第13話 崩壊する静寂と命がけの戦い

廃棄施設の薄暗い通路は、重い静寂に包まれていた。足音が響き渡るたびに、その静けさが不気味さを増していく。奈緒美、伊吹、志摩、高橋の4人は、慎重に音の発生源に向かって進んでいた。


「何かある…」伊吹は低くつぶやき、周囲の壁に目を走らせた。彼の勘は鋭く、警戒心が強まっていた。


「油断するな。相手は準備万端で待ち受けているかもしれない。」志摩もまた、銃を構えながら、いつでも対応できるように身構えていた。


奈緒美は高橋とともに、施設内の構造を確認しながら、データが保管されていると推測される部屋に向かって進んでいた。彼女の手には、施設の設計図が握られており、それに基づいて次の行動を決めていた。


「ここを左に曲がれば、データが保存されていると推測される部屋に到達できるはず。」奈緒美は囁くように言い、全員に進行方向を示した。


「了解。」伊吹と志摩がその指示に従い、慎重に進んでいった。


その時、突然、施設内のライトが不意に点滅し始めた。異常な明滅が続く中、奈緒美たちは立ち止まり、何が起こっているのかを確認しようとした。


「これは…一体?」高橋が驚いた声を出し、辺りを見回した。


「罠かもしれない。」志摩は冷静に言い放ち、ライトが再び点灯するのを待った。


しかし、次の瞬間、施設全体が激しい振動に襲われた。床が揺れ、壁がきしむ音が響き渡る。全員がバランスを崩しそうになりながらも、必死に踏みとどまった。


「地震か?」伊吹が叫んだ。


「いや、これは…意図的な爆破だ!」奈緒美は即座に状況を把握し、全員に警告した。「この施設が自壊するように仕掛けられている!」


「何だと?!」高橋が驚愕の表情を見せた。


「急いで脱出しなければならない。でも、データは必ず回収する!」奈緒美は冷静に指示を出し、さらに奥へと進もうとした。


「奈緒美さん、それは危険すぎます!」高橋が止めようとしたが、奈緒美は一瞬だけ振り返り、彼に強い眼差しを向けた。


「ここで止めなければ、また被害者が出る。それは私たちの責任よ。」奈緒美の言葉には確固たる決意が込められていた。


「わかった。俺たちも一緒に行く。」伊吹が決意を固め、奈緒美の後に続いた。


「高橋、外に戻って応援を呼べ。時間がない。」志摩が的確に指示を出し、高橋もすぐにその命令に従った。


全員が分担して行動を開始し、施設内の崩壊が進む中、データの回収と脱出を同時に行おうとしていた。


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廃棄施設の深部に進むにつれて、振動はますます激しくなり、天井からは破片が落ちてくるようになった。だが、奈緒美たちは決して足を止めることなく、データが保存されていると推測される部屋に到達した。


「ここだ。」奈緒美が扉を開け、中に入ると、そこにはいくつものコンピュータが並んでおり、重要なデータが保存されていることが一目で分かった。


「よし、回収を急ぐぞ!」伊吹がそう叫び、データを取り出すための機材を準備し始めた。


「私がデータをコピーする。伊吹、周囲の警戒をお願い。」奈緒美は素早くキーボードを叩き、データのコピーを開始した。


「了解!志摩さん、外の様子は?」伊吹が問いかけると、志摩は施設の外部を警戒しながら答えた。


「外にはまだ誰もいないが、爆発の音で敵が集まってくるかもしれない。早く済ませろ。」志摩の声には焦りが混じっていた。


「もう少し…これで完了よ!」奈緒美がデータのコピーを終えた瞬間、施設全体が大きく揺れ、警報が一斉に鳴り響いた。


「時間がない!今すぐ脱出しよう!」志摩が叫び、全員が急いで部屋を後にした。


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施設内は完全に崩壊の寸前だった。廊下は崩れ落ち、天井からは鉄骨が突き出し、今にも落ちてきそうな状態だった。奈緒美たちは全力で走り抜け、外への出口を目指した。


「こっちだ!」伊吹が先頭に立ち、出口に続く通路を指し示した。その瞬間、大きな爆発音が施設内に響き渡り、全員がその衝撃に倒れ込みそうになった。


「急げ!まだ間に合う!」志摩が叫び、全員が最後の力を振り絞って走った。


ついに、彼らは施設の外に飛び出し、背後で施設が崩壊するのを目の当たりにした。奈緒美は息を切らしながら、コピーしたデータを握りしめ、その場に座り込んだ。


「間に合った…」彼女は小さく呟き、安堵のため息を漏らした。


「よくやった、奈緒美さん。」伊吹が彼女の肩に手を置き、感謝の意を込めて言った。


「これで終わりじゃないわ。これからが本当の戦いよ。」奈緒美は再び立ち上がり、力強い眼差しを未来に向けた。

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