第12話
~4階への階段を上り中~
ミシェル・ハイントを葬ったあと、すぐに次の階への階段を見つけた僕たちは少し間を開けて歩いていた。僕はナーシンの事など気にせずズンズンと階段を進んでいく。
いや、正確にはナーシンの事しか考えてないのだが気にしないフリをしている。
「イミリア……ちょっとペースを落とさないか?流石にそんな調子で歩いたら疲れ……」
「別に!僕って歩くの好きだって言ってなかったっけ!?あれえぇぇ忘れちゃったのかなぁ!?それにこんなことでへこたれる僕ではないんですけど!!?」
僕は嫌味たっぷりに返答する。
「そ、そうか。すまない」
ナーシンは飼い主に叱られた子犬のように俯く。
くっ!ナーシンに謝らせてしまった…!別にナーシンは悪くないのに……でもっ!
僕はミシェルに言っていたナーシンの言葉を思い出す。
《好きな人の事を考えていた》
《愛は強いってことだ》
つまりこれって……これって故郷にくっっっそ美人な彼女か恋人か婚約者がいる流れじゃねぇぇぇぇか!!いや知ってたけど!こんな美青年がモテないわけないし恋人の1匹や2匹いるに決まってんだよ!!純真無垢なフリしやがってたからくそっ騙されたわ!!ちくしょおぉぉぉぉ!!
イライラはするものの誰も悪くない為、この心情をどうこうすることも出来ず、それがまたイライラを呼ぶ状況になっていた。
「イミリア…何をそんなに怒っているんだ…?」
「怒ってませんけどぉ!?いや別に!君が誰を好きとか、誰を思ってるとかそんなの僕にはまっっったくもって無関係ですし!?興味無いですし!ええ!」
「好き?何故そんなこと急に……」
ナーシンはしばし無言になり、何かを必死に考えているようである。
ふんっ、悩め悩め!この僕の気持ちを分からないようじゃ故郷の恋人となんてやっていけないに決まってら!
僕はナーシンのことを置いて先を進む。
程なくしてナーシンが勢いよく階段を駆け上がってくる音がした。
「待ってくれイミリア……!誤解をさせてしまった!すまない!あれはああいう意味の言葉じゃないんだ……!」
その言葉に僕は立ち止まる。少しだけ先を進んでいた僕は階段の高さによりナーシンを見下ろす。
「なんだい?何が違うって言うんだい?」
僕は腕を組み、できるだけ冷静に聞く。立場的にはまるで浮気している彼氏に事情聴取する彼女のようだ。
この僕に一体どんなご立派な言い訳をする気なんだ?
「俺がさっき言ったことをきにしてるんだろう?愛がどうとか……そういうつもりで言った訳じゃないんだ……」
「じゃあどういうつもりだったのかな?」
「それは……すまない、誤解を招いてしまった」
「ふーん……」
つまり自分に恋人とかは居ないと言いたいと……
「別にイミリアの事が好きとかそういうことでは無いんだ……!」
へー、ふーんそうなん………
「は?」
「イミリアはきっと俺がイミリアのことを言ったと思ったんだろう?すまない、勘違いさせてしまって……」
「はあああああああ!!!?」
何そのイケメンムーブは!?いくら自分が高身長激優激強カッコ可愛いイケメンだからってなんなのその言い草はあああ!?つまりなに!?『ごめんよ、俺イケメンだからさ、好きにさせちゃったよね?でも俺本命いるしw』みたいなこと言いたいわけ!?ふざけんなよ恋愛においては僕の方が格上のプロなんだよ調子こくんじゃないよこの青二才があああああ!!!
先程の怒りなど無かったに等しいほど憤慨し、わなわなと肩を震わせる僕。そしてそれを見てより慌てるナーシン。傍から見れば完全に修羅場である。
「大丈夫かイミリア!?頭からから湯気が出ているが……」
「僕は……」
「な、なんだ?」
「僕は……」
すううっと息を肺にめいいっぱい送り、言葉を吐き出す。
「僕は確かに年増(500歳越え)だし君にとっては(今のところ)魅力が足りてないし過去に助けられなかったドミノだかドナルドだか知らない犬と同じくらいの位置づけの感じだし好きになられたら困るようなやつだろうけどね!?でもそんな言い方はどうかと思うなぁ!?僕は僕なりに君のこと思って行動してるんだけどなぁ!?そりゃあ故郷の彼女だか恋人だかの方が若くて可愛くて大切で……そりゃ……」
なんだか自分で自分の言ってることが虚しくて段々涙が出てきた。よく良く考えればそりゃそうだ。こんなところで少しばかり一緒に過ごした見ず知らずの男より故郷で長く一緒にいた女の方が大事に決まってる。それを今更知らされたからといって怒る義理は自分にはどこにもない。どう考えても間違ってるのは自分の方だ。
「ううっ……グズっ……」
いきなり怒りをぶちまけたかと思えば泣き出したりして、僕ってこんなに情緒不安定なメンヘラだったっけ……?もうなんなんだよ……こんなんじゃナーシンもきっと愛想尽かして…………。
ナーシンの方を見ようと顔を上げた瞬間だった。
ナーシンの顔が近づいたかと思うと急に口と口が触れた。つまりはキスしたのだ。
「!!!!!?」
状況が飲み込めず僕は硬直する。
「すまなかったイミリア……色々と勘違いさせてしまって……俺も勘違いをしていた。イミリアは俺が3階でイミリアに告白したと思ってそれを気持ち悪がって怒っているのかと思っていた……けど違ったんだな」
「え、あ、そうだったのかい!?」
「ちなみに俺に恋人は居ない」
「え!いないの!?じゃあ愛とか好きな人とかはなんだったんだい!?」
「それは……やはり騎士見習いである以上愛する国民のことを考えていたんだ。『好きな人々』という意味で……」
なんだ、特定の誰かのことでは無かったのか……。それはそれで良かっ……
「いやでもなんでそこでキスになるんだい!!?」
まさかナーシンは泣いてる人を見るとキスしたくなるそういう癖のキス魔なのでは……
「それは…勘違いをさせてしまって泣かせてしまい……つまり貴方を傷つけてしまったからだ」
「き、君は傷つけたら誰彼構わずキスするのかい!?」
「違う!こんなことしたのは初めてだ!」
ナーシンもなんだか顔が赤い。もしかしてファーストキスだったのか?
「なんでそんな大事なことを僕に……」
「分からない……でも多分、貴方に示したかったのかもしれない……貴方はちゃんと……俺の大事な人だって……」
ナーシンは耳まで真っ赤にしている。それを見て僕はより一層真っ赤になってるのではないかと思うほど顔が熱い。
こここここれこそ本当に告白なのでは!?こんなウブで可愛い告白は何百年ぶり……いや待て待て、ナーシンがここまで来てそんな思いで言ってるか微妙なところだな。僕が唐突にヒスって気が動転してそんなことしたのかもしれないし。でもまあ……
「君の気持ちは嬉しいよ……ありがとう。あと僕も死ぬほど勘違いしてごめん。君に冷たく当たってしまったのも詫びるよ」
「イミリアは何も悪くない。俺が悪いんだ」
「じゃあ、おあいこってことで」
えへへ、と僕が笑うとナーシンも控えめに笑ってくれた。
「さてと、じゃあ次に進もうか!」
「ああ、そうだな」
僕らは横並びで次の階へ進んだ。
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