第4話 デジタル証拠の追跡
NDSラボのオフィスに戻った前田奈緒美は、冷たいコンクリートの床を歩きながら、心の中に募る焦燥感を抑えようとしていた。廃工場での遺体発見と三澄ミコトからの報告が、彼女の頭の中で重くのしかかっていた。解剖からは、肝臓に微細な異物が見つかり、化学物質の可能性が高いことが示された。だが、その異物が何であり、どのように被害者の体内に侵入したのか、まだ明確な答えは出ていない。
奈緒美はデスクに座ると、ノートパソコンを開き、すぐに高橋剛へメッセージを送った。彼はNDSラボのデジタルフォレンジックの専門家であり、彼女の右腕でもあった。高橋は、冷静で理論的な性格を持ち、事件のデジタル痕跡を洗い出すことに卓越したスキルを持っていた。
「高橋、遺体の解剖が終わったわ。重要な手掛かりは見つかったけれど、まだ全貌が掴めていない。被害者のデジタル履歴を解析して、何か異常がないか確認してほしい。」奈緒美はキーボードを叩きながら指示を送った。
「了解しました。すぐに作業を開始します。」高橋からの返信は迅速で、彼の徹底的な仕事ぶりが窺えた。
高橋はすぐに被害者の携帯電話、ノートパソコン、そしてSNSアカウントにアクセスし、デジタル痕跡を探し始めた。彼はまず、被害者が使用していたすべてのデバイスを調べ、データの復元と解析を開始した。通常、これには数時間から数日を要するが、高橋はその卓越したスキルで迅速にデータを抽出していった。
「ここに何かがある…」高橋は画面を見つめ、削除されたデータの断片に目を凝らした。データの多くはすでに削除され、通常の方法では復元不可能な状態だったが、高橋は特殊な復元ソフトウェアを用い、隠された痕跡を次々と蘇らせた。
「この削除されたデータ、何かを隠そうとしている…」彼は呟き、さらにデータの深層にアクセスを試みた。被害者のパソコンには、暗号化されたフォルダがいくつか存在していたが、その中には特に厳重な暗号が施された通信ログが含まれていた。
「この通信ログ…被害者が何か重大な情報をやり取りしていた可能性がある。」高橋は、そのログの解読に取り掛かった。彼の手元で暗号解読ソフトが動作し、徐々にログの内容が明らかになっていった。
「奈緒美さん、被害者が死の直前に、ある人物と暗号化された通信を行っていた痕跡が見つかりました。」高橋は手を止めて、奈緒美に報告を入れた。「その通信相手は、ある企業の内部告発者のようです。」
「内部告発者…」奈緒美の脳裏に、一つの可能性が浮かび上がった。「その企業の名前は?」
「まだ特定には至っていませんが、通信ログの一部に見覚えのあるコードが使われています。それは、数年前に違法な研究で問題になった企業のものと一致します。」高橋は冷静に答えた。
「やはり…何か大きな陰謀が関わっているようね。」奈緒美は心の中で確信した。被害者がその企業に関与し、何らかの重要な情報を握っていた可能性が高い。そして、その情報を守るために命を狙われたのかもしれない。
「さらに調査を進めて、その企業が何を隠そうとしているのか突き止める必要があります。特に、暗号化された通信の内容を解読し、その全貌を明らかにすることが急務です。」奈緒美は高橋に指示を続けた。
「了解です。すぐに解読を進めます。」高橋は再び作業に没頭した。
奈緒美はデスクに戻り、三澄ミコトからの報告を見返した。遺体に残された微細な異物と、この暗号化された通信ログ――二つの証拠が一つの点に収束しつつあることを感じ取った。だが、その全貌はまだ霧の中に隠されている。
「この事件の核心に触れるには、まだ多くの謎を解き明かさなければならない。」奈緒美は自分に言い聞かせるように呟き、次の手を考え始めた。
その時、高橋からの新たなメッセージが届いた。「奈緒美さん、解読が進みました。どうやら被害者は、ある極秘プロジェクトに関わっていたようです。詳細はまだ不明ですが、そのプロジェクトが今回の事件に深く関わっている可能性があります。」
「極秘プロジェクト…」奈緒美の眉が険しくなった。「そのプロジェクトが何であれ、私たちが明らかにしなければならない。」
奈緒美は深く息をつき、再び画面に目を戻した。この事件は、思った以上に深い闇を抱えている。その闇を照らし出すためには、NDSラボとUDIラボの連携が不可欠であり、何よりも被害者の無念を晴らすことが彼女の使命であった。
「真実を追い求めることが、私たちの仕事。」奈緒美は自分に言い聞かせるように呟き、再び調査に集中した。彼女は、この事件を解決するために、全力を尽くす覚悟を決めていた。
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