカゲさんは申し訳なさそうにしていたが、俺の方が恐縮してしまう。
「仕事ですか? 内容を聞かせて下さい。もし何とかなりそうならその仕事をやります」
全部の希望がかなうのであれば神の使命を帯びるのも悪いことではないかもしれない。
「では仕事について説明させてもらおう。ある世界の惑星の生態系を破壊しようとしている存在がいるのだ。与えられた能力を使ってそれを防ぐことがあなたの仕事になる。どうだろうか?」
「やります! 少なくともそれが可能な能力が与えられるわけですよね。それなら私に出来ると思います」
仕事内容を聞いた俺はその話に飛びついた。
聞いたところ相手は絶滅系の魔王のような存在に思えた。胸熱な展開というヤツではないだろうか。
「やってくれるのか。それでは先ほど聞いた内容で異世界転移の届け出をしておこう。
一応伝えておくと、能力については効果が限定されているものがある。
身長の方は規定でプラス10センチメートルが限界値なのだ。ご理解いただきたい。
途中で取り消しは
新人のマンマデヒクさんは丁寧に説明してくれた。
俺は特に最後の部分で感動してしまった。滅多に死なないとか、かなりすごい能力ではないだろうか。
効果の限定というのは言語理解が及ぶのが現代語のみで古代語はダメとかだと思う。ネットショッピングは購入可能な物が徐々に増えるタイプなのだろう。
身長の方は10センチプラスで充分だ。
こうして希望の通った俺は申請手続きの後、使命と共に異世界へと送り出された。
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