第3話 UDIラボへの依頼
一方、都市の喧騒から少し離れた場所に位置するUDIラボでは、静けさの中に緊張感が漂っていた。UDIラボの法医解剖医、三澄ミコトは、薄明かりの差し込む解剖室で、次の解剖の準備を整えていた。彼女は普段通り落ち着いた表情を保っていたが、その瞳には鋭い集中力が宿っていた。
「次の遺体が到着しました。警察からの依頼で、NDSラボも関与しているようです。」東海林夕子が報告しながら解剖室に入ってきた。
「NDSラボか…前田奈緒美が関わっているのね。」ミコトは短く頷き、遺体の詳細情報を確認した。NDSラボが関わっているということは、通常の事件ではないことを意味していた。ミコトはその直感を大事にしていた。
「自然死に見えるけれど、何か裏がある…奈緒美がそう言ってたわね。」ミコトは解剖台に横たわる遺体に目を向けた。若い男性の遺体は、外傷がなく一見すると安らかに眠っているかのようだったが、その表情にはどこか不自然な硬さがあった。
「彼女が何かを感じ取ったなら、間違いないわ。」ミコトは深く息を吸い込み、手袋をはめた。彼女はまず、遺体の外観を注意深く観察し始めた。遺体の肌には変色もなく、死後硬直も進んでいない。しかし、彼女の鋭い目は、首元に微かに残された針の跡を見逃さなかった。
「ここね…」ミコトは囁くように言い、細心の注意を払ってその部分を調べた。針の跡は極めて小さく、通常の解剖では見落とされかねないほどだった。それが示唆するものは、何か特殊な薬物が使用された可能性だった。
「この針の跡、非常に小さい。通常の注射針じゃないわね。薬物の使用を疑うべきかもしれない。」ミコトはそう結論づけ、次に遺体を解剖する準備に取り掛かった。
解剖室に静寂が戻る中、ミコトは遺体の胸部を慎重に開き、内部の状態を確認していった。彼女の手つきは一分の狂いもなく、解剖用のメスが滑らかに皮膚を切り裂き、臓器へと到達した。
「心臓には異常なし…内臓も見たところ問題はない。だが…」彼女は解剖を続けながら、異常な点を探し続けた。遺体の内部には、外見からは推測できない痕跡が残されているかもしれない。
やがて、彼女は肝臓の一部に微細な異物を発見した。それは目にはほとんど見えないほどの小さな粒子で、通常の解剖では見過ごされてしまうようなものであった。しかし、ミコトはそれがただの異物ではないと直感した。
「この粒子…化学物質かもしれない。」ミコトはその粒子を慎重に採取し、分析を行うために別の容器に入れた。彼女は遺体全体を調査し、他にも異物がないかを確認したが、それ以上の異常は見当たらなかった。
「何かが隠されている…けれど、まだ全貌が掴めない。」ミコトは解剖を終え、慎重に遺体を閉じながら思考を巡らせた。彼女は直感的に、この事件が単なる事故や病死ではないと感じていた。だが、その全容を明らかにするためには、NDSラボとの更なる連携が必要だった。
ミコトは手袋を外し、解剖台から少し離れたところで、すぐに電話を手に取った。画面に表示されたのは、NDSラボの前田奈緒美の名前だった。
「奈緒美、解剖は終わったわ。肝臓に微細な異物を発見したけど、これが何なのかはまだ分からない。化学物質の可能性が高いけれど、詳細な分析が必要ね。」
「ありがとう、ミコト。その情報は非常に重要だわ。私たちの側でも、被害者のデジタル履歴を解析している。何か手掛かりが見つかるかもしれない。」奈緒美の声には、ミコトへの信頼と共に、事件解決に向けた強い意志が込められていた。
「こちらでも、できる限りのことをするわ。」ミコトはそう言って電話を切り、遺体から採取した異物の分析を行うために、すぐさま検査室へと向かった。
「これは始まりに過ぎないわ。真実が何であれ、私たちが解明しなければならない。」彼女は一人つぶやきながら、再び集中力を高めて次の作業に取り掛かる。
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