第9話 新たな脅威とUDIラボの異変

夜も更け、都市が静けさを取り戻している中、UDIラボ内にはいつもと異なる緊張感が漂っていた。三澄ミコトは解剖室でデータの解析を続けていたが、どこか心が落ち着かない。不穏な予感が胸の奥に引っかかっていた。さっき聞こえた警報音はすぐに止んだが、それでもラボの中に残る不安定な空気は消えない。


「何か変だな…」ミコトはぼそりと呟き、再びデータに集中しようとした。その時、解剖室のドアが勢いよく開き、東海林夕子が顔を真っ青にして駆け込んできた。


「ミコト、大変だよ!セキュリティシステムが一時的にダウンした!」夕子の声は焦燥感に満ちていた。


「えっ、セキュリティがダウン?どうしてそんなことが…」ミコトは驚いて夕子の言葉を遮った。


「わかんない。もしかしたら外部からの攻撃かも。でもその間に、誰かがラボに侵入した可能性があるんだ。」夕子は息を切らしながら言った。


「侵入者が…」ミコトの胸に冷たいものが走った。もしその侵入者がナノマテリアルに関するデータや証拠を狙っていたら、非常に危険な事態になる。


「他のメンバーには知らせた?」ミコトはすぐに夕子に尋ねた。


「もちろん。みんなに警戒するように伝えたけど、まだ不審者は見つかってない。でも…解剖室のデータが一時的にアクセスされてたみたいなんだ。」夕子の顔は不安でいっぱいだった。


「どのデータがアクセスされたの?」ミコトはすぐに核心に迫った。


「まだ調査中だけど、たぶん被害者の解剖データとナノマテリアルの情報だと思う。」夕子の言葉に、ミコトはますます緊張感を強めた。


「ナノマテリアルのデータが狙われた…」ミコトは一瞬考え込んだが、すぐに次の行動に移った。「夕子、すぐにすべてのデータをバックアップして。外部に漏れないように厳重に保管しなきゃ。何があっても、この情報を守らなきゃいけない。」


「わかった、すぐやる!」夕子はミコトの指示を受けてすぐに動き出した。


ミコトは解剖台に並べられた臓器や採取したサンプルを見つめた。もしこの情報が企業側に渡れば、真相を解明するための重要な証拠が失われるだけでなく、さらに大きな危険が迫るだろう。


「ここで諦めるわけにはいかない…」ミコトは自分に言い聞かせ、サンプルを再度確認した。すべての証拠がここに揃っている。今は時間との勝負だと、彼女は感じていた。


その時、中堂系が解剖室に入ってきた。彼もまた外の異変に気づき、すぐに駆けつけてきたようだった。


「ミコト、何があった?」中堂は鋭い目で状況を把握しようとした。


「ラボに侵入者があった可能性がある。ナノマテリアルのデータが狙われたみたい。」ミコトは短く説明した。


「やっぱり…これがどれだけ危険なことか、連中は既に知ってるってことか。」中堂は冷静に言葉を紡いだ。「俺たちも急がないとな。この証拠を守り抜いて、全ての真実を明らかにしなきゃならない。」


「そうね。このまま見過ごすわけにはいかないわ。」ミコトは強く頷き、中堂とともにデータの確認と保護に取り掛かった。


解剖室には再び静けさが戻ったが、その静寂の中には、張り詰めた緊張感と危機感が漂っていた。彼らは一刻も早く証拠を守り、次の行動に移らなければならなかった。

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