第20話 UDIラボとの協力

玲奈との対話を終えた奈緒美は、彼女をNDSラボの待合室に残し、オフィスの奥へと足を運んだ。紗絵子が残した「大きな秘密」の手がかりを集めるためには、さらなる科学的調査が必要だと直感していた。そして、そのためにはUDIラボの協力が不可欠だと感じていた。


奈緒美は、自分のデスクに戻るとすぐに電話を取り、UDIラボの法医学者、三澄ミコトに連絡を取った。ミコトとは以前にも協力して事件を解決したことがあり、彼女の鋭い洞察力と冷静な判断を信頼していた。電話口で、奈緒美は状況を簡潔に説明し、紗絵子の遺体や遺品のさらなる分析を依頼した。


「わかった、奈緒美。私たちでできる限り調べるよ」と、ミコトの声はいつもと同じ冷静さを保ちながらも、どこか重みがあった。紗絵子の死に関する疑念と、玲奈の不安を解消するために全力を尽くすというミコトの決意が伝わってきた。


数時間後、UDIラボのラボ内では、緊張感の漂う雰囲気の中、ミコトと彼女のチームが精密な分析を開始していた。紗絵子の遺体から採取されたサンプルや、彼女の遺品、特に未完成のビデオメッセージや日記が重点的に調査されることとなった。


「まず、体内から検出された異物を分析しよう」とミコトは指示を出し、最新の機器を使用して詳細な成分分析を行った。結果として、紗絵子の体内には微量ながら特殊な薬物が残されていることが確認された。この薬物は、がん治療には使用されないものであり、むしろ鎮静作用を持つものだった。


「これは…おそらく、紗絵子さんが自分で摂取した可能性が高い。でも、なぜ彼女はこの薬を?」とミコトは疑問を抱いた。


その疑問に対する答えを見つけるために、チームは次に、紗絵子の残したビデオメッセージと日記の内容に焦点を当てた。ビデオメッセージの解析を進めると、映像の一部に紗絵子が何度も言いかけては言葉を詰まらせるシーンがあることに気づいた。


「ここが重要なポイントだね」とミコトは映像を一時停止し、問題の箇所を拡大して再生した。「彼女は明らかに何かを言いたかった…でも、ためらってる。それが何かを示唆しているはず。」


ミコトの指示の下、映像に映る紗絵子の表情や声のトーンを細かく分析した結果、彼女が最後に伝えたかったことが何であったのか、ぼんやりと見え始めた。それは、彼女が玲奈に対して伝えなければならない「大きな秘密」であり、彼女自身がそれをどれほど重く捉えていたかが映像からも伝わってきた。


次に、日記の解析に移る。日記には、玲奈が幼少期を過ごした時期の詳細が記されていたが、そこには紗絵子が常に「罪」と向き合いながら生きていたことが垣間見える。「この罪は、いつか私を追い詰めるだろう…」という言葉が、何度も繰り返されていた。


「これが彼女の『大きな秘密』か…」とミコトは独り言のように呟きながら、日記のページをめくった。ページには、紗絵子が過去に玲奈をどうやって育ててきたか、彼女の罪の意識がどれほど深かったかが綴られていた。そして、その罪の影響で、玲奈をどれほど深く愛しながらも、彼女を守りたいという気持ちがどれだけ強かったかが伝わってきた。


分析結果が揃うと、ミコトは奈緒美に連絡を入れ、調査の進捗を報告した。電話越しに聞くミコトの声は、いつも以上に真剣だった。


「奈緒美、紗絵子さんが何かを隠していたのは間違いないよ。彼女は玲奈さんに伝えたいことがあった…でも、それがどうしても言えなかった。それが罪の意識によるものだとすれば、かなりの重荷だったはず。そして、この薬物が彼女の死にどう関係しているのか、もう少し掘り下げる必要がある。」


奈緒美は、ミコトの報告を受けて深く考え込んだ。「ありがとう、ミコト。やっぱり、お母さんが残した『大きな秘密』が何なのかを、さらに詳しく調べる必要があるわね。そして、それが玲奈にどう関係しているのかも。」


ミコトは静かに同意し、「そうだね。私たちも引き続き協力するよ。真実を明らかにしないと、玲奈さんも前に進めないでしょうから」と答えた。


電話を切った奈緒美は、ミコトから得た情報を頭の中で整理しながら、次の手を考えていた。紗絵子の「大きな秘密」とは一体何なのか。それが玲奈にどのような影響を与えるのか。奈緒美の心には、玲奈を守りたいという強い決意が燃え上がっていた。


奈緒美はオフィスを出て、待合室で待っている玲奈のもとに戻ると、彼女に穏やかに話しかけた。「玲奈、私たちは少しずつお母さんが残したものの真相に近づいているわ。でも、まだ分からないことがたくさんある。あなたも一緒に考えてくれる?」


玲奈は奈緒美の言葉に小さく頷いた。「はい、奈緒美さん。私も一緒にお母さんのことを知りたいです。どんなことでも…」


奈緒美は微笑み、玲奈に手を差し伸べた。「大丈夫、玲奈。あなたは一人じゃない。私たちが一緒に解決していきましょう。」


玲奈の不安な表情が少しだけ和らぎ、奈緒美の手を握り返した。その瞬間、奈緒美は紗絵子が残した「大きな秘密」を必ず解き明かすという使命感を再確認した。そして、その真実を玲奈に伝えることが、彼女の未来を切り開く鍵になると確信した。

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