第19話 玲奈の告白と奈緒美の決意

NDSラボの静かなオフィスに差し込む昼下がりの陽光は、まるで時間が止まっているかのように穏やかだった。しかし、その静けさとは対照的に、前田奈緒美の心の中では複雑な思考が交錯していた。紗絵子の遺品から発見された手がかり、ビデオメッセージ、そして彼女が残した「大きな秘密」。すべてが未解決のパズルのように、奈緒美の前に立ちはだかっていた。


そんな時、オフィスのドアがそっとノックされ、奈緒美は現実に引き戻された。「どうぞ」と声をかけると、ドアの隙間から玲奈が顔を覗かせた。玲奈の目には不安が浮かび、どこか憔悴した様子が見て取れた。


「玲奈、どうぞ入って」と奈緒美は優しく促す。玲奈は少しためらいながらも、ゆっくりと奈緒美のデスクの前の椅子に腰を下ろした。


「お久しぶりです、奈緒美さん…」玲奈の声は弱々しく、か細いものだった。奈緒美はその声に、玲奈がどれほどの重荷を背負っているかを察することができた。


「久しぶりね、玲奈。大変だったでしょう…お母さんが急に亡くなってしまって、いろいろと気持ちの整理がつかないんじゃないかしら?」奈緒美はできるだけ穏やかに言葉を選んだ。彼女の前には、母親を失ったばかりの少女がいるのだ。


玲奈は小さく頷き、目を伏せた。「そうです…。でも、それだけじゃないんです。お母さんが最後に言ったことが…どうしても気になって仕方がなくて。」


「最後に言ったこと?」奈緒美は玲奈の言葉に耳を傾ける。これはきっと重要な手掛かりになるだろう、と直感した。


「はい…お母さんが亡くなる直前に、私に『残したものがある』って言ったんです。でも、その後、何も見つからなくて…。私、何を探せばいいのかわからなくて。」玲奈は言葉を絞り出すように話し続けた。「それに、お母さんが私に何か大きな秘密を隠していたんじゃないかって、そんな気がして…」


奈緒美は玲奈の不安を解消するために、丁寧に説明を始めた。「玲奈、君が感じている不安は無理もないわ。お母さんが亡くなる前に何かを伝えたかったのなら、その『残したもの』を見つけ出すことが私たちの役目よ。」


玲奈は奈緒美の言葉に少しだけ安堵したように見えたが、すぐにその表情は曇った。「奈緒美さん、私…本当はずっと前からお母さんが何か隠しているんじゃないかって、薄々感じていたんです。でも、何も言えなくて…怖かったんです。もし、それが私にとって大切なことだったらって。」


奈緒美は玲奈の心情を理解しながら、慎重に言葉を選んだ。「玲奈、あなたが感じていることはとても大切なことよ。お母さんが何かを隠していたとしても、それがあなたに害を与えるためではなく、守るためだった可能性が高いわ。」


玲奈は奈緒美の目を見つめ、その言葉に耳を傾けた。「でも、もしその秘密が私に関することで、お母さんがそれを最後まで言えなかったとしたら…私はどうしたらいいんでしょう?」


奈緒美は玲奈の不安を和らげるために、優しく微笑んだ。「その答えを見つけるために、私たちがいるのよ。お母さんが何を残したのか、そしてその秘密が何だったのかを一緒に探していきましょう。玲奈、あなたは一人じゃないわ。」


玲奈はその言葉に救われたように、少しだけ肩の力を抜いた。「ありがとうございます、奈緒美さん。私、怖いけど…お母さんが残したものをちゃんと知りたいです。」


奈緒美は力強く頷き、玲奈の手をそっと握った。「大丈夫よ、玲奈。一緒に真実を見つけて、あなたが次の一歩を踏み出せるようにしましょう。」


その瞬間、奈緒美の心の中に固い決意が芽生えた。紗絵子が残した「大きな秘密」を解き明かし、玲奈が未来を恐れずに歩むための道を示す。それが彼女の使命であり、何としても果たさなければならない責務だと。


玲奈の存在が、これからの調査の中心になることは間違いなかった。彼女が背負っているものがどれほど重いかを理解しつつも、奈緒美はその重荷を共に担う覚悟を決めた。紗絵子の残した手掛かりが、どのような真実を暴くのか、それはまだ誰にも分からない。しかし、奈緒美の心には確信があった。どんな真実であっても、玲奈にとってその答えは必要不可欠なものだということを。

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