第8話 新たな脅威と次なる一手
夜が更けていくにつれ、NDSラボのオフィス内は、さらなる緊張感に包まれていた。前田奈緒美は、目の前に広がるデータと対峙しながら、被害者が巻き込まれた陰謀の全貌を解明しようと必死だった。ナノマテリアルに関する詳細が明らかになるにつれ、彼女の中である確信が生まれつつあった。それは、この事件が単なる個人の犠牲にとどまらない、広範囲に及ぶ危険な計画の一環であるということだった。
奈緒美は、デスクの上に広げられた書類とパソコンの画面を交互に見つめながら、次なる手を考えていた。彼女の思考は一瞬たりとも止まることなく、情報を組み立てていた。
「極秘プロジェクト、ナノマテリアル、人体実験…」奈緒美は口に出して呟いた。「そして、被害者はその計画の犠牲者に過ぎないのか。」
その時、高橋剛がオフィスのドアをノックし、慎重に入ってきた。彼の手には、最新のデータ解析結果が記されたタブレットが握られていた。
「奈緒美さん、新たなデータが出てきました。」高橋は淡々と報告したが、その目には緊張が宿っていた。
「何が分かったの?」奈緒美は顔を上げ、高橋の持っているタブレットを注視した。
「企業の内部ネットワークから、さらに暗号化された通信ログを復元しました。その中に、他にも複数の人体実験が行われていた痕跡があります。しかも、その実験の対象は国内外を問わず、多岐にわたっています。」高橋はタブレットを操作し、画面に表示されたデータを見せた。
奈緒美はそのデータを見て、息を呑んだ。そこには、複数の被験者リストと共に、彼らが置かれた状況、そして実験の進行状況が細かく記録されていた。
「これだけの規模の実験が行われていたというのに、誰も気づかなかったのか…」奈緒美は信じられない思いでデータをスクロールし続けた。「この計画を進めた連中は、被験者の命を何だと思っているの?」
「さらに、このデータによると、次なる実験が数日以内に行われる予定です。」高橋は続けた。「場所はまだ特定されていませんが、被験者たちが現在どこにいるのかが手がかりになるかもしれません。」
「これは急がなければならないわ。」奈緒美はタブレットを高橋に返し、立ち上がった。「すぐに神谷さんにも連絡を取って、法的な手段を講じる必要があるわ。この計画を阻止しなければならない。」
「了解しました。すぐに準備します。」高橋は再び冷静に答え、オフィスを出て行った。
奈緒美はその場に立ち尽くし、一度深く息をついた。彼女の心の中には、次なる行動への決意が燃え上がっていた。この計画を止めなければ、さらなる犠牲者が出てしまう。彼女はそのことを強く自覚していた。
その時、オフィスの電話が鳴り響いた。奈緒美が受話器を取ると、耳に飛び込んできたのは、三澄ミコトの緊張した声だった。
「奈緒美、そちらの状況はどう?」
「こちらは企業の極秘プロジェクトが明らかになりつつあるわ。」奈緒美はすぐに応答した。「でも、まだ全貌が掴めていない。そちらはどう?」
「解剖結果をさらに分析したところ、このナノマテリアルには特殊な成分が含まれていたことが分かったわ。」ミコトの声には明らかな焦りが混じっていた。「それは、人間の神経系に影響を与える可能性があるものよ。もしこれが実際に作用していたとすれば、被害者は強烈な苦痛を伴っていたはず。」
「それが真実だとすれば…この実験はただの研究ではなく、拷問に等しいわ。」奈緒美の手が受話器を握り締めた。「私たちが何としても止めなければならない。」
「その通り。私はこのデータをさらに分析し、より具体的な証拠を掴むつもりよ。」ミコトの声には決意がこもっていた。「ただ、この成分がどこから来たのか、そしてそれが他にどのような影響を及ぼすのかを解明する必要がある。」
「ありがとう、ミコト。あなたの協力がなければ、この事件の真相には辿り着けなかった。」奈緒美は感謝の気持ちを込めて答えた。
「まだ終わりじゃないわ。」ミコトは静かに言った。「これからが本当の戦いよ。」
電話を切った奈緒美は、再びデスクに座り、考えを巡らせた。企業の極秘プロジェクト、人体実験、そしてナノマテリアルによる危険な実験。全てが一つに繋がっていたが、その全貌はまだ完全には明らかになっていない。
「私たちがこの計画を止めなければ、犠牲者はさらに増える…」奈緒美は自分に言い聞かせるように呟いた。「時間はない。今すぐに動かなければ。」
彼女は再び立ち上がり、オフィスの窓から外を見渡した。夜の闇が都市を包み込み、静寂が広がっていた。しかし、その静けさの裏には、計り知れない危機が迫っていることを、奈緒美は痛感していた。
彼女はその場で決意を固め、必要な準備を進めるために動き出した。これまでの調査が全て終わる前に、何としてでも次の実験を阻止し、真実を暴かなければならない。
奈緒美の胸の内には、静かな怒りと強い使命感が渦巻いていた。彼女はその感情を胸に秘め、これから始まる最後の戦いに向けて、全力を尽くす覚悟を決めていた。
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