第6話 企業との対決
NDSラボのオフィスには、緊張した空気が漂っていた。前田奈緒美は、パソコンのモニターに映し出された情報をじっと見つめていた。先ほど、中谷彩が分析したナノマテリアルのデータと、高橋剛が復元した通信ログの内容が、彼女の目の前に揃っていた。そのどれもが、彼女が直感的に感じていたものを裏付ける証拠となりつつあった。
「このナノマテリアルが人体に与える影響はまだ完全には分からないけれど、確実に何らかのプロジェクトの一環だった…それも、極秘裏に進められていたものね。」奈緒美は自分に言い聞かせるように呟いた。
その時、奈緒美の携帯が振動し、画面に「神谷悠」の名前が表示された。NDSラボの法務アドバイザーである神谷は、企業との交渉や法律問題に精通しており、奈緒美が信頼を寄せる人物だった。
「奈緒美、調査はどうなっている?」神谷の声が電話越しに響いた。
「進展はあるけれど、まだ謎が多いわ。特に、このナノマテリアルの出所を突き止める必要があるわね。」奈緒美は、これまでの調査結果を手短に説明した。
「それについてだが…企業の内部文書を入手した。これが全てを繋げる鍵になるかもしれない。」神谷の言葉に、奈緒美の心が一瞬高鳴った。
「どういうこと?」奈緒美はモニターから目を離し、身を乗り出した。
「内部文書によると、ある大手企業が極秘裏にナノマテリアルの研究を行っていた。そして、その研究が人体実験を含むものであったことが示唆されている。」神谷の声は冷静だったが、その内容は衝撃的だった。
「人体実験…そんなことが本当に?」奈緒美の眉間に皺が寄った。彼女はこれまで多くの不審死を扱ってきたが、ここまで明確に企業が関与しているケースは初めてだった。
「この企業は、法の網をくぐり抜けてきた。だが、今回の被害者がその犠牲になった可能性は高い。君たちの調査とこの文書を照らし合わせれば、全貌が見えてくるはずだ。」神谷は強調した。
「わかった。すぐにその文書を送ってくれる?」奈緒美は冷静を保ちながらも、その裏に隠された怒りを感じていた。無関係な人間が、企業の利益のために犠牲になっている事実に対して、彼女の正義感が燃え上がっていた。
「今すぐ送る。気をつけて調査を進めてくれ。これ以上の犠牲は避けなければならない。」神谷の言葉に奈緒美は短く頷き、電話を切った。
数分後、奈緒美のパソコンに神谷からのメールが届き、彼女はすぐに添付された文書に目を通した。そこには、企業の研究プロジェクトの概要が記されており、その中にナノマテリアルの開発と、それを人体に投与した実験の詳細が記載されていた。
「これは…間違いない。被害者はこのプロジェクトの犠牲者だった。」奈緒美は、自分の推測が的中したことを確認したが、それは彼女にとって何の喜びでもなかった。ただ、さらなる行動を起こすための動機が強まるだけだった。
奈緒美はすぐに高橋剛に連絡を取った。「高橋、急いでこの企業の関連データを解析して。私たちが探しているものがそこにあるはずよ。」
「了解しました。すぐに取り掛かります。」高橋は即座に反応し、データの解析を開始した。
奈緒美は次に中谷彩に連絡を取った。「彩、被害者のナノマテリアルについての分析結果がもう少し進展したら教えて。私たちの手元にある情報を合わせれば、企業の企みを暴けるかもしれない。」
「わかったわ。すぐに結果を送る。」彩の冷静な声が電話越しに響き、奈緒美は再び調査に没頭した。
オフィスの静けさの中、奈緒美は自分の心に強く誓った。この事件の真相を暴き、犠牲者の無念を晴らすために、どんな手段を使ってでも、この巨大企業と対峙する準備が整いつつあった。
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