第21話 真実の告白と玲奈の選択

玲奈は、NDSラボの調査室で前田奈緒美と向かい合って座っていた。部屋の中は、外の喧騒から切り離されたような静けさに包まれていたが、二人の間には緊張した空気が漂っていた。奈緒美は、これから伝える内容が玲奈の人生を大きく揺るがすことを知っていた。それでも、玲奈が真実を知ることは必要だと感じていた。


「玲奈、今日はお母さんが残したビデオメッセージの最後の部分を見せるわ。これまでいろいろと調べてきたけれど、このメッセージがあなたにとって本当に重要な意味を持つと思うの。」奈緒美は慎重に言葉を選びながら、玲奈に話しかけた。


玲奈は緊張した面持ちで小さく頷いた。彼女の手は膝の上でぎゅっと握られ、何かを必死にこらえるように見えた。奈緒美はリモコンを手に取り、モニターに映像を映し出した。


画面には、少し震える手でカメラを操作する紗絵子の姿が映し出された。彼女の表情にはどこか悲しみが漂っており、目の下には深いクマが刻まれていた。それでも、彼女はカメラに向かって微笑もうと努めていた。


「玲奈、このメッセージを見ている頃には、私はもうこの世にいないでしょう…ごめんね、本当にごめんね。あなたにどうしても伝えなければならないことがあるの。でも、どんなに考えても、どう言えばいいのかがわからないの。」紗絵子の声は震え、涙が瞳に溜まり始めた。


「私があなたを愛していることは、誰よりも知っていると思う。でも、その愛があまりにも強すぎて、私は大きな過ちを犯してしまった。玲奈、あなたは…私の本当の娘じゃないの。」


その言葉を聞いた瞬間、玲奈の表情は凍りついた。彼女は画面に映る母親の姿を見つめながら、次第に自分の呼吸が速くなっていくのを感じた。奈緒美は、玲奈がその衝撃にどう反応するかを慎重に見守った。


「あなたを守るために、私はずっと嘘をついてきた。あなたが赤ちゃんだった頃、本当は別の家族に育てられるはずだったの。でも、私はあなたを連れて逃げてしまった。あの時、私は心のバランスを崩していて、あなたを手放すことができなかった。あの家族からあなたを奪ってしまったこと…それが私の罪。」


紗絵子の涙が頬を伝い、声は次第に震えを増していった。「玲奈、どうか私を許して。あなたが大きくなるにつれて、私は何度もこの事実を伝えなければと思ったけど、できなかった。あなたが私を母親だと思ってくれていることが、どれだけ私にとって救いだったか、言葉にできないほどの幸せだったから。」


奈緒美は玲奈の方をそっと見つめた。玲奈の目は画面に釘付けで、涙が静かに頬を伝っていた。その姿を見て、奈緒美は玲奈が紗絵子の言葉を深く受け止めていることを理解した。


「このビデオを残すことを決めたのは、あなたに本当のことを伝えたかったから。でも、どうしても言葉にできなかった。だから、ビデオに残すしかなかったの。玲奈、私の大きな秘密はこれよ。そして、私が最後にあなたに伝えたいのは、どうかあなたが本当の家族を見つけて、幸せになってほしいということ。」


紗絵子の言葉が途切れると、画面は静かにフェードアウトし、真っ暗になった。その瞬間、玲奈は堰を切ったように涙をこぼし始めた。彼女の体は震え、口元を手で押さえながら、声を上げて泣くことをこらえようとしていた。


奈緒美は、玲奈の隣に静かに座り、彼女が落ち着くのを待った。しばらくの間、部屋には玲奈の嗚咽だけが響き渡った。やがて、玲奈は少しずつ呼吸を整え、涙を拭きながら奈緒美に視線を向けた。


「奈緒美さん…私はどうすればいいの?」玲奈の声はかすれ、弱々しかったが、その中には決意の色も感じられた。


奈緒美は玲奈の手を優しく握り返し、深く息を吸った。「玲奈、今はとても辛いと思うけど、これが真実よ。お母さんは、あなたを守りたくて、どんなに罪を背負っても愛し続けた。それは本当のこと。それに変わりはないわ。」


玲奈は小さく頷きながら、再び涙が溢れるのをこらえていた。「お母さんのこと、許せる気がする。でも、本当の家族がいるって…その人たちは、私をどう思っているのかな。」


奈緒美は玲奈の心の中にある不安を感じ取りながら、穏やかに答えた。「その答えを見つけるために、これから私たちが一緒に進んでいくのよ。お母さんが残した贈り物は、真実を知る勇気と、それを乗り越える力なの。玲奈、あなたは決して一人じゃない。」


玲奈はその言葉に力を得たように、しっかりと奈緒美の手を握り返した。彼女の目には、新たな決意が宿りつつあった。これから自分が進むべき道は険しいかもしれないが、それでも前に進むしかない。


奈緒美は玲奈の成長を見守る覚悟を再確認し、彼女と共に次の一歩を踏み出す決意を固めた。紗絵子の残した「大きな秘密」を解き明かした今、玲奈が新たな人生を歩み出すためのサポートを続けることが奈緒美の使命となった。

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